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#5-1 第五話 「驚」

はい、更新できました。

ではいつも通り、ごゆっくりどうぞ。

 どうやら僕は随分と寝込んでいたらしい。


 ロクに記憶も残っていない。


 精々思い出せるのが、ソフィと別れて自室に逃げ込んだ時くらいまでだ。


 そういえば、珍妙なこともあるもんだ。


 「僕、あの時人生で長らく振りに涙を流したな」


 元々悲しいなんていう感情なんて、表現上理解していても、自分にとって一体どうなっているのかが分からない。


 あの少量の質量を垂れ流す行為や人体の構造が分からない。


 かつてどれだけの泣き顔を見ただろう、どれだけの嘆きを聴いただろう……それだというのに、僕は一切分からない。


 自分も一度涙を流してはいたが……む。


 ――悲しみ、とはなんだ?


    ◇ ◇ ◇


 「エリィ、エリィ?」


 V・Rを付けながら歩く。ついさっき退院した病院からの帰路についていたのだ。元々エリィは友人が作ったものだが、その性能を買われて研究部と共に開発に勤しんでいる。所有権自体は元々響也が持っているため、研究部がエリィの整備(メンテナンス)改善(アップデート)を行う場合は確実に響也に自動メールで届く。それが履歴に残っていない以上、それらの可能性はゼロに近い。

 だとしたら、考えられることは一つぐらいしかない。


 「アイツ、またソフィのところに行ってるんだな」


 近い過去の記憶が曖昧なこと、曜日が感覚的にズレていること、自分の身体のこと――聞きたいことは山ほどあった。

 それはそれとして。


 「そういえばソフィは彼女なのに、これといってそれらしいことしてないな」


 ふと重要な存在である相棒(パートナー)のことを思い出し、口元を少し歪ませる。きっかけこそ納得いかないものの、ソフィに対しては好感を持っていることは確か。そんな女性と付き合えるのは、男子としてこの上なく嬉しいものである。

 そんな彼女だ、今度一緒に外出にでも行くべきだなと少し先の話を考えていた。


 ところで今思えば不思議なことがある。


 (元々潜入任務に二人も必要だろうか?)


 現実的に考えれば、響也に与えられたベックは小回りの効く至近距離、中、近距離の万能型だ。普通はこういうものは単独で扱うに相応しい武器であろう。それがなんでもう一人、しかも“ロシアから”配属されたのだろうか。


 まさか、僕は信頼されていないのか。


 そんな不安感が思考を曇らせる。

 そんなはずはない、と心で否定しながら歩みを進めた。



 「あれ、鍵が空いてる? まぁいいか、ただいまー」


 誰もいないであろう自宅のドアに手をかけた瞬間の違和感。勿論普段の外出は鍵を閉めているのだが、勢いをつければ転んでしまいそうなほどに、すんなりとドアは開いた。


 「おかえり」


 誰もいないことは承知の上であった帰宅時の決まり文句に返答が。しかもその声には妙に聞き覚えがある……というより、すぐ正面に立っていた。


 「遅かったな、響也」

 「……」

 「あぁ! ちょ、閉めるな!!」


 なんとも反応しづらく、ついドアを閉めてしまった。薄いドア越しに情けない声が聞こえ、今度は一気に勢いよく開け放つ。


 「なんで親父がいるんだよッ!?」

 「ふおッ!?」


 ガンッ!


 「――あれ?」


 痛々しい音と共に、目の前で肉体が転がり落ちた。その肉体は額を抑えながら左右に転がり、悶絶していた。足元に響いた鈍い衝撃が妙に生々しい。


 「あぁ、ごめん。悪気はなかった」

 「ぐぅううう……これは反抗期か……ッ!?」

 「いや、だから悪気はないんだって。というかずっとドアノブ持ってた親父が悪いだろ、あれは」


 涙をうっすらと浮かべながら睨む姿は、なんだか幼く見えた。


 このマンションは場所こそ目につかないものの、鍵の技術は最先端だった。最近は登録されたV・Rを所持していなければ開かないという、徹底的に空き巣などの犯罪防止に努めた鍵だ。元々V・Rは個々に何億、何兆という電波の波長パターンがあるのだが、その識別を行うのはセンサーによるものだ。その鍵を付けたドアの半径一メートル半以内に二十度から四十五度の熱を持つ生命反応が見られた場合、すぐにその人間が特定少数のV・Rを持っており、ちゃんと登録されている電波波長パターンを所持しているかどうかを識別する。

 正直これは響也にとっては面白くないシステムだった。勿論そう簡単に波長データが奪われることもないが、仮に事故で体温が下がった、発熱を起こした、V・Rが紛失したなどとが起きたとする。そうなれば、助かる人間も助からないのではないか。

 当然響也も子供ではないため、しょうがないとは思っている。扱いやすければそれに便乗して悪さをする輩がいる、逆にこのドアの鍵のようにプロテクトを強化すれば、もしもの状態が恐ろしい。きっとこれは苦渋の選択であったろうと自らを納得させた。


 「んで、なんで親父がここにいるのさ」


 思考が変な方向に脱線しかけたので頭を振って気を入れ替える。癖だろうか、自然と頭を掻く動作(モーション)に移る。そもそも、なんでここに中将ともあろうお方がいるのだろう。


 「サボり」

 「よし親父そのまま転がってろ、今すぐ木刀持ってくるから」

 「じょ、冗談に決まっているだろう! お前が留守のあいだ、念には念を入れておこうと思って留守番してやっていたのだ!!」


 答えは単純明快、(いさぎよ)すぎてつい衝動的に攻撃を仕掛けたくなった。確か部屋の隅に置いてあったはず。それを取りに行こうとして中に入りかけたところで、未だに立ち上がらない貞喜が足にすがりついた。ここで響也が何か持っていたら、まるで押収でもしているかのような絵だった。

 どことなく違和感を感じ、早めにちょっと変な質問を返してみる。


 「本音は?」

 「ご相伴に預かろうかなと」

 「木刀はぬるいな、包丁持ってこよう」

 「殺人予告ッ!?」


 こうかは ばつぐんだ! あいては ほんねをもらした!

 なんてふざけたくなるくらいまで素直にことが進み、驚愕を通り越して殺意が芽生えた。果たして親に対してそういった暴力行為に走るのはどうかとも思うのだが。


 「なんで現役仕事人が部下に奢られるなんて状況(シチュエーション)を作らなければならないんだよ!?」

 「金なくなった」

 「やっぱり拳で撲殺といこうか」

 「すまん! 悪乗りして悪かった!!」


 しかしながら、息子が親を殺害するというのは犯罪行為そのものである。口ではそう脅すものの、ちゃんと自重は頭に入っている響也であった。


 「まぁいいよ。そういえば自分が倒れる前に勝手に本部あけてたよな。どうしていなかったんだ?」

 「出張」

 「了解、ちょっと本部に出張履歴聞いてみる」

 「悪い嘘だやめろください頼む……ッ!」


 いい加減この父親にうんざりしてきた響也だった。一体どれだけふざけたら気が済むのだろう、この親父は。呆れすぎてボディランゲージまで自然に付加していた。


 「いい加減話さないと縛り上げて本部に突き出してサボった分の時間で無理矢理働かせるぞ」

 「全EWSP軍事的開発会議に参加していた」

 「なんでそれを言わなかったんだ……!」

 「んで、金が給料日手前で底を尽き――いや、響也の手料理を食べたくなったんだ」

 「ここにきて誤魔化しは見苦しいぞ、我が親ながら」


 結局は冗談であった話が全部本当のことらしかった。響也にとって、ここまで金の管理ができない人間は初めてであった。




 「その国際会議でどんなことを話し合ったのですか?」


 夕食も終わり、風呂なども済ませた後に対面する形で貞喜と座っていた。なんとなく気になっていた会議についての話を聞くことにした。勿論こういう時には敬語で話すべきだろう、少しばかり違和感を覚えながらも敬語で対応した。


 「うむ、最近プロテクト・アーマーというものが完成したことによる攻撃方法の改善や、ベックの軽量化についての話をしていたのだ」


 全く耳に覚えのない単語に困惑する。簡単にだが、今後の戦闘に関して何かしらの変更があることだけは理解した。エリィがいれば、大体の話は読み込めるかもしれない。普段から彼女を頼っている分、自分は彼女をすぐ頼るのではなく、自分の頭でしっかり考えるクセを付けるべきだろう。


 「プロテクト・アーマー? 攻撃方法改善? もっと分かりやすくお願いします」

 「大丈夫だ、全てはこのハードに詰まっている。念の為にロックがかかっているが、エリィがいれば即座に開く。今いるだろう」

 「……」


 テーブルの上に四角く薄い黒色のハードが置かれる。どうやらエリィがいれば見られるらしい。


 「おい、どうした」


 エリィがいれば……。


 「今日は何曜日でしょうか」

 「金曜日だ」


 エリィが……。


 「……来週だなんて」

 「……何があったのだ」


 こんな時にいないなんて。


 「まぁ、少なくとも来週には見れますよ」

 「……そう願いたいな」


 少し前に考えていたソフィとの外出を決定する結果となったのは言うまでもない。


    ◇ ◇ ◇


 生徒会

 ・執行部     普通科 『生徒の代表として働く組織』

          情報科 『普通科の補助と機械的な支援』

 ・風紀管理部   普通科 『生徒の服装や規律違反取締り』

          情報科 『校内の情報体管理』

 ・情報部     普通科 『生徒の活動や先生の重要情報などの伝達全般』

          情報科 『V・Rへの電子メール連絡作成』


 「なぁこんな感じかしら」


 心音がどこからか運んできたホワイトボードにスラスラとペンで生徒会の組織図を描いてゆく。ホワイトボードは未だにピシッと整った列のまま動かない生徒たちの横に位置している。勿論、ソフィや小夜はそれに対面している形だが。


 (実に居心地が悪い)


 実質命令を聞くのは良いが、ソフィにとってジッと見られるのは気分が良くない。それに対し、小夜は案外リラックスしているようで、実質必要こそないものの、ソフィは小夜が少し羨ましかった。


 「今ここにこうして集まっているのは、その生徒会メンバーよ。左から順に執行部、風紀管理部、情報部。因みに会長は三年で執行部がなるの。情報部の三年生とは選挙で決めるんだけど、今年は私の勝ちってことで。副会長は情報科の執行部の三年生なの。じゃあ時間を取るのもアレだし――副会長の綾瀬に挨拶してもらおうかしら?」

 「了解です」


 先程基準となっていた綾瀬という女子生徒が前に出る。特に突出したものはなく、でもしっかりと出ているところは出ていた。ハイレベルでもローレベルでもなく、女らしい体つき。そしてちゃんと手入れがされているであろう、紅いセミロングの美しい髪。いかにも強気そうな、軽くつり上がった眼、整った顔立ち。


 「凄い美人……」


 小夜が驚くのも無理はない。


 「本当ね……」


 ソフィですら感嘆の声を漏らすほどであるからだ。ゆっくりと二人の前に移動し、綾瀬は数歩離れたところで止まり、口を開いた。


 「ようこそ、優秀な生徒さん」


 ニコッ、と微笑を浮かべる彼女の顔は、とても不思議な魅力があった。声も艶があり、言うなれば。


 「綾瀬は学年一のクールビューティーよ」

 「会長、その愛称はやめてくださいと言っているではありませんか……」


 そう溜息をつく仕草や声音が、やはりぴったりだと思うソフィと小夜であった。

はい、ここに来て新キャラです!

こういうお姉さんキャラ書いてみたかったんですよね!

なんとなく最近調子が戻ってきたので、これからじゃんじゃん書きますよー!


ではまた次の更新で。

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