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#4-1 第四話 「悲」

皆さんどうも、やっと更新できました。

今日は私の誕生日です。

祝いとしてコメントくれると嬉しいです。


では、どうぞ。

 翌日の午前八時半を過ぎたAクラス教室に、ボケっと外の散った桜を眺めていたソフィが座っていた。何か恋煩いに似た、儚げなその姿に二人のクラスメイトが話かけてきた。


 「よう」

 「おはよう、ソフィちゃん」

 「小夜ちゃん、タケル……おはよう」


 いつもと変わらない生活、きっと小夜とタケルはそんな風に過ごしているのだろう。ソフィにはそう感じた。

 普通に過ごせることの幸せ、それは素晴らしいものだが、今のソフィにはそれが実に疎ましいものとなっていた。


 「ソフィちゃん、どうしたの? すごく暗い顔してるけど」

 「そんな酷い?」

 「あぁ、すげぇ元気なさそうだぜ。何かあったか――って、響也のことか」

 「――うん、まぁ。私は大丈夫、すぐに元気になるよ」

 「タケル、ちょっとこっち来て?」

 「ぐぇ、首がッ!?」


 小夜がタケルの制服のネクタイを引っ張って廊下へ引っ張り出す。その姿を終始見た後にまた外へ目をやった。


 (なんだろう、この胸のモヤモヤ)


 暗いような、明るいような……意味の分からない感情が支配する心に、困惑していた。なんとなく、ただ呆然と、意図しているわけでもなく外の景色に目をやっていた。



 「タケル、アンタなんて酷いこと平気な顔で言うの?」

 「へ? 酷いこと……なんか言ったか?」


 タケルが疑問符を浮かべた瞬間、頬に平たいものが当たる感触がした。


 「ってぇ! なんでビンタすんだよ!?」

 「ソフィちゃんがどれだけ響也君のことを心配してるか分かる!? あんなに思いつめてる感じがしてるのにそんなことバッサリ言っちゃうなんて最低よ、このバカ!」

 「小夜、ちゃん?」


 丁度怒鳴ったその時、廊下の騒がしさに気付いたソフィが廊下に顔を出して、小夜とタケルのことを見つめていた。


 「あ、ソフィちゃん……これは、その、えと」

 「分かってる。タケル君」

 「お、おう! さっきは悪かった!」

 「うん、気にしないでいいよ。ただ、さ」

 「「何?」」


 ソフィが何か照れたように頬を掻きながら周りに視線を動かしていた。それに釣られてタケルと小夜も視線を


 「みんなの視線が集まってるんだけど、恥ずかしくないの?」

 「「……げ」」


 周囲には既に好奇心の目で満たされていた。あまりの人の多さに呆気に二人は赤面した。


 この後に先生が通りかかり、生徒の人垣は消えた。


    ◇ ◇ ◇


 「ソフィ、校舎内最上階にウィルスです」

 「……」

 「えー。ソフィ、聞いてますか?」

 「……え。あ、何?」


 放課後の――いわゆるパトロール中に反応が起こる。それに対処するためにエリィがソフィに伝えようとするも、いまいちEWSPとしての雰囲気が抜けていることに気付いた。


 「ソフィ、響也のことで悩んでる?」

 「――うん。エリィにはなんでもお見通し、だね」


 ひと呼吸。エリィは毎回ここで人間味を持つ。それはつまり負の感情、本心を表している。ソフィは辺りを覆う空気が妙に寒く感じた。


 「馬鹿なこと言わないでほしいものです」

 「――え?」

 「あなたはなんのためにEWSPに所属したのですか?」

 「それは……私のように悲しい子供を作らないために」

 「じゃああなたは自分に甘ちゃんなのですね」

 「え、なんで……!」

 「自分と同じようなに子供を作らないためにEWSPに所属した、じゃあどうして今はたった一人の人間のためにこんなに腑抜けた姿を晒しているんです?」

 「……」

 「正直に言います。あなたは自分勝手です」


 開かれた口から放たれたのは、深くソフィの心を突き刺す非難の言葉だった。


 外は軽く赤みを帯びてきた。

 それはまるで今のソフィの感情のようにゆっくりと、確実に上りつめる感情のようだった。


 「――なんで」

 「はい?」

 「何でエリィはそんなに冷淡なの? 響也はあんなに悲しい立場に――」

 「彼は悲しみを理解できません。なら気にかけてもしょうがないです。大事なのは響也一人の命より、そのほかの民間人、つまり大多数の命です。EWSPは民間人の盾なんですから、EWSP隊員一人ずつ気にかけているのは時間の無駄です」

 「だからどうしてそんなに冷酷なのよ!」


 あまりの酷いエリィの言い様にじわじわとソフィの目に涙が貯まる。その姿に、レンズに映るAIは背を向けた。


 「所詮プログラムですから、データ上の利益不利益を判断するしかないのです。さぁ、早く行きますよ」

 「……」


 全くもって生きているような感じのしない、随分淡白な台詞(セリフ)。それだというのにいちいちエリィが取る行動は妙に人間味を帯びていて――形容するなら、矛盾の塊のようであった。


 (私だって、勿論気になりますけど――そんなことを考えさせるこのプログラムに登録されていない感情がなんなのか分からないのですよ)


 しかし、その裏では情報体(データ)としてはおかしいなにかが芽生えていた。




 その日に現れたウィルスは人型だったが、前回のように盾を装備していないがために即座に決着がついた。


 撃破した後はソフィもエリィも全く口を聞こうとはしなかった。


    ◇ ◇ ◇


 「なぁ」

 「……」

 「おい、聞いてんのか?」

 「……」

 「悪かったって」

 「ボクに謝ったってしょうがないじゃん!」


 放課後の武道場入口で二人の生徒が言い争っていた。

 「なんだ」と事情も知らない他の生徒がチラチラ視線をその二人にやるも、既に訳が分からない関係として名の知れたメンバーであることを視認すると、呆れたように溜息をついて自身の作業に戻って行った。

 それぐらいまで響也たち四人は有名で、理解し難い存在へと進化していた。


 因みに高嶺学園の体育館は二階に配置されており、その下にピロティーと呼ばれる空間、そしてその空間の一部に武道場入口が作られている。


 「だったら機嫌直してくれよ、頼むから」

 「どうしてよ」

 「う、う~ん……言いづらいんだが」

 「いいから早く言いなさいよ!」


 小夜に対して何かを言おうとするも、顔を少し赤らめて後頭部を掻き、なかなか言い出そうとしないタケル、その姿に小夜は苛々を募らせるばかりだった。


 「響也やソフィちゃんがあんな状況なんだから、お前までそんな態度じゃ、なんつーか寂しいじゃんかよ」

 「え?」

 「いいいや、あれだあれ! 仲のいい奴が二人も休みでいなくなって、お前しかいなくなったのに、お前まで話せないような雰囲気っていうのはぼっちになる以外に考えられないだろ!?」

 「……へ~」

 「な、なんだよ」

 「タケルって案外可愛いとこあるじゃない」

 「なっ!?」


 意外なことを言われてついついクスクスと笑い出す小夜。その反応に顔を真っ赤にして反論の言葉を探すタケル。


 「俺が可愛いだと!? そういうお前の方が――あれ、お前いつの間にウェーブかけたんだ?」

 「……」

 「おい、どうし」

 「気付くの遅すぎ!」

 「ぐぁ!」


 本日二度目の快音が響く。

 あまりにきれいな音が響き、一瞬で周りの視線が一点に集中する。それを一切気にせずに小夜は去っていった。


 「いてて、似合ってるって言いそびれちまった」


 頬をさすりながら、タケルは去ってゆく小夜の背中を呆然と眺めていた。


    ◇ ◇ ◇


 「――うぅ、ここは……天井が白……病院?」

 「む。響也、起きたか」

 「親父?」


 同日深夜、たった一個の小さなランプが点っている暗い病院内で予定時間より早く響也が回復し、上半身を起こす。響也の目はいつもの黒に戻っていた。


 「僕はなんで病院に……()ぅっ!?」

 「バカもの、いいから休んでろ。今度説明してやるから」

 「う、了解」

 「ほらお休み」

 「あぁ……お休み」


 頭痛を訴えたところに貞喜が再度の休息を促した。なんの心配もせずに、響也は痛みを忘れるために意識を投げ出した。


 【意識が回復したことについてをドクターに伝達致します。一体あの赤い機械は何ですか】

 「アンドロイドか……ふん、貴様が知る必要はない」

 【しかし、私にはドクターに患者様の状態の変化を知らせる義務が】

 「貴様には関係ない」

 【もう一度申し上げます、私には患者様の】

 「黙っていてもらおう」


 貞喜がV・Rを装着してあるアプリを起動させる。

 その瞬間に、アンドロイドは再起動して義務をリセット――つまりは先程の「義務」に当てはまることが起きていなかった時の状態に強制的に戻されたのだ。


 「ふむ……エリィに試すつもりが、コイツに使う羽目になるとはな。む、通信か」


 通信相手は研究部。

 通話回線を開くと、眼前には見知った人間のデフォルトが映った。


 『ティ中将、貴重なデータありがとうございます』

 「あぁ。結果はどうだ小泉」

 『えっとですね、脳死に対するワクチンのようなものなのですが、人間の前頭葉に当たる部分が修正できるかもしれません。これは良い収穫です。ところで……』

 「どうした」

 『――どうして、このような濃密なデータが取れたのですか? しかも感情を(つかさど)る前頭葉の部分のみ……私には不思議でしょうがありません』

 「――気にするな。他の情報は?」

 『あ、はい。ケイ少尉とソフィーヤ准尉のおかげでいい戦闘データが集められました。その結果、ある程度の攻撃に耐えうる[プロテクト・アーマー]が作成できました』

 「プロテクト・アーマー……性能はどうだ?」

 『エリィによって送られてきたデータを基に、新型ウィルスと似た構造の装甲をもったスーツのようなものです。仮に敵が射撃を持つウィルスになった場合を考慮し、打たれた部分だけが自動で消える仕様になっています。装甲一枚一枚はベックの弾丸のようなフォルダとなっているんです』

 「ほう、そうかそうか。質問だが、そのプロテクト・アーマー同士が接触した場合はどうなる」

 『大丈夫です、問題ありません。フォルダにある統一コードを使用していて、そのコードが認識されていればそういう事故は起きないんです』

 「なるほど、よく設計されている」

 『これでケイ少尉に“初めて搭載された格闘使用ベック”が生きてくるはずですよ!』

 「あぁ、そうだな。今後も研究部の活躍に期待している」

 『ありがとうございます、では』


 接続が切れると共に、深い溜息が出る。


 ――脳死状態の改善の兆しが見えてきた。


 それはあの赤い機械のおかげだ。

 しかし、やはり貞喜には心に引っかかるものがあった。


 (響也は、実験台――か)


 貞喜の目の前にいる人物が、なぜか機械のように見えていた。

誕生日につき一話まるごと更新しますので真面目なアトガキは#4-3にて!

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