表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/18

◇偽りの領地へ③

さて、どうしたものか。

 ガタガタと、整備されていない道をひたすら走る質素な馬車。


 あの突然の私の命令から数刻後、私は質素と言うよりかは、簡素な馬車の乗客となり、劣悪な道の上で揺られていた。


 エディエス家の所領地イルファドールは、王都レナから距離で言えば、馬車で10日程かかる所にある。


 それ故に、一度領地に引込んでしまっては、最新の王都の情報は入ってはこないが、逆に言えば正体がばれる危険性も減り、要らない詮索もされずに済むと思い当たり、内心で喜べたのはほんの僅かだった。




『どうしても行くと仰るの?ローズ。』


『君は私達が嫌いなのかね?』


『そうよ、お姉様。どうしてイルファドールになんて・・・。』


 私が領地に連れて行く事を命じたのを何処で聞きつけたのか、仮初の家族は私を引き留めようとした。

 

 その家族の引き留めようとする瞳には、一種の焦りにも似た光が宿っていて、私はそれを見て、ますます行かなければならないと思った。


『嫌いだなんて・・・、そんな事はありえませんわ?』


『なら、どうして・・・。』


 泣き縋る家族に偽りの笑みを浮かべた顔を向け、私は殊更それらしく言葉を紡いだ。


『私、結婚後はその家に尽くすと決めていたんです。だから、行かせて下さいな。私の我儘は聞いてはもらえませんか?』


 全てを偽れば、その後で苦しくなる。

 だから、少しの真実と嘘を混ぜて。


 私の演技は完璧だったはずだった。


 お金の掛る社交界より、領地へ行きたい。

 家族は愛してるけど、だからこそ、その家族をもっと好きになるように領地に行ってみたい。


 少しの我儘と、如何にも無知そうな微笑み。


 その笑顔に絆されたのか、僅かな逡巡の後、仕方なさそうに仮初の家族達は、私を漸く引き留める事を諦めてくれた。


 これで良い、これで彼の地へ行けると、安堵していた私に、あの人達はならば、と、交換条件を付けてきた。


「何をお考えですか、ローザ様」


 淡々とした、色のない声に私は己の思考から舞い戻り、微笑みを浮かべた。


「いいえ?何も考えてなかったわ。そうね、強いて上げるのなら、お庭の事かしら。」


 本当はお前の事だと、喉まで言葉がせり上がってきていた。


(私は信用されてないのか・・・。)


 当然だろう。

 私はあくまであの家の人間から見れば他家の娘で、政略結婚で嫁いできた娘。


 目の前にいる侍女を連れて行かなければ、領地に行くことは認められないと言った伯爵家の家族の言葉に、私は仕方なくその条件を呑むしかなかった。


 が。


「本当にそれだけでございますか?」


 私の偽りの思考に気付いたのだろうか、彼女は偽りを許さない、真実を見抜こうと、私をその冷めた瞳で見つめてくる。


(やりずらい。)


 彼女は優秀だった。シュリには及ばないが、それでもかなり優秀なのは認めざるを得ない。


(惜しいな。)


 違う出会い方でさえあれば、彼女も自分の手駒に、シュリのように引き込めただろうに。


 相手の呼吸、身体の動き、視線の配り方。

 間諜にはもってこいの逸材だった。


 これで自分やシュリの様な人間であれば、躊躇い無くこちらの世界に引き込めただろう。


 偽りと、血に塗れた、混沌とした闇の世界。


 けれど、彼女は正真正銘の貴族生まれの娘で、行儀見習いのメイド。

 私とシュリの住んでいる世界では三日として生きては行けない。


 あの人は、時には優しさを忘れ、残酷になる時も、なる事も必要だと私に説いていた。



 でも残酷になれるかどうかは、相手の人柄による。


 信用できる相手なら残酷にもなれる。

 憎くもあれば残酷にでも、悪にでも、鬼でもなんでもなれる。


 けど。


(不合格。)


 私の心の声がそう呟き、彼女をそう判じた。

 

 彼女は駒にはなり得ない。と。



 それからは特に私と彼女の間に会話はなく、話す事もなく、馬車は必要最低限の休息をとりつつ、順調にイルファドールに向かいひたすら走りぬけた。


 そして、もう少しで領地と言う所で、私はこの地にて、初めての友と出逢い、信用に足る盟友に巡り合った。


 おりしもその人物は、傷を負った獅子だった。

 

最後に出てきた人が誰か解る人は、モバスぺ出身のありがたいファンですね。

さて、次回はどうやって話を続けようかな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ