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◇偽りの領地へ①

更新しました。

 ――人は人を簡単に信じ、裏切り、勝手に期待しては絶望し、逆恨みする身勝手極まりない生物である。――

(『貴族社会の裏と真実』著/ファイシス・レクニール より)


 

 重たい空気と、肌に慣れない高級な寝具。そして何より厭わしい他人の匂いが、自分の身体から香る事で、浅い眠りから現実の世界へと、簡単に引き戻される。


「お目覚めでございますか」


 薄い瞼を何度か瞬きを繰り返し、ベッドの上に上半身を起こせば、気配もなく一人の侍女が、ぬるま湯を張った洗面具の乗せたカートを押しながら現れ、両手で柔らかいリネンを渡してくる。


「えぇ。おはよう。シュリ。」


 彼女――シュリは、私が唯一シンシア家から連れてきた侍女で、他の人より浮き離れた雰囲気を持ち、淡々とした物言いと性格から、シンシア家では忌避されていた。


「奥様、ご朝食は如何なさいますか。」


「パンとスープだけで良いわ。」


「では、そのように。」


 適温に冷まされたお湯で顔を洗うのは気持ち良い。顔を洗いながらシュリの問いに答えると、シュリは音もなく部屋から出ていき、すぐにホカホカの焼きたてのパンと、作りたての熱いスープが注がれたスープ皿の二つを持ち、部屋に戻ってきた。


 そのスープとパンが載せられたワゴンの下には、いくつかの贈り物と、手紙が積まれていた。


 今日で結婚して3日目の朝。


 そろそろ見返りを求めた賄賂紛いの贈り物が届き始める頃だと、あの家で教わった。そう言ったモノは、全て横流しするように言われている。


(何処まで浅ましいの・・・。)


 感じるのは、醜い浅ましさと強欲さに対する嫌悪感。


 顔を洗い、化粧を完全に施し終えた私は、シュリしか傍にいないことを良い事に、行儀悪くも、贈り物に付いてきた手紙に目を通しながら、パンを食べ、スープでそれを流し込んだ。


 そして何通目かの手紙に差し掛かった時、私の目は、驚愕により見開かれた。


 その手紙の文字は、お世辞にも上手いとは言えない文字だったけれど、書かれている内容は一刻も争う内容だった。


 ぐしゃりと、無意識に手紙を握る手に力を入れていたのか、手紙が音を立てて鳴った。


 私の菫色の瞳は忙しなく文面を走り、唇は強い憤りからふるふると震えていた。


 今、私が目を通しているのは、エディエス伯爵家に恨みを込めた決死の嘆願書。


 作物が不作だと言うのに納める税金は年々上がるばかりで、また、仕事をしたくても橋作りや道の舗装と言った賦役が多く、生活がままならない。このままでは死んでしまう・・・。


 この国では現在、直接領主に意見を言うのは固く禁じられていて、時には領主、ひいては貴族や国王に逆らい、歯向かったとして、斬首か縛り首、火刑に処せられる。


 そこまでの危険を知りつつ、冒してでも届けられ、出され、助けを求め、伸ばされた手紙と願い。


 これが真実なのならば、このエディエス伯爵家が持ち、経営している領地は黒字ではなく赤字。


(酷い、良くもこんな嘘を・・・!!)


 あまりにも酷い、今現在の領地の現状を訴える嘆願書に、私は傍にいるシュリではない使用人を呼ぶ為、呼び鈴を激しく振り鳴らした。


 チリンチリン、と、いくら鈴を鳴らしても、すぐ部屋に駆けつけるほど、まだ朝は明けていないし、使用人の動きも早くない。


 こうして待っている間にも、領地では何も罪がない子供たちの命の灯が消えかかっているかもしれない。


「――シュリ。」


「はい。お預致します」


 私が何も言わなくても、シュリは理解してくれる。


 シュリは、今まで私が読んでいた手紙兼嘆願書を私から受け取ると、手荷物の鞄に入れ、大きな鞄には下着の代えやアクセサリー、靴からドレスまで、身の回りの物を手早く詰め込んだ。


 それが済んだと同時に、使用人が私に宛がわれた部屋の扉を三回ノックし、開けた。


 

変なところですけど、区切ります。


あちらではいなかった人を、一人増やしました。

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