◇偽りの夫
これは何の冗談なのだろうか。いや、冗談でなければ理解しかねるし、正気を疑いたくなる。
けれど。
今私が身につけているのは、身体のラインがハッキリと浮き出るほどの薄くピッタリとした生地で、あからさまに夜を強調したモノで、つまりはそう言う事なのだろうか。
ならば、私の選ぶ手段は一つ。
ほぼ腹部までの高さのある寝台の上に上がり、最高級の布団を捲り、もう眠っている男の横に滑り込み、自分も早く夢の国の住民になるだけだ。
その為、体を横たえる際少しだけ寝台がミシリと軋んだ音を出した。それに少しだけヒヤリとしたが、心配したような事にはならなかった。
一応念の為に、隣の様子を窺って見れば、規則正しい寝息が途切れることなく聞こえてきている。
(危ない、危ない。)
眠りが浅いと、あらかじめ事前に聞いて知っている為、気をつけねばならない。でなければいつ護身用の剣で命を取られるか解らない。
疲れを取る為に眠るというのに、これでは更に疲れるだけだ。やれやれ。
それでも疲れを取る為には、寝なければならないというのだから、人と言うのは常々面倒な生き物だ。一層の事、空気になりたいと願うのは、高慢な考えなのだろうか。
そう思いながらも、人の体温で暖まった布団に包まれていれば、やがてウトウトと眠くなってきたので、私はその睡魔に身を任せ、夢の世界へと旅立った。
と、その途端。
ふわりと背中から誰かに抱き込まれた様な気がしたが、その時既に睡魔に負けていた私は、そのまま構う事無く、眠り続けた。
だから私は知らない。
名前だけの、偽りで誓った夫である青年が、悲しげな瞳で、私の寝顔を見つめていた事を。
そして、私の鎖骨に遠慮勝ちに小さな紅い花を咲かせた事を。