◇偽りの家族
「お待ち下さい、お義姉様」
私を姉と呼ぶのは、『ローザ・シンシア』の夫である妹のレイチェル様しかいない。そして、私が今いるのは、その夫の家であり、婚家でもあるエディエス家。
姉と呼びながら、その声音は私を明かに忌避している。それも当然か。
「お義姉様には慈悲と言うモノがおありにならないのですか。」
「慈悲?そんなものは無いわね。そんなもので飢えた民は救えはしないわ。」
「だからって、理由もなしに人を殺すのですか。」
憤りに満ちた声は、今や家中に響いている。それを聞いても私の心は何も感じない。感じられない。
慈悲?愛情?
そんなものは全てに恵まれている人達にしか感じられないもので、生活がギリギリな人達にとってみれば、そんなものは腹の足しにもなりはしない。
「その人がそれで死んだのなら、それがその人にとっての運命だったのでしょう。私には関係ないわ。」
「お義姉様はそれでも血の通った人間ですか!!」
何と言われようとも私の心は決して揺るがない。そればかりか逆に言い募られれば言い募られるほどに、心は冷えていく。どうしてかなんてそんなのは判らない。
だけど。
「もう、私お義姉様が解らなくなってしまいましたわ」
寂しげにポツリと洩らされた言葉に、私は思わず笑いが漏れた。
くつくつと込上げる笑いは、暗く、とても陰鬱なものだった。
私が判らない?解らなくなった?
「何がおかしいのですか、お義姉様」
これが笑えずにいられるだろうか。
私は笑いをなんとか抑え、年上の妹を見上げ、凍てついた声で言いきった。
――解らなくて当然よ。だって私と貴女は他人ですもの、と。




