◇偽りの再会①
更新。
ルードベルクには、長年争っていた敵国があった。
その敵対することとなった国と、争う事になったモノは、ほんの些細な事で、珍しい鉱物が採掘できる山の所有争いだった。
その長年の争いの敵国こそ、今回私が拾い、ここに連れてきた、ガイエン・フォスターの出身地であるシルティア王国だった。
私はガイエンがそうだと知りながら、瀕死の怪我を負った彼を保護し、忠誠を誓わせた。
「この身はイルファドールにて、既に一度朽ちた身。我が君に至っては、身籠り重くなった妻と共に命を助けてくれた唯一の方。命までは捧げられませぬが、我が剣技とシルティア国軍の知恵は捧げましょう。」
ガイエンは人柄を見抜く。
忠誠を誓った私には、彼は彼女を決して『妻』とは言わなかった。それを、この場では『妻』とあえて言った。
この意味を理解出来る者は果たしてどれくらいいるのだろう。
恐らくは、そんなに多くはいないだろう。
私がそんな事を思案していた時、動揺し、静まり返っていた謁見の間に、一つの声が響き渡った。
「――・・・っ、信じられる訳がなかろうっ!!この【血濡れの魔女伯】が!!」
叫びとも、罵りにも似た、憎悪と侮蔑に塗れた声。
その声に推されたかの様に、そうだ、そうだ。と、途端に同調しだす貴族連中。
救いようがないとは、こんな時に使うのだろうかと、半ば呆れ返ってしまった私は、静に憤っていたガイエンを、シルティアの公用語で諌めていた。
『落ち着け、ガイエン。地位と権力、金と名誉しか頭にない愚鈍な奴らは放っておきな。ガイエン、お前の剣はそんな奴らの血に染めるほど安くはない。お前の剣は気高き獅子の剣だ。――使い道を違うな。』
私の流暢なシルティーン語に、憤りに駆られていた騎士は落ち着いた。
『――御意。全ては貴女様の仰せのままに、我が君。』
抜刀しかけた手も、何事もなかったかのように元の位置に戻った。
それを確認した私は、国王に向き直った。
――カツン、カツン。
そんな私達に、一歩、また一歩と、革靴の歩み寄る音が聞こえてきた。
けれど、私はあえてそれを無視した。
見なくても、確かめなくとも私には近づいてくる人物が、誰であるかは判っている。
(何をそんなに苛立っているのやら・・・。)
近付いてくるのは、名目上の夫である青年貴族。それに、私達の間に愛情はこれっぽちもない。
そんな事より。
私は自分に向けられる視線に向き合った。
「陛下、私に何か?」
「いや、その、ヴェールを取って、顔を見せてはくれぬか?そなたの顔を見てみたい。」
私はその言葉に何の疑いも持たずに、頷いた。
それがまさか、あんな事に繋がるとは思いもよらずに。