表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

◇偽りの領主②

更新


「此方でお待ち下さい。」


 王都につき、婚家であるエディエス家にも挨拶をせずに向かった王宮。

 

 その王宮に着き、私が馬車から降りるなり案内されたのは、無駄に派手な、いわゆる【謁見の間】だった。


 私を案内してくれたのは、見た目はそれなりに整っている青年で、立ち居振る舞いから貴族の子弟である事が容易に察せられた。


 その青年を気にしながらも。


『・・・、ここが、この国の中心ですか・・・?』


 私の後を無言で着いて来た片眼の男は、通された部屋にいささか戸惑っていた。


 それもそうだろう。


 何しろ、動けるようになるまで静養していたあの地の現状を知って、見て、聴いている者ならば、この王宮は異様過ぎる。


 多かれ少なかれ、他の領地も似たようなものだとするのならば、尚更に。


『無知とは罪だと、サヤコも言ってはおりましたが・・・。』


『貴方の奥方は賢こいわね』


『いや、彼女は・・・』


 反論しようとした彼を瞳で制止し、ドレスの裾を軽く持ち、頭を玉座に向かって深々と下げた。

 それに伴い、私の背後に控えていたセドリック、シュリ、傷の癒えた男も私に習い、それぞれ頭を垂れた。


 その最中に向けられる視線の多くは、奇異や侮蔑、妬みや嫉みの類だった。


 でも、その中には、私がなぜ今ここにいるのかを判っていて、女のクセに政治に口を挟むな、と言う、明かに女を卑下しているモノもあり、実際、そのような言葉も聞こえもした。


 でも。


(あぁ、貴方もそうなんだ・・・。)


 その最たる人物が、仮にも夫である男性というのが実に滑稽で皮肉だった。


(何も知らぬ、知ろうともしない愚かな人間どもめ・・・。)


 今、私がこうしている間にも、何処かで、一人、また一人と、暗い絶望の中で命を落としているというのに。



 ――ぎりっ、


 唇を噛めば、ほのかに鉄の味が口の中に広がった。


 でも、それは私が身に纏った黒いレースのヴェールによって、他の人達には判らない。


 だが、唯一、後ろに控えていた屈強な男だけは気付いたようだが、彼は私の気配を読んだのか、何もなかったかのように振る舞った。


(流石は雷光の獅子。)


 ヴェールの奥でほくそ笑んでいれば、「頭を上げよ」と、声が聞こえてきた。


 その言葉通りに頭を上げ、ヴェール越しに玉座を見れば、一人の男が王妃らしき女性と一緒に座っていた。


 女性は国王に甘えるように寄り添い、国王は国王で、何を考えているのかが全く判らなかった。


 でも、今はそれを気にしているような時ではない。一刻も早く現状を訴え、再び彼の地へ戻らなければならない。


 再び、優雅に見えるように礼をし、言葉を発する。


「お初にお目にかかります。エディエス伯爵がイルファドールの領主、ローザにございます。此度は私の様な一領主の為、陛下の貴重なる時間を格別に割いていただき、まことにありがとうございます。」


 いったんそこで言葉を区切り、手はず通りにセドリックに視線をやれば、老執事は悲痛な面で目を伏せ、国王の側近に歩み寄り、仕上げたばかりの報告書を渡し、私の背後に控えた。


 私は国王がそれに目を通すまで、無言を通した。


 やがて、数分が経ち。


「これは・・・っ、」


 国王の驚愕の声が聴こえてきた。


「これは・・・っ、真の事なのか・・・?真実、嘘偽りのない事実なのか?イルファドールの領主よ」


(かかった!!)


 今、国王は私の事をイルファドールの領主と呼んだ。


 それに自信を得た私ははっきりとした声で、それでも悲痛な思いを抱かせる為、声を作った。


「――残念ながら、事実にございます。陛下。」


 深く頭を下げ、顔を上げる。

 

 だが、顔はヴェールで隠れていて見えない。


「イルファドールは今や過去の遺物と成り下がり、領地は荒れ果て、民は我ら王侯貴族を嫌悪しております。ですが、彼らは私を信じてくれると言ってくれました。いくら伯爵家に訴えても、伯爵家の人間は来てくれなかったけど、私だけは違うと。私はそんな民達の為にも、イルファドールの領主として、イルファドールを復興させたいのです。それが私の出来うる陛下への忠誠の表し方でございます。」


 嘘も方便。


 私の偽りと本音が入り混じった発言に衝撃を受けたのか、謁見の間は水を打ったかのように静まり返った。



 音一つたたない、異様な空間。


(信じたくなければ、信じなければいい。)


 けど、その先にあるのは。


 

 短くも長い沈黙の時を破ったのは、国を治める長としての責任を誰よりも持っている国王だった。


「――よかろう。余はそなたを信じよう。イルファドールの領主・白銀の魔女伯殿。イルファドールの領民、兼ねてはこの国民を助けてくれ。イルファドールの軍権、法などの全ては、本日これより、魔女伯に一時的に譲渡する。」


 この時、私は快心の笑みを浮かべていた。


 それを察したのは、やはり、後ろに控えている男だけだった。


 その笑みを気取られぬように、私は三度、頭を下げた。


「――ありがとうございます。このご恩は必ずお返しにあがります。――ガイエン、陛下に剣を。」


 今まで、ずっと黙って私を護衛していた片眼の騎士に声を掛ければ、その騎士は、迷いも躊躇いもなく、帯剣していた長剣を掲げ、膝を着いた。


 そして。


「シルティア国軍は元は将軍、ガイエン・フォスターにございます。有事の際はお呼び下さい。我が君が貴方様に従うのなら、俺も従いましょう。」


 厳つくも、男らしいガイエンの言葉に、謁見の間は驚きの色に染まった。


 

 

雷光の獅子・ガイエン。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ