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◇偽りの誓い

本当に連載しても良いのでしょうか?

 ⊶⊶これは、生き長らえる為の、神に叛く、偽りの誓い・・・。



 蒼い海に悠然と浮かぶ五大大陸の内、一際文化や伝統が他の大陸より発展を遂げている、レイレーニア大陸。

 そのレイレーニア大陸の国土の大半を占める『ルードベルク王国』が、今から始まる悲しみと偽りが交錯し、それでも愛を貫きを通した恋物語の舞台である・・・。



 ルードベルク王国は王都・レナに本部を構える、聖シーシア大聖堂教会。


 遥か昔、まだこのルードベルクが建国される以前より前に、その当時の人達が創ったと言われている、清楚な中に、華やかさと知性を感じさせる様式美を持つ最古の聖堂。

 その大聖堂で結婚式を挙げるのが、結婚適齢期を迎えた年頃の少女達の夢であり、勿論、私もそれを本気で夢見ていた。


 けれど。


 大聖堂に厳かに朗々と響く司祭様の声を聴き、考え、思うことは、これから私がしようとしている、罪深くも恐ろしい偽りの誓いを立てる事。


 頭では仕方のない事なのだと、やらなければならない事なのだと理解はしている。でも、どうしても私に残った最後の良心がそれを許さず、受け入れる事が出来ない。


 そうしている間にも、式は特別大きな問題なく、淡々と進んでいたようで、名前を呼ばれた事で、私は我に返った。


「ローザ・シンシア・・・?どうなさいました?」


 ローザ・シンシア。それが今の私の名前。


 司祭様の私の態度を訝しむ声と、隣と、この結婚事態を良く思わない人達からの冷たい視線。

 それを見なくても感じてしまえるのは、私がずっと周囲の視線と機嫌を伺い、潜りぬけ、今日まで生きてきたから。


(もう、あと戻りしないって、あの日、決めた。)


 きゅっと、きつく唇を噛み、萎え掛けていた野心を叱咤し、この日の為に、これからの生活の為だけに身に付けた、完璧な微笑みを顔に浮かべた。


「緊張なされていただけの様ですね。では、式を続けましょう。」


 その言葉で、私は怪しまれていない事を知り、また、この結婚式に参列した多くの貴族の席からは、あからさまに私を侮蔑する声も届き、聞こえた。が、私はそれをあえて無視した。


 最初から悪意や妬み、羨みからの誹りは覚悟していた。


 私、『ローザ・シンシア』の結婚相手は、このルードベルク王国を古くから支え、かつては王妃を輩出した事もある名門貴族の嫡出嫡男の、クライス・ディル・ハーネスト=エディエス様、27歳。

 

 彼は13家もある伯爵の中で、唯一領地を黒字経営している伯爵家の跡継ぎと言うだけあって、彼、否、彼の家『エディエス伯爵家』と、縁続きになりたいと思っている貴族は多くいる。

 そんな彼等からしてみれば、小娘でしかない私は疎まれ、邪険にされても仕方がないし、無理もない。

 

 ヴェールが捲られ、冷たい唇が私の右頬に落ちてくる。

 参列した人達から見れば、唇にしているように見えるこの口付けは、この儀式を司っている司祭様から見れば、愛の感じられない、冷たいものだっただろう。


 後年、彼はこの日の事を、教皇録に事細かく書き記している。


 ――あの二人の間に、愛は無く、偽りと野心に満ち、冷たいものだった。

  しかし、私はそれを止める事は出来なかった。

  政治の世界に腐敗が広がり、蔓延しそうだった当時、私は当時の司教様に逆らえなかった。

  彼女は孤独であり、公正であり、強く、弱い、守られるべき少女だった。

  私にもっと勇気があり、立ち向かう力さえあれば、未来は違っていただろう。

  だが、過去はもう変えられない。

  彼らはあの日、偽りではあるが、確かに永久の愛を、無償の愛を誓ったのだから・・・。

 

 ――教皇録・ミケイラ・ルスク『過去の過ちの日々』より⊶⊶。


 

 その後、式は粛々と進み、親族と仲間内だけのパーティーになり、あの人の周りにはここぞとばかりに人が集まってきたけれど、私の周りには、彼の妹以外来なかった。


「おめでとう、お兄様。⊶⊶お義姉様、これからよろしくお願いしますわ。」


 ピリリとした空気に、心から祝福されていない事が判る。


「おめでとう、クライス。これで君も今日から妻帯者の仲間入りだ。」


 皮肉交じりにもお祝いに駆けつけてくるのは、彼の友人知人ばかりで、中には華やかな令嬢もいるけど、

 私の知り合いは誰もいない。『ローザ・シンシア』の親も、式が終わるなり帰ってしまった。


(私は、いなくてもよさそう・・・。)


 逆にいない方が良いし、盛り上がるだろう。

 

 直感に従い、楽しそうに団欒する彼等の傍を離れ、私は誰もいない大聖堂の中へと戻り、祭壇の前で跪いた。


 謝れば、懺悔すれば、全てが赦される事ではない事は解っている。

 それでも私には、祈り、赦しを乞う事しか出来ない。


 たった一ヶ月前まで、貧民街の孤児の一員でしかなかった私が、今、こうして貴族の令嬢として、偽りの身分で存在している事を。


 そうなったのには、私の容姿に関係がある。


 白金色の、艶やかで長く、豊かな髪に、菫色の瞳。そして、顔が本来エディエス家の花嫁となる筈だった令嬢、『ローズ・シンシア』様に似ていたから。

 

 ローザ様本人は、結婚が決まっていたにも関わらず、婚約者以外の男性との間に、戯れのつもりで結んだ肉体関係の末、子供を孕んでしまった。


 国民の多くがタームル教徒であるルードベルクでは、如何なる身分の者も、身分関係なく、芽生えた命を摘み取る事は、王家への反逆罪と等しい罪状に課せられる。


 せめて、身長さえ年齢に相応しく、それなりに低ければ結果は違っていただろう。なのに、私はどういうわけか、年齢の割に身長があり、そのご令嬢に酷似していた。

 それ故に私はただ似ているというだけで、一ヶ月で『ローザ・シンシア』と言う貴族令嬢の身代わりとなり、聖女と神様に偽りの誓いを立てた。


 自然と純銀製の十字架を握り合せる両手に、力が入る。床に就いた膝も、決して寒さからだけではない罪深さから、ぶるぶると震える。


 一心に祈り、赦しを乞うのは、それだけ恐ろしいから。


「どうか、お許し下さい。」


 私が今日、これからやろうとしている事は、国家の転覆をも恐れぬ、天下の大罪。

 せめてもの救いは、期間が定まっている事。


 ――良いか、一年だ。一年、娘としてあの家にいてくれれば、お前の今後の生活は保障してやる・・・。


 濁り、淀んだ瞳に浮かぶ狂気に、ほの暗い雰囲気。

 野心家とは、あんな人の事を言うのだと、私はあの時初めて理解した。


 生きていく為に、貧困からくる飢えから逃れるために交わした契約。

 

(後悔、しない。)


 十字架を握り直し、私は祈った。


「どうか、罪深い私を御守り下さい。」


 私は、知らなかった。

 この決断が自分自身を苦しめ、悩ませる事になるだろうという事を。


 私は、自分より年上の妹が呼びに来るまで、聖女に祈り続けていた。

次回は、気長にお待ち下さい。

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