離婚の原因となった張本人に、文句を言った結果
平民のヨランダとガブリエル王子の婚約が原因で離婚されたフレイヤ。離婚の原因は二人のロマンスのせいだと文句を言うためにフレイヤはヨランダ付きの女官となる。とうとう二人きりになるチャンスを掴み、フレイヤはヨランダに文句を言った結果。
※書きなぐりです。
「え!フレイヤの離婚の原因、私なの!?」
明後日の婚約式の流れを伝えるついでに、私は主であるヨランダ様に離婚の原因を話すことにした。その為にヨランダ様の付きの女官となったのだから。ヨランダ様が申し訳なさそうに俯く姿に、楽しみにしていたガブリエル殿下との婚約式前に伝えるなんて、我ながら性格が悪いなと思いつつ、二人きりなる機会が今しか無かったのよ!と心の中で言い訳する。
「はい。ヨランダ様とガブリエル殿下のロマンスに影響され、婚約破棄や離婚し、平民と再婚するカップルが増えています」
ヨランダ様は我が国一の商家の息女で、王立学園に入学し、ガブリエル殿下と出会い恋に落ちた。ガブリエル殿下は婚約者が居らず、平民と王族のロマンスに世間は大いに沸いた。
「知らなかったわ……」
ヨランダ様はギュッと目を閉じ、額に指先を当てて悩ましい顔をする。傷付けたい訳じゃないが、私はお二人のロマンスに影響されて元夫に離縁を言い渡された。
元夫の新しい妻は私が実家から連れてきたレディーズメイドで乳姉妹のケイラ。ケイラは目を見張る美人だ。元夫は、ケイラが私の側で仕事を見てきた、手伝ってきたから家の事は大丈夫だと私を追い出した。
実家に戻った私に、ケイラの母に頭を地面に擦り付けながら謝罪され、彼女と貴女は別の人間だからと許した。
「あの!……ヨランダ様は、我が国一の商家のご出身で、マナーも完璧ですし三カ国語を習得されておりますので、私の乳姉妹とは比べものにならない程、素敵な方です!」
ケイラの母はおっとりとして朗らかで仕事が出来る。ケイラもおっとりとして朗らかだが、おっちょこちょいな所があり、ありえない失敗をよくする。乳姉妹の情もあり、我が家でも元婚家でも難しくない仕事ばかり与えてきた。
とんだ裏切りに遭ったものだ。
ケイラがどんなに私の側で仕事を見てきたとしても、見ていただけだ。我が家は今後、元婚家とケイラとは一切関わらないと絶縁を宣言した。元婚家がケイラのせいで痛い目を見ても、我が家は尻拭いなどしない。
「ふふ。ありがとう、フレイヤ」
ヨランダ様は目を開けて困っように笑い、目を伏せた。やはり今言うべきでは無かったわ。罪悪感を覚えながら予定表に視線を落とす。辞表を出すべきよねと考えていると、ヨランダ様が声をかけられた。
「フレイヤ、実はね……。私、隣国ワーナーの王族と関わりがあるの」
「え?」
思いもよらぬ言葉に、私は顔を上げてヨランダ様を見る。ヨランダ様の形の良い唇が動いた。
「私の母はワーナー王国の末姫で、父は男爵家の三男なの」
「え?えぇ……?」
ヨランダ様の告白に私は目を白黒させる。ワーナー王国の末姫が行方不明ということは、昔父から聞いたことがあったが、まさか駆け落ちしていたなんて。婚約式にワーナー王国の王族が出席する理由が腑に落ちた。
「この国で商いを始めて……大きくするつもりは無かったらしいのだけれど、父には商才があったのと、母に苦労をさせたくなかったからと……」
あれよあれよという間にこの国一番の商家になってしまったそうだ。ヨランダ様の完璧なマナーと語学が堪能な理由が腑に落ちたものの、私はこの話を聞いていて良いものかと視線を彷徨わせる。この後、物陰から影の者が出てきて命を取られないかしら。ヨランダ様はくすくすと笑った。
「安心して、フレイヤ。婚約式で私の出自は明かす予定だったから。王族と一応王族の血を引く者同士の結婚だから、今後は誰も文句は言わないでしょう。あと、ワーナー王室と両親に遺恨はないから」
私はほっと胸をなで下ろす。ヨランダ様が過去にワーナー王国から王女を迎えた侯爵家の養女になったのは、そういった縁からかと合点する。もしかしたら、ご両親が叙爵されて貴族になるかもしれないと考えていると、ヨランダ様が溜め息を吐いた。
「でも、私のせいで婚約破棄と離婚が……」
「ヨ、ヨランダ様のせいではございません!」
気落ちするヨランダ様に、私は勢い良く首を左右に振る。
「殿下とヨランダ様のロマンスを、自分たちに都合よく使っているだけです!」
そう。結局は自分たちの都合にいいからと使っているに過ぎないのだ。ガブリエル殿下とヨランダ様たちの悩みや苦労など知りもせず。
結局、私も元夫とケイラと同じだ。
お二人のロマンスのせいで離婚になったと、責任をなすりつけていた。振り返ってみれば、元夫は執務が忙しいからと私を避け始め、ケイラに言付けるようになった。ヨランダ様とガブリエル殿下のロマンスがなくても、二人は不貞を働いただろう。私は自らを恥じ、勢いよく頭を下げる。
「ヨランダ様、申し訳ございませんでした。いえ。……私は、離婚出来て良かったです」
「え?」
私は頭を上げたが、視線を床に落としたまま話を続けた。
「元夫とちゃんと向き合っていればと思いましたが、元夫は私と向き合うことを避けておりましたし。お二人のことがなくても、不貞を働いていたと思います。不誠実な元夫と同じ墓地に入らずに済みました」
これから婚約式を挙げる方に聞かせるような話ではないなと、私は改めて頭を下げた。ヨランダ様の小さな笑い声が耳に飛び込んでくる。顔を上げると、花が綻ぶように笑うヨランダ様が居た。
「フレイヤは優しいわね。……離縁や婚約破棄を言われた方が、貴女のように思って下さってたら良かったのだけれど」
「それは……」
コンコンと扉をノックする音が響く。どうやら、ガブリエル殿下とのお茶の時間になったようだ。私はヨランダ様と目を合わせて頷くと、小走りで扉近づいた。
「はい」
「ガブリエル殿下と、中庭でお茶の時間でございます」
護衛のキース様の声に、私はゆっくりと扉を開ける。頭一つ分背の高いキース様を見上げて笑顔で返事をした。
「承知しました。ヨランダ様」
「えぇ」
私が声をかけると、ヨランダ様は優雅な足取りでこちらに向かってくる。私は扉を大きく開いて、ヨランダ様と部屋を後にした。
───────
その後のお茶会で、私の離婚話となりガブリエル殿下は自分たちのせいで離婚と婚約破棄が増えていたのかと驚きを隠せないでいた。私は慌てて自分たちの都合の良いように、お二人のロマンスを自分を含め大勢が利用している事を謝罪する。
「フレイヤ嬢が謝ることではないでしょう」
助け舟を出してくれたキース様に、私は軽く左右に首を降った。
「素敵なお二人のロマンスを、醜聞の言い訳に使うなんて、冷静考えれば失礼千万。如何様にも罰を……」
私が深々と頭を下げると、ヨランダ様の明るい声が中庭に響く。
「フレイヤ。罰としてキースと結婚して?」
「はい?」
「ヨランダ様!」
私の間抜けな声はキース様の叫び声に掻き消された。驚いてキース様を見上げると、真っ赤な顔で咳払いをしている。ガブリエル殿下が小さく噴き出し、笑いを噛み殺していた。訳が分からず私はヨランダ様を見る。
「キースと結婚して、夫婦で殿下と私の側にいて頂戴」
ガブリエル殿下はとうとう大笑いした。キース様は真っ赤な顔で俯いて、ヨランダ様は上機嫌で私たちを眺めている。ご令嬢方に人気で、バーク侯爵家の嫡男であるキース様との結婚が罰になるわけがない。
「ヨランダ様、それは罰になりません。離婚歴のある私との結婚は、キース様の罰になります!」
私がそう告げると、ガブリエル殿下はお腹を抱えてヒイヒイと笑った。殿下、何がそんなに面白いのですか。私が困惑していると、キース様が口を開いた。
「罰ではなく、名誉なことです」
「え?」
私はポカンとキース様を見上げる。キース様は片膝を着くと片手を私に向かって伸ばした。
「フレイヤ・ストーン伯爵令嬢。私は貴女と人生を共に歩みたい」
突然のプロポーズに私は固まる。いつの間にか静かになったガブリエル殿下は、こちらを生暖かい目で眺めていた。ヨランダ様はニコニコと観劇を楽しむような目で私たちを見ている。キース様を見ると、真っ直ぐに澄んだ目をしていた。
「……まずは、父に話を」
「ありがとうございます!」
キース様は立ち上がると、私の両手をギュッと握る。抱きつかないだけ良識はある……と思っていいのよね?と私は考えながらヨランダ様を見ると、グッと親指を立てた。ガブリエル殿下はウンウンと頷いている。
「あぁ。そう言えばフレイヤ嬢の元婚家はスマイス伯爵家だったね?」
ガブリエル殿下の発言に私は頷いた。
「最近、主催のお茶会も夜会も酷い有様で、領地経営も上手くいってないそうだよ」
「左様でございますか」
ケイラがやらかしただけではなく、元夫もやらかしているのかと頭が痛くなったが、もう関係のないことと私は興味が無さそうに返事をする。ガブリエル殿下は口角を上げて紅茶を口に運んだ。キース様が心配そうに私を見下ろしてきたので、「スマイス伯爵家とは絶縁しておりますので」と小声で伝えると、楽しそうに目を細めた。
「バーク侯爵家も絶縁しておこう」
キース様の発言に、ガブリエル殿下は噎せながら笑う。殿下は意外と笑い上戸なんですねと考えながら、私は苦笑いを浮かべた。
───────
婚約式後に発表されたヨランダ様の出自は世間を大いに賑わせた。
『やはり只者では無かった!』
ヨランダ様がただの平民ではなく、高貴な血が流れる女性だと知れ渡ると、それまで盛んだった平民と貴族の間の再婚や婚約は下火となり、元妻や元婚約者に復縁を求める者が現れ始めた。
元夫もその一人だった。
しかし、キース様の押しに負けて、ヨランダ様の婚約式の次の日に婚約を結んでいた私は丁重に復縁をお断りした。
その後、元夫が我が家に突撃してきたが、交流のためのお茶会に来ていたキース様が門越しに対応して下さった。
「スマイス伯爵。ストーン伯爵家は今後、スマイス伯爵家とケイラ夫人とは一切関わらないと絶縁を宣言しておりますから、お引き取りを」
「あ、貴方には関係がない……」
子鹿のように小さく震えながら話す元夫を、キース様は鼻で笑った。普段温厚なキース様からは想像がつかない態度だわ。私はこっそりと成り行きを見守る。
「私はフレイヤの婚約者だ。スマイス伯爵こそ、フレイヤとどのような関係が?ストーン伯爵家の名代として、バーク侯爵家次期当主として、私は忠告している」
子犬のように笑う可愛らしいキース様は、何処にいっちゃったのかしら?でも、狼のような恐ろしい笑顔で元夫に忠告するキース様も素敵だわ。私はキース様の新たな一面が見れた事を元夫に感謝した。元夫は陸に上がった魚のようにパクパクさせると、馬車に乗って走り去っていく。私はそろそろとキース様の背後に移動して声をかけた。
「キース様」
「フレイヤ!」
振り返ったキース様は、パッと子犬のように笑う。左右に大きく揺れる尻尾の幻覚を見ながら、私はキース様に駆け寄った。
「キース様、大丈夫ですか?」
「えぇ。しかし、心配ですので屋敷の警備を強化する為に、我が家から騎士をお送りします」
優しく私の髪を撫でた後、キース様は手を差し出す。私は迷うことなくキース様の手を取った。元夫は我が家にも、バーク侯爵家にも王家にも睨まれることになったが、愛する妻がいるから大丈夫だろう。私は愛しい婚約者を見上げて微笑んだ。
お読みいただき、ありがとうございました!




