075
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7月8日(木曜日)
8時1分、ナナマート北店付近
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……どれだけ前の世界の再現を心がけても、中にはどーしようもないことだってある。
生理現象なんて、その最たるモノだ。
だから昨日の件は――結果的にだが、ケイジ叔父さんたちの話を盗み聞きしてしまったのは、本当にただの偶然である。トイレで下に降りた際、たまたま二人の会話が耳に入ってきたのだ。
【俺】
(学校に……泥棒?)
いや、この言葉は不適切かもしれない。
カホ叔母さんいわく、何も盗られてなかったのだから。
【俺】
(だから泥棒っつーより……不審者、か)
いずれにせよ、この情報もまたn=0の俺では知り得なかったことだ。
察するに、やはり叔父さんたちが気を遣ってくれたのだろう。
昨日の会話では、ソレらしき発言もあった。
【俺】
(問題なのは――)
その不審者。
はたして連続失踪に関係しているのだろうか?
……これについてはわからない。
一晩かけ考えてはみたものの、答えは分厚い灰色の雲の中である。
現時点ではあまりに情報が少ない。
なので結局この件に関しては〈気になること〉への追記にとどまった。
【俺】
(あと……藤代の名前も出てきた、よな……)
(弐波家が疑ってるって……)
弐波。レイコの家のことである。
別の言い方をすれば、代々の村長を輩出している家系だ。
この島にだって当然、日本の法律が定めた首長選挙があるワケだが、実質的にはほとんど世襲制である。
そんな弐波家から睨まれていたとなると、藤代家の断絶は相当に根深いモノらしい。
もしかしたら、ほとんど村八分のような状況かもしれない。
【俺】
(けど、一番気になるのは――)
ケイジ叔父さんは言っていた。
【ケイジ叔父さん】
『よりにもよってこの時期に、またそういうことが起こるなんて……』
カホ叔母さんはこうも言っていた。
【カホ叔母さん】
「今年の〝瑞古還シ〟は――何も起こらなければいいんだけど」
二人の話をあわせると、こうなる。
去年の瑞古還シで何かが起きた――。
俺はその〝何か〟について、ひとつだけ思い当たることがある。
【俺】
(失踪だ……! 藤代結の……!)
そうとしか思えない。
藤代結の失踪。
これまで、ソレがいつ起きたかとする決め手はなかった。
だが、今回の叔父さんたちの話で確信を得る。
【俺】
(藤代結も……瑞古還シの時期に失踪してたんだ……!)
(アツシたちと同じように……!)
こうなるとますます藤代結の重みが増してくるが、現状では手が打てないのが歯がゆい――
【ミコト】
「よ。おはよ」
そこにミコトがやってきた。
やはり、いつも通りのこの時間である。
そのまま俺たちはキタテンの前を通り、学校へと向かった。
道中、
【ミコト】
「〝瑞古還シ〟?」
俺は前の世界と同じ話題を振る。
「ああうん。あるよ、今年も。例年通り一九日に」
【俺】
「ってことは、あと一〇日ちょいか」
【ミコト】
「そうだな……てゆーかどうしたんだ、突然? そんなこと聞いてくるなんて」
瑞古還シの話題。
前の世界で俺は、この話をした途端、叔父さんたちが妙な雰囲気になったのを気にしていた。
今ならわかる。
アレはやはり、そういうことだったのだろう。
ケイジ叔父さんたちは、藤代結の失踪を思い返していたのだ――
【俺】
「たしか祭りの最後に……ヘンな人形を流すんだよな。川から」
【ミコト】
「ヘンな人形って……オマエなぁ、バチがあたるぞ。〝八尾姫さま〟のバチが」
そこから俺は前の世界の会話を再現し、ミコトから再び八尾姫伝説の話を聞く。
【ミコト】
「興味があるんなら今度また教えてやるよ」
【俺】
「おう、じゃあ頼むわ」
そして頭の後ろに手をやり、神社のある還津山の方へと視線を移した。
「にしても、そうか……もうすぐ夏祭りなんだな」
【ミコト】
「……うん」
「………。」
「………。………………。」
「………。………………。………………………。」
【俺】
「ん? おい、ミコト?」
あらかじめ覚悟していたとはいえ――胸が痛んだ。
急に黙り込むミコト。
何かを言いづらそうにモジモジしながらそっぽを向くミコト。
俺は……この世界の俺は、その理由を理解している。
100%、この上なく正しく理解している。
ミコトは、俺と一緒に祭りに行きたいのだと。
その上で、
【俺】
「ああ。せっかくこーして島に戻ったんだからな。せいぜいがんばらせてもらうよ……で? 何時くらいに行きゃあいい」
【ミコト】
「じゃ、じゃあ……六時くらいに。〝キタテン〟の前で……待ち合わせ、しよ」
こうして、シラを切らなければならない。
【俺】
「おいおい、朝の六時ってことか? そんなに早えのかよ」
【ミコト】
「は? ナニ言ってんだよ。夕方の六時に決まってんじゃん」
【俺】
「夕方⁉ いやいやいや、それじゃあ逆に遅すぎんだろ。ヘタしたら間にあわねーじゃねえか」
【ミコト】
「……え、だからナニ言ってんだオマエ。間に合うもなにも、」
【俺】
「祭りの準備の話だろ? 前日の」
こうして、拒絶しなければならない。
しかもソレは――今日に限った話ではなかった。
むしろ〝今日から〟だ。
今日から俺は、少しずつ未来を変えていかなければならない。
そしてその変えていった未来では……俺がミコトと二人で祭りに行くことは、絶対にありえないことだった――




