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黒き箱舟は月を抱く ~社畜の俺が、最強の船と家族になるまで~  作者: クロミロク
第四章:月下の待ち人
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真名はツクヨミ

 月光の下、少女の声だけが静かに響いていた。


 銀色の髪。あどけない容姿。 

巫女服の名残を思わせる黒いワンピース。

裸足。 


だが、湊の視線はどうしても――首元の黒い鋼鉄の首輪と、

そこから垂れる途中で断ち切られた鎖に吸い寄せられてしまう。



「……どうして、こんなとこに……」



 湊の声が小さくなる。


 子どもがいる状況ではない。

何より、この子の首にあるものが、あまりにも非現実的だった。


 背後で、ダスラとエティンの呼吸が止まった。


 二人は“理解”してしまった。


 ホロテック内に勝手に“人”が現れることは、仕様としてありえない。

ましてこの少女は、ホログラムの気配がない。


―― ならば答えは一つ。



 コクヨウ、その意思の化身。



 畏れ多さと、畏敬と、感激。

 何百年という時間、自分たちが従ってきた船の意志が、いま目の前に“少女”の姿として現れている。

その姿を目にできるなど、神にまみえる奇跡に等しかった。


 ダスラが膝を折る。涙が頬を伝い、砂に落ちる。

エティンも同じように膝を折り、震える唇を噛みしめながら頭を垂れた。



「……ああ……」



 ダスラの声は掠れて、重い。



「……この目で……この御意志を拝する日が来るなんて……」



 少女は枝の上で静かに二人を見下ろし、威厳ある声で告げた。



おもてを上げよ。――わしの前で、身を擦り減らすでない」



 許しの言葉だった。

それだけで、二人の涙がさらに溢れた。恐れではなく、救われた涙。


 少女は、次にダスラへ視線を落とす。まるで最初から知っているように。



「ダスラ。よう保たせたの。入口の火線、見事じゃ」



 名を呼ばれ、ダスラの肩が跳ねた。感激で声が出ない。



「こやつに観測のプレートを貼ったのは、そなたじゃな」


「……は、はい。外部干渉が強すぎましたので、応急の観測を……」



 少女は小さく頷く。



「よい。賢い。褒めてつかわす」



 ダスラは額を伏せ、嗚咽を堪えながら何度も頷いた。


 少女の視線が、今度はエティンへ移る。



「エティン。こやつを支える判断が速かった。固定も、声かけも、適切じゃ」


「……っ、身に余るお言葉でございます……!」



 エティンの目にも涙が溜まる。

自分の全てを見られ、認められた――そんな感覚。


 湊は、枝の上の少女に向ける態度を決めた。

見た目は小学生の女の子だ。怖がらせたくない。

だから声の温度を落とし、優しく言う。



「……ねえ君。その首輪……痛くないのかい?」



 少し間を置いて、続ける。



「痛いなら……無理しなくていい。俺たちが何とかするから」



 少女は首輪に指を当て、断ち切られた鎖を軽く揺らした。じゃらり、と鈍い音。



「……うむ。痛みは……もう慣れたのじゃ。これは、わしが“檻”を知るための印じゃ」



 その直後――



ドンッ。



 ホロテックの夜が一瞬、薄くなる。

満月が揺れ、波音が遠のいて金属音が腹の底に落ちた。



 ドン、ドン、ドン。



 連続被弾。

 鋼鉄の防御シールドが立ちあがり、衝撃を受け止めている。

だが押されている。完全に防戦だ。


 ダスラとエティンは、口を挟まない。

ただ、そこにいる。主の前で言葉を増やすことが、かえって不敬だと知っている。


 少女は楽しげですらある笑みを浮かべ、湊に告げた。



「宵祷 湊。選べ」


「地上へ戻るか」


「それとも――わしのもとへ、帰るか」



 帰る。



 その一語が、湊の胸の奥で何かを鳴らした。


 湊は一度だけ息を吸い、少女の銀の瞳を見上げる。



「……正直、分からないことだらけだ」



  でも声は、逃げない。 目の前の少女の首にある、断ち切られた鎖。それが、自分の見えない鎖と重なって見えたからかもしれない。



「けど……君が俺を呼んだんなら、俺は行く」


「君を一人にはしない」



 柔らかく、言い切る。



「君と一緒に行く」



 少女は、満足そうに頷いた。



「うむ。よい答えじゃ」



 そして、胸に手を当てる。鉄の首輪と、断ち切れた鎖が月光に鈍く光る。



「ならば、名をやろう」


「わしの真名は――ツクヨミ」


「そしてこの姿は、コクヨウの意思を――おぬしの深層に合わせて形にしたものじゃ」



 その瞬間、ダスラとエティンの肩が大きく震えた。



 “真名(まな)”を聞いた。



 何百年も従ってきた船の意志が、いま名として定まった。


 涙が砂に落ち続ける。


 だがツクヨミは、柔らかく言う。



「そう畏まるでない。皆、ようやっておる」



 そして――次の瞬間。


海辺の夜景が、折り畳まれるように消えていく。



 波音がノイズ混じりの電子音へ変わる。 月明かりが分解され、膨大な緑色の光のグリッドへと還元されていく。

 砂浜がポリゴンの粒子となって弾け飛び、その下から、冷たく輝く鋼鉄のデッキがせり上がってきた。



「――環境レイヤー更新。戦闘モードへ移行」



 システムの発する合成音声と共に、癒やしの空間は、冷徹な『戦場』へと再構築された。


 それは戦闘指揮所。

遊びの空間が、戦いの空間へと“変換”されたのだ。


 ツクヨミは空間の中心に降り立つ。断ち切れた鎖がじゃらりと鳴った。

それは合図の音。



「――さて。宵祷 湊」



 銀の瞳が、湊を見据える。



「……湊、と呼んでもよいかの?」



 湊は一拍だけ迷い、すぐに頷いた。



「……いいよ。呼んで」



 ツクヨミの口元が、ほんの少しだけ柔らかくなる。



「よい子じゃ。――ならば行くぞ、湊」



 鎖の音が、もう一度だけ響いた。



「コクヨウを本来の姿に戻すぞ」



 ドームの外殻に、重い衝撃。


 連続被弾が、戦闘指揮所の“現実”を叩いた。


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