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黒き方舟は月を抱く ~社畜の俺が、最強の船と家族になるまで~  作者: クロミロク
第一章:白き断罪、黒き救済
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海域封鎖

 太平洋・北緯四十五度線。

 昼のはずなのに、空は鉛色で、雨が景色を削っていた。


 大粒の雨。横殴りの風。短く尖った波。

 艦隊は、自然の暴力に耐えながら航走している。


 日米合同の対処任務部隊――呼び名は地味だが、編成は現実的だ。

 イージス艦を核に、対潜・近接防空・補給まで揃えた、最小の“拳”。



アメリカ海軍:イージス巡洋艦(旗艦)1、イージス駆逐艦 2


海上自衛隊:イージス護衛艦 1、汎用護衛艦 2、補給艦 1


上空:固定翼哨戒機が交代周回、艦載哨戒ヘリがソノブイ帯を維持



 目的は迎撃ではない。


“アンノウン事件”


――世界各地で発生している、正体不明の海難。



 だが、ただ船が沈むだけなら、軍は動かない。

 問題は、発見された被害者の“状態”だった。


 外傷はない。死んでもいない。  だが、全員が――「中身」――を失っていた。

 虚空を見つめ、呼びかけに応じず、二度と戻らない植物状態か、あるいは獣のような錯乱か。  人間が“資源”として処理されたような痕跡。


 決定打は、三ヶ月前の極秘報告だ。


 ある国の沿岸警備隊と小規模艦隊が、遭難信号も出さずに沈黙した。

 後日発見された艦艇に、損傷は一切なかった。


食事も、銃も、通信機もそのまま。  

ただ、乗員数百名全員が――生きたまま、人形になっていた。


 軍事力では守れない。

 その戦慄が、日米合同艦隊をこの海域へ駆り立てている。


 この海域で、現象を捕まえ、正体を掴む。  撃つのはその後だ。まずは「見える形」にしろ。

 そう命じられて、艦隊はここにいる。


 CIC(戦闘指揮所)は淡々としていた。 嵐は厄介だが、嵐は“自然”だ。対処手順がある。



「SPY、クラッタ上昇。雨セルでトラックが溶けます」


「海況悪。ソナー、ブレードノイズ増。対潜は低速維持」


「リンク維持。時刻同期、監視継続」



 上空の哨戒機も雲の上ではなく、乱気流の中で必死に姿勢を維持していた。

 誰もが、最大の敵はこの“嵐”だと思っていた。


 ――その前提が、最初に壊れた。



「磁気嵐、立ち上がり。予想域と一致……いや、中心が動いてる」


「GPS捕捉数、急低下。慣性補正が暴れる」


「時刻同期、ズレ始め。リンク整合が――崩れます」



 妨害なら方位が取れる。敵がいる。殴り返せる。

 だがこれは違う。 センサーが敵を見失うのではない。世界の座標そのものが揺れる。


 次の瞬間、嵐が「終わった」。



 風が止む。


 波が寝る。


 艦のローリングが、不自然なほど唐突に収まる。


 雨が落ちる音が――消える。



 雨音も、艦内のざわめきも、空調の風切り音も。


 世界が、音を引き抜いた。


 残ったのは、機関が回っている“振動”だけだった。 聞こえないのに、腹の底が重くうなる。


 その時、雲が割れた。 いや、割れたのではない。避けたのだ。


 重い灰色が左右へ退き、そこだけ真昼の青が覗く。

 青空の円窓。 その中心から、白い光が降りる。


 一本の筋ではない。太く、何本も。


 空気中の粒子が照らされ、光そのものが“道”になる。



 ティンダルの光。天使の梯子。ヤコブの梯子。



 言葉にした瞬間、胸の奥が屈する気がして、誰も口にできない。


 青空の中心に、白い巨体が浮いていた。


 輪郭が定まらない。艦影でも機影でもない。


 なのに存在だけは確実で、目を逸らせない。 美しく、荘厳で、――理解の外側だ。



「上空、目標……捕捉不能。反射が固定しません」


「射撃諸元、算出不能! 測距レンジ、不能。速度、検出なし!……計器には映らないのに、肉眼にだけ見えている!」



 畏れが先に来る。理屈が後ろへ追いやられる。


 人間が最も弱い順番を、白は知っているみたいだった。


 旗艦の指揮官が短く言う。



「対空戦闘、移行。撃てるなら撃て!」



 CICが手順を回す。



「SM-6、射撃準備」


「トラック生成――不安定。測距が出ない、諸元が収束しません!」


「SM-2、イルミネータ照射。反射が戻らない!」


「ESSM、終末誘導が死んでる。撃てば迷走します!」


「CIWS、トラッキング不良。角速度、算出不能!」


「リンク、時刻が割れてます。共有トラックが壊れる……!」



 撃てないのではない。撃つほどに、こちらの“目”が壊れる。


 妨害ではない。妨害源がいない。 まるで“世界そのもの”が拒否しているようだ。



 拒否は空にも来た。



「固定翼哨戒機、異常! 計器ノイズ――!」


「姿勢保持できてるのに…高度が落ちる!」



 落ちたのは機体ではない。 “空”のほうが、機体を支えるのをやめたようだった。

 対地接近警報装置のアラートが鳴り、無線が割れる。



「メーデー! メーデー! 操縦不能、降ろされる――!」



 だが操縦士たちは訓練通りに、最後の数十秒で“海”を探し当てる。

 白い泡の輪が広がる凪いだ海面へ、機体を滑り込ませた。

 衝撃音はない。

音がない。 

水面が盛り上がり、機体は腹を擦って止まる。

 だが歪んだ外板の隙間から海水が侵入し、機体はゆっくり沈み始めた。



「不時着水、成功! 総員脱出――急げ!」



 艦載ヘリも同じだった。 

墜落ではなく、強制的に降ろされた不時着水。

 機体が水没する前に、乗員は冷たい海へ飛び出す。


 白は容赦がない。

 荘厳さのまま、非道を実行する。


 だが、“殺さない”。

 むしろ海上に人間を散らし、恐怖と混乱を育てる。

 その意図が透けた瞬間、背骨が冷える。



 白の光が収束した。 青空の円窓が細くなり、一本の線――裁きの槍になる。


 槍が落ちる。


 爆発ではない。燃焼でもない。 艦の機能が、順番に停止する。



「主配電盤、停止! 主電源系、喪失!」


「通電が戻らない、系統が掴めない!」


「通信、全滅。衛星もHFもVHFも、全部ノイズ!」


「操舵、応答遅れ! 舵が…重い!」



 白は沈めない。燃やさない。

 ただ艦を“働けない状態”に落とし、海上に“人間”だけをばらまく。



 救助に出たい。 だが救助艇を出す瞬間、次の槍が来る。

 艦隊は“戦闘”と“救難”の間で引き裂かれたまま、白の次手を待たされる。



 ――そのとき、海面が黒く大きく濁った。




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