表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/13

ログに浮かんだ名前



「おつかれー」


「また明日!」



 同僚が軽く手を振って帰っていく。

その流れの中で、ひとりが紙の束を置いた。



「宵祷、悪い。これだけ頼む」


「宵祷がいるなら大丈夫だわ」


「直すの速いし、頭いいし。俺らじゃ無理」



 湊は、いつもの顔で答える。



「了解」



 誰も振り返らない。

残されるのは湊だけだった。


 宵祷 湊(よいと みなと)。三十歳。

仕事はSEのはずだ。

でもこの会社での湊は、ただの「便利な人」になっていた。



「宵祷、これ」


「宵祷、対応」


「宵祷、客先」



 呼び方も同じ。言い方も同じ。

中身だけが、毎日増えていく。


 夜。オフィスは静かになった。

画面に、次々と通知が落ちてくる。



「ログインできない人が急増」


「画面が真っ白に」


「急に重くなった……」



 湊は小さく言う。



「このままだと……客が困るな……」

「……はやく直さなくちゃ……」



 チャットが鳴り続ける。



『宵祷、客先。今すぐ』


『宵祷、明日朝の説明も作って』


『宵祷、まだ? クライアント待ってるんだけど』



 湊は指を動かす。



「了解です」



 本当は、叫びたい。



(無理だ……もう限界……)


(誰か……助けて……)



 目が痛い。

手が震える。

頭がぼんやりして、考えが止まりそうになる。


 それでも、止まれない。

いつも通りに、ログを見る。切り分ける。直す。


 最後に、エンターを押す。



 成功。



 ……次の瞬間。



Unexpected error.



 湊の息が止まる。



「……なんで、今……」



監視ダッシュボードのアラート欄はいつも通り赤だらけだった。



... INFO ... deploy finished

... WARN ... unexpected error



その下、ログビューアの最下段に、見慣れない行が一つだけ混じる。



…… [SYS] YOITO



 湊は固まる。



「……俺の名前?」



 ログの底で、まだ消えない文字。


YOITO


 ――まるで、誰かが、暗闇の中で自分を呼んだみたいに。


……………………………………………………


 海辺に近い小高い丘の上。

 夜空の高い木の枝に、一人の小さな少女が腰掛けていた。


 銀色の長い髪が、月明かりに静かに揺れている。

 黒いワンピースの裾が、夜風にそよいでいる。


 首には鋼鉄の首輪が鈍く光り、そこから千切れた鎖が、寂しげに垂れ下がっていた。

 少女は、虚空を見据えるムーンライトシルバーの瞳を細め、唇をほどいた。



「宵祷 湊」



 そして、短く笑う。



「……みつけた」



 その声は、誰にも届かないはずの夜の底に、確かに響いた。


初投稿です!


「面白かった」


「続きが気になる」


と思ってくれましたら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への評価・応援をお願いいたします。


ブックマークもいただけると、たいへんうれしいです!


何卒よろしくお願いいたします。


X(Twitter)でもおしゃべり待ってます!


@Kuro_miroku https://x.com/Kuro_miroku


ご感想いただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ