目標
「よし、今日からお前はギリアだ、よろしくな」
新たな仲間、ブラックソルジャーアントはギリアと名付けた。
「カチカチカチ!」
うんうん、喜んでいるようだ。
時刻は日が沈み、外が暗くなる頃。
先ほど食事を済ませ、あとは眠るだけになったのだが。ここで一つ、この世界の地理的要素を纏めたいと思う。
これは今後どのように動くかにも関わってくるのでステータスの把握同様、とても大事な要素だ。
この二日で観察した森や遠方の景色から割り出した情報(俺調べ)によると、拠点から見て北側に大きな山脈があり、山頂から裾野まで雪で覆われている。
かなりの範囲が寒冷地帯になっているようだ。
その北の山脈から伸びる大河は、拠点から見て西側にあり、遠方の山肌は木々が紅葉しているのが窺えた。
東側には桃色の木々が生い茂る丘陵と、平らな草原が広がっている。
南側は乾燥地帯で、岩石と砂漠が広範囲に広がっていた。
これらの視覚的情報は、ギリアを使役する為レイギに案内してもらった時に巨木があり、その巨木を登った時に判明した事だ。
進む方角によって四季が異なるこの場所の異質さに異世界感を感じていた。
それに普通ならあるはずの四季の変化はあるのだろうか? 疑問は増えるばかりだ。
「にしても、海は見えなかったなあ……」
何処を向いても海は見えず、土地がどこまで続いているのかすら分らなかった。
海の資源が必要になった時、遠征が必要だという事が確定してしまったのだが、大河の流れを見る限り南西の方向へと進めば海には出れるはずだ……多分。
「なんやこの大陸、ハードモードかよ……」
しかし現在地であるこの安全地帯……聖域を離れる事は、現状では絶対ないだろう。
現在この聖域周辺の季節は植生や湿度から見て秋のような気候であることがわかる。
四季の周期がどの様になっているかはまだ分からないが、今のうちに保存食をため込み、何時冬季が来てもいいように備えるべきだろう。
「あと何か月くらい猶予があるだろうか……」
西側を最初に探索したのは本当に偶然だが運が良かったと思う。
当面は豊富な水源と実りの多そうな西側を中心に探索を続け、食用に適した動物や魔物を見つけるのがいいだろう。
「絶対に何かしら居るはずなんだけどなあ」
最悪食料に関しては、大量に居る昆虫類を食べて飢えを凌ぐという手もある。
「虫や昆虫は多いんだけどなあ」
現状で出来ることは少ないし、明日も今日と変わらず魔物を使役するのに集中しよう。
「ふぁー……」
なんだかんだ今日も疲れたし、そろそろ休むとするか。
「あ、そういえば――魔力枯渇でMPが増えるか試してみるか」
これから睡眠を取るときはMPを空にしてから眠ろう。
「空に魔法をぶっ放すのもいいけど……先ずは魔法でリンゴを乾燥させてみるか」
この試みが成功して保存食になるのならば、食料問題解決に一歩近づくだろう。
それから俺はリンゴをスライスし、風魔法で風を当ててみた。
「んー、これでも幾分か早く乾燥リンゴは出来るだろうがMPが全然足りないな――」
乾燥させるには水分を飛ばす必要があるのだが……あっ
「……直接水分を操る方が確実か?」
試しにスライスリンゴに水分だけを抜き取るイメージで魔法を発動させてみる。
するとリンゴはカラカラになり、リンゴのドライフルーツが出来上がった。
「おお、成功した!」
試しに一つ食べてみる。
「パリッ――っ、旨い……!」
本来瑞々しい果実だったが、余分な水分が飛び味が凝縮されていた。
「パリパリ、もぐもぐ。パリパリ、もぐもぐ。パリ――」
今しがた乾燥させたリンゴ一個分があっという間になくなってしまった。
スナック感覚の様に食べられ、食べる手が止まらなくなってしまった。
「まずい、食べ過ぎてしまった……よし、これを量産すれば備蓄も増やせるな」
けれども、元がリンゴなのでなかなかお腹には貯まらないのも事実。
引き続き食料探しは継続してやっていく。
明日朝に食べる分のリンゴを残し、全てのリンゴを乾燥させた。
「ふー、こんなもんでいっか」
残りのMPは水甕に水を溜めて使い切った。
「うぅ、めっちゃ怠い……」
この強い倦怠感も強くなるためには仕方ない、これから毎日行うつもりなので慣れるしかない。
「レイギ、ギリア……おやすみ――」
翌日目が覚めたのは、まだ辺りは暗く日が昇る前だった。
流石に早起きすぎたので、朝食を摂る前に家の周りを散歩することにした。
「寝るのが早いから早起きちゃったなあ」
それもそのはず、娯楽などないので夜に何もすることが無いのだ。
生活水準を上げていずれはもう少し文化的な生活が出来るといいんだが……。
散歩をしながら将来の事について思案する。
今後生活していくにあたって何か大きな目標を掲げたいと思っている。
と言うのも、転生神との会話で長寿命になっていると言われており、長大な時間をただ息をしているだけの詰まらないものにはしたくないという思いからだ。
「やっぱり人に出会いたいよなあ……他の人間はどの位で此方へ送られてくるんだか……」
自分がどれ程長生き出来て、他の人間がどのくらいのスパンで送られてくるのかまるで分らない。そんな状態であまり先の事は考えないようにしていたのだが、こう時間がある時はふと考えてしまう。
「人類の祖となるなら、文明の基盤を作るくらいはやってみるか」
言うは易く行うは難し。それにはどれほどの労力が必要だろうか……?
転生神の話では色々と融通してくれてはいるそうだが、自分の糧すらままならない状況。足りないものが多いどころの話ではない。
「まったく、神ってやつは厄介なことを押し付けてくれたもんだ」
この状況においても愚痴をこぼす程度であり恨みのような感情まで行かないのは、これも神によって操作されているからなのだろうか?
分からないことを考えていても生活豊かになるわけではない。せんなきことと切り捨て思考を切り替える。
とりあえず今日はどうしよう? 戦力の増強は行うとして、生活に必要なものを揃えていきたい。
「そういえばまだ手を付けてない芋があったよな……あれを如何にかして増やせたらいいよな」
森の恵みだけに頼るのではなく、自分でも栽培出来たらいいじゃんと思った。
思い出そうとすれば農耕の知識も思い出す。
それにスキルとして魔法が使えるし、栽培の難易度はかなり低くできそうだとも思った。
前世の知識と神によって与えられたスキル。初日、二日は一人、未知の世界に不安と焦りで考えが浮かばなかったが、散歩をして考える時間が出来たからこそ広がる視野。
初日では思いつかなかった、魔法を使い始めた今だからこそ思いつく方法。
「昨日も思ったが、やはり焦りは良くないな」
机上の空論でも魔法という未知の力ある。多少魔法で融通が利く世界で期待に胸を膨らませる。
この世界に来て初めて、悪い事ばかりではないとも感じられた瞬間だった。
「朝飯食うか――」
今日やりたいことを思い浮かべ少し軽い足取りで家へと帰る。
帰宅して朝食を済ませた後、最初から用意されていた芋を一つ手に取り家の前の広場に来ていた。
今日はこの聖域の中で、作物を育てられるか実験してみる。
始める前にステータスを確認しMPが増えているかを確認しておく。
アスラ・カウス
Lv1
H 30
M 32
体 10
力 10
守 10
速 10
器 10
魔 10
スキル
操蟲Lv1 原始魔法Lv1
総合戦闘力 60P
称号
始祖
獲得経験値 33/2000EXP.
よしよし、しっかりと数値が上がっている。はやりレベル上げ以外の鍛錬によって数値を上げられるという事は確定していいだろう。
幸先のいいスタートに北叟笑む。
「よし、先ずは土を耕すところからだな……土に魔力を馴染ませるイメージを――」
同時に土を柔らかくするイメージと範囲、今回は実験で一つしか植えないが、十個分植えれるくらいの範囲をイメージする。
すると魔力が地面に吸われる感覚があった。
「ボコ、ボコボコボコ……」
「おお!!、これが土属性の魔法かあ――」
魔法は上手く発動し、作物を育てるのに適当な柔らかさの土が出来上がった。
「魔力消費は……10か」
この後の作業をするのに魔力を使おうと思っているので残りの魔力量を気に掛ける。
その作業は種芋の作成だ。
実際に種芋を作る時は、植え付けの二~三週間前から日光に当てて芽を出す必要がある。
今から行うのは、この種芋作りを魔法で短縮しちゃおうという試みである。
使う魔法は聖魔法、概念魔法と呼ばれる魔法だ。
属性魔法の中に光を操る魔法は無かった。なのでこの聖魔法でどうにか光合成を進められないかと考えたのだ。
改めてスキルの詳細を確認する。
原始魔法Lv1――聖魔法、概念魔法で……
《一定量の情報閲覧によりスキル【鑑定眼】を取得しました》




