第7話 変わりゆく2人
先生はクラスの様子を見て唖然とする
先生「……どういうことだ」
カナタとシアはクラスでも真逆な存在だった
前後の席で、優等生のカナタが問題児のシアを何度も注意することで、授業が成り立っていた部分もある
だが、それはあくまで“衝突”という形だった
数日前までは
――
カナタ「何度静かにしてって言えば静かにしてくれるんだ君は!!」
シア「なんだようるせぇな!お前に関係ないだろ!」
カナタ「うるさくて集中できないんだよ!!」
我慢の限界に達したカナタはシアの背中を指で突っついた
シア「イデデデッ!!」
先生「こらっ!お前ら仲良くしろ!」
――
そんな日常だったはずが
最近の教室では、様子がまるで違っていた
シア「なぁ、今日どこ遊びに行く〜?」
カナタ「ゲームセンターとか…実は行ったことないんだ」
シア「マジか!じゃあ決まりだな!」
先生「(……何があったんだ)」
以前は火花を散らしていた二人が、今では笑い合っている
クラス中の生徒も、珍しい光景にこっそり目を見張っていた。
先生「(まあ、仲がいいのはいいこと…いいことなんだが……)」
苦笑しながら先生はシアの元へ歩いていき、声をかけた
先生「おいシア、来週のテスト一桁取ったら留年だからな」
シア「……エ」
カナタ「えっ!?」
──放課後──
シア「やっべぇ、留年かよ……カナタ先輩になっちまうのか〜」
カナタ「諦めるの早すぎ!今から一緒に勉強しよう!僕だってシアが後輩になるのは嫌だし!」
シア「でも俺、ほんとに勉強ダメなんだよなぁ……」
カナタ「大丈夫!僕が教えるから!これから一週間、遊びはお預けで毎日勉強会だよ!」
シア「えぇ〜マジかよ…まぁ仕方ないか……」
そして、2人の勉強会が始まった
最初はまるで進まなかった
問題文を読むたびに、シアは首をかしげる
カナタ「だから!なんで兄が弟を追いかける速度が時速60kmになるんだよ!!!」
シア「いや知らんて!そんなの兄がバイク乗ってるかもしれんし!」
カナタ「それ問題文に書いてないでしょ!想像で補うのやめて!」
だが、カナタが根気強く教えていくうちに、シアにも少しずつ変化が現れる
カナタ「……おっ、正解の数が増えてきた!」
シア「マジで!?やった!!」
カナタ「すごいよシア!思ったより飲み込み早いね!」
シア「カナタの教え方が上手いんだよ、先生より分かりやすいかもしれないぞ?お前将来先生になれよ〜」
カナタ「え、えへへ……そ、そうかな……」
カナタ「よし!後は本番まで復習を重ねよう!」
シア「おうっ!」
──そして、テスト返却日。
シア「見ろよカナタ!!俺、一桁どころか赤点も回避したぜ!!」
答案には36点の数字
決して高得点とは言えないが、今まで一桁しか取ったことがなかったシアにとってはまさに快挙だった
カナタ「すごい!本当に頑張ったねシア!」
シア「ああ!……ハッ!お前、俺にずっと勉強教えてたけど、自分のテストは大丈夫だったのか!?」
シアは心配そうな顔でカナタを見つめる
カナタ「うん完全に忘れてたけど、シアに教えたおかげでむしろ復習になって点数めっちゃ上がったよ!」
カナタの答案用紙には、堂々とした95点の数字が光っていた
シア「うおおお!やったな!じゃあ今日は留年回避と高得点祝いでゲーセン行こうぜ!!約束だろ!!」
カナタ「うん、今日は思いっきり楽しもう!」
2人が肩を並べて教室を出ていくのを見ながら、先生はふと笑みをこぼす
先生「……ったく、最初は犬猿の仲かと思ったが、まさかこんなにいいコンビになるとはな
……お互いに、いい影響を与え合ってるんだな」
夕焼けの光が差し込む教室の中、静かな優しさが流れていた。