第5話 寄り道
次の日の朝
教室に入ったカナタは妙な違和感を覚えた
カナタ「(…なんだ?妙にざわついてる…嫌な予感がする)」
その予感はすぐに的中する
「よぉ、昨日はお前散々だったな
あのシアに無理やりサボらされたんだろ?」
そう声をかけてきたのは隣の席の男子だった
軽口のような、でも明らかに興味本位の表情
カナタ「はっ!?なんでそのことを…!誰にも言ってないのに!」
動揺で思わず立ち上がると、背後で椅子がガタンと倒れる
「いやーもうクラス中に広まってるって、
シアは今、反省文書かされてるってよ」
カナタ「なっ…!!」
クラスメイトたちのざわめきも、周囲の視線も
もはや気にしていられなかった
カナタは勢いよく席を離れ、職員室へと駆け出した
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カナタはそのまま走って職員室へと向かった
勢いよくドアを開け、先生の机に駆け寄る
カナタ「先生!シアが反省文書かされてるって本当ですか!?」
先生は少し驚いたように顔を上げ
眼鏡を直しながら答える。
先生「ああ、本当だよ。君を脅して学校を抜け出したって、君のお母さんから報告があってね」
カナタ「(いつも余計なことばかり……!)」
カナタ「でも僕本当に気にしてませんから!だからシアをもう解放してあげてください!」
先生は少し困った顔をした。
先生「とはいえ…“一緒に来ないとロッカーに苔詰めるぞ”って脅されたって聞いてるんだが…」
カナタ「僕、苔大好きなので気にしてません!!!」
先生「そ…そうか?そこまで言うなら…
分かった、今回は特別に解放することにしよう」
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しばらくして、シアが腕をぐるぐると回しながら
反省室から出てきた
シア「助かったよ〜!ありがとなカナタ!」
カナタ「僕を庇ったせいでこうなったんだから当たり前だよ…ごめんねシア…」
シア「だから気にしてないって…まあ、反省文100枚はさすがにキツかったけどな!」
そう言ってシアは肩をすくめながら笑った
けれどその笑顔の奥に、ほんの少しだけ疲れが滲んでいるのを、カナタは見逃さなかった
カナタ「本当にごめん…全部の罪を君に擦り付けて…
君がこんな思いするくらいなら僕なんか…」
言いかけた言葉を飲み込んで、少しだけ目を伏せる。
カナタ「…今度何か奢るよ、できる限りのことはするから」
シア「おいおい、だから大丈夫だっての
気にしすぎなんだよ」
軽く笑いながらも
シアは少し考えるように目線を泳がせる
そして急に、子供のようにニヤッと口角を上げた
シア「……まぁ、そこまで言うならさ
今日の放課後、一緒に遊びに行くか?」
カナタ「えっ……?」
思わず聞き返すカナタ
まさか遊びに誘ってくれるなんて思っていなかった驚きと嬉しさで、思わず目が輝く
シア「この前いい感じの飲み物屋さん見つけたからそこ行こうぜ、奢ってくれるんだろ?お前が嫌じゃなければだけど」
カナタは一瞬嬉しそうに顔をほころばせるが
すぐにその表情を曇らせる。
カナタ「……僕も行きたい、でも…寄り道なんてしたら怒られるから…」
その声には諦めが滲んでいた
せっかくの誘いなのに、応えられない自分が悔しかった
だが、シアはあっさりと言った。
シア「そんなの、“学校に残って自主勉してた”って言っとけばいいじゃん」
カナタ「た…確かに……!」
一瞬ぽかんとしながらも、カナタは納得してしまう
同時に、呆れと関心がないまぜになった表情でシアを見る
カナタ「…君って本当にずる賢いよね」
シア「お前が真面目すぎるんだよ」
ふっと笑い合う2人
その空気は、昨日よりもずっと自然で居心地が良かった。
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シア「じゃあ決まりな!放課後、ちゃんと待っとけよ!」
カナタ「うん!」
その瞬間、2人のやり取りをすれ違ったクラスメイトたちが目を丸くしていた。
「……え?あの2人って仲良かったっけ?」
「シアが誰かと仲良くしてるの初めて見たかも……」
教室に戻ると、ざわざわとした空気がカナタの背中を押してくる。
けれど、不思議と嫌じゃなかった。
なんだか、自分の世界が少しずつ変わっていくような
そんな予感がしていた――
放課後
昇降口で待っていると、シアが手を振りながらやってきた。
シア「おっ、ちゃんといるな!じゃ、行こうぜ!」
シアはカバンを軽く肩にかけ、校門の外へと歩き出す
カナタも少し緊張しながら、そのあとを追った
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校舎の影を抜け、町の通りに出ると
夕暮れの風が少し涼しかった。
アスファルトの道に伸びる2人の影が、並んで揺れていた。
シア「あっちのほうに、ちょっと変わった飲み物売ってるとこがあるんだよ!前に一人で見つけてさ」
カナタ「変わった飲み物…?例えば?」
シア「虹色のレモネードとか たこ焼き味のジュースとか」
カナタ「え、それって美味しいの…?」
シア「分からんけど 面白そうだろ!」
シアは突然、地面に描かれた白線に片足を乗せると、まるで綱渡りのようにバランスを取りながら歩き出した。
シア「ここから落ちたらサメに食われるルールな!」
カナタ「サメ!?そんなの聞いてないよ!」
カナタも白線の上を真似して歩く
ふと、自分がこんなふうに遊んでるのが少し不思議だった。
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カナタ「ところでジュースの値段ってどれくらい?1000円で足りるかな」
シア「いやいや、そんな高くないって
200〜300円くらいだろ…てか何円持ってきたんだ?」
カナタ「念のために2万円」
シア「に……2万!?お前外貨両替でも行くつもりかよ!?」
カナタ「どんなツッコミ!?え、そんなに変だった?」
シア「そんな大金持ってたら もしもの時大変だぞ」
カナタ「もしもの時って?」
その時だった、前方の路地から
ガラの悪そうな4人組の男たちがこちらに近づいてくるのが見えた。
そのうちのひとりがにやにやしながら声をかけてきた。
不良1「よぉ君たち、突然なんだけどさぁ…ちょっと金、貸してくんない?」
カナタの背筋がぞわりと冷える
シア「…こういう時な」
[登場人物紹介]
不良1 : 1番気性が荒く、1番口が悪い
自分が1番かっこいいと思ってるが
1番キモくて1番口が臭い
不良2 : モヒカンに憧れていたが「モヒカン」という名前だと言うことをしらず、散髪屋で間違えて「パーマ」と頼むバカ
不良3 : ビビりな性格、不良になる素質なし
帰って人形遊びでもしてたほうがマシ
不良4 : 自然と動物を愛する
趣味は読書、得意なのは裁縫