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第2話 真面目からの離脱

ある日、カナタはテストでいつもより

低い点数を取ってしまった

答案用紙が手元に戻ってきた瞬間、胸の奥がズクンと痛んだ


カナタ「(こんな点、今まで取ったことなかったのに……)」


数字は「78」普通なら十分高得点だが、カナタにとってそれは“失敗”だった

また怒鳴られる、母親のあの冷たい目が浮かぶ

空気が、家の空気が、また重たくなる…


そう思った瞬間、教室の中で息が詰まりそうになって、カナタは思わず立ち上がった


カナタ「す、すいません……トイレに行っていいですか……」


先生「分かった、行ってきなさい」


カナタは足早に教室を出た。

でも、向かったのはトイレじゃない

誰も来ない、静かな場所――校舎の裏


人気のない場所に着くと

壁にもたれかかってカナタは深く息を吐いた

生ぬるい風が汗ばんだ額を撫でていく

心臓はまだドクドクとうるさく鳴っている


カナタ「(なんて言い訳しよう…体調が悪かったって言うか?問題が難しかったって言うか…?)」


ぐるぐると頭の中で言い訳の言葉が回る

考えれば考えるほど、余計に胸が苦しくなるだけだった


そんなとき――足音が聞こえた


カナタ「(しまった! 誰か来る……!?)」


反射的に立ち上がり

逃げようとしたが間に合わなかった

角を曲がって現れたのは、あのシアだった


シア「うわっびっくりした! お前トイレじゃなかったのかよ」


カナタ「……なんだ君か」


シア「なんだってなんだよ! こっちがびっくりだわ」


カナタ「ここに何しに来たの?」


シア「ちょっと一服しに、授業なんて聞いてらんねーよ」


カナタ「(一服…もしかしてタバコ…!?)」


驚くカナタをよそに、シアはポケットから何かを取り出し、スッと差し出してきた。


シア「一本どう?」


差し出されたのはただのココアシガレットだった。


カナタ「ココアシガレットかよ!」


シア「へへっ、タバコよりこっちのが美味いからな」


ニヤニヤしながらそれをくわえるシア

バカみたいに不真面目で、でもどこか憎めない

やっぱり、僕とは正反対の人間だ――

カナタはそう思った


シア「てかさ、お前がこんなとこにいるのって珍しくね?いつもは絶対授業サボんないくせに」


カナタは少しうつむいて、小さな声で答えた。


カナタ「……実は、テストの点が悪くて」


シア「は?お前が?逃げたくなるほど悪いってどんだけひどい点なんだよ、ちょっと見せてみろって」


そう言ってシアは、カナタの手から無理やり答案用紙を引ったくった。


カナタ「あ、ちょっと!」


シア「どれどれ〜?」


ニヤニヤしながら答案を覗き込んだシアだったが、次の瞬間には表情が固まった。


シア「……は?78点……?どこが悪い点なんだよ!俺なんかこの前一桁だったぞ!一桁!!」


カナタ「でも僕はいつも90点以上だったんだ、これじゃ全然足りないよ……」


シア「はぁ〜〜!?マジで?真面目すぎだろお前」


シアは大げさに肩をすくめると、カナタをジッと見つめて言った


シア「お前ってさ、いつも勉強ばっかで真面目でつまんない奴だよな…飽きないの?」


カナタ「な……!好きでつまんない奴になったわけじゃないし!」


カナタは思わず声を荒げた


カナタ「君だって無鉄砲で自分勝手で、馬鹿で、うるさくて、いつも変なことばっかりやって!!」


シア「おいおい言いすぎだろ〜〜〜!?」


カナタ「僕だって…1度ぐらい悪いことしてみたいよ……」


その言葉は、喉の奥から絞り出すように出てきた

口にした瞬間、何かが崩れた気がして

カナタは怖くなった


シアの顔を見れなくて、思わず視線を逸らす


少しの沈黙のあと、シアはふっと笑った

そして、ポケットに手を突っ込んだまま

いたずらっぽい顔で言った。


シア「……なら今から一緒にサボろうぜ!学校!」


カナタ「……は!?何言って……!そんなことしたら僕……!」


リア「怒られるだろうな〜…でもさ、サボったことないなんて勿体なさすぎるだろ?一回ぐらいよくね?」


そう言って、シアはヒラリと片手を差し出した。

ただまっすぐで、どこまでも自由な笑顔で


シア「お前、怖がってるだけなんだよ

その気になれば、お前はきっと何処へでも行ける」


その言葉は、まるで心の奥に直接触れてくるようだった。

カナタは思わずシアの目をじっと見つめる。


逃げてきた思い

閉じ込めてきた願い

ふいに、それが言葉になって外から迫ってくる


シア「…どうする?行く?行かない?」


行っちゃダメだ、絶対に後悔する、怒られる


……でも


胸の奥で何かが、静かに揺れた


気づいたときには、もう手が動いていた

迷いの代わりに伸ばされたその手は、まっすぐ差し出されたシアの手をしっかりと掴んでいた。

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