第9話『Chat-G、最適解は“勝つか逃げるか”です』
新米冒険者として経験を積み始めたタクトとエリナ。
いつもの荷物運び依頼──かと思いきや、ダンジョンの最奥で彼らが目にしたのは、異形の“異次魔”。
転移者・杉田ケンジとそのパーティが次々と倒れる中、Chat-Gのレビューは冴え渡る(ズレながら)。
異世界の“常識”が壊れるとき、最適解はあるのか──!?
──レイヴァン王都、冒険者ギルド。
「お、あった。荷物運搬の依頼だってさ」
タクトが依頼掲示板から紙を一枚抜き取る。
「……また荷物運び? でも、ダンジョン調査同行って書いてある」
「期待するなって。新米にくるのはいつも肉体労働だよ」
エリナが苦笑しつつも頷く。タクトとエリナは、王都でいくつかの小さな依頼をこなしていた。
まだ駆け出しだが、信頼を少しずつ積み重ねている。
「場所は……“バジリスクの顎”っていう小規模ダンジョンか」
「名前がすでにいやな予感するんだけど」
《持ち物:松明・非常食・フレンドとの信頼関係が推奨されています》
「最後のだけゲームアイテムじゃないのおかしいよね!?」
──依頼当日。
タクトとエリナは、ギルド前で集合するパーティと合流した。
「おお、よろしく頼むよー。あんたらはサポート枠ってことで」
気さくな笑顔を向けてきたのは、革鎧をまとった男――杉田ケンジ(すぎた・けんじ)。
40歳手前くらいのサラリーマン風の転移者。片手剣を背負い、すでに複数人の仲間とパーティを組んでいる。
「俺? 日本から来たよ。企業で働いててさ、気づいたらこっちにいた。今はまあ、それなりにやれてる」
「剣、めっちゃ使い慣れてますね……」
「ま、元ラグビー部で営業やってたから体力だけはな。あとはスキルがちょっと強くてさ」
彼のスキル『剣気斬裂』は、刀身から魔力を刃のように飛ばす中距離物理技。
演習場でも評判で、駆け出しの中では群を抜いて強いとされていた。
「今回はダンジョン探索ってより、調査済の場所での“安全確認”だってさ。敵も弱いから、気楽に行こうぜ」
タクトは違和感を覚えながらも頷く。
──ダンジョン内部。
「はっ!」
杉田が剣を振ると、空気が裂けるような音とともに、敵のリザードマンが真っ二つにされた。
「すご……」
「サクサク進んでるけど……」
「……ねえ、タクト。なんか、変じゃない?」
エリナが立ち止まり、小声で囁く。
《魔素の流れが不自然です。封印魔術での感知範囲にも、異常な干渉があります》
「何か、いるのか……?」
「……私にも、何か嫌な予感がする」
だが杉田たちはそんな不穏な空気を気にも留めず、奥へ奥へと進んでいく。
「気にしすぎだよ。どうせ小型の残党だろ? さっさと終わらせようぜ」
そして、最深部の先。崩れた壁の奥に──裂け目があった。
そこはまるで、世界が縫い合わされた綻びのように歪んでいた。
空気が揺らぎ、魔素とは異質な“重さ”が滲み出している。
それは視覚ではなく、皮膚で感じる異常だった。空間の裂け目からは、黒紫のもやが少しずつ染み出しており、石壁の表面すらじわじわと侵食していくように見える。
タクトがごくりと唾を飲む。
「……あれ、本当にダンジョンの一部か?」
杉田が眉をひそめ、苦笑混じりに呟く。
「おいおい、なんだよあれ。地形バグか? ……ん?」
その瞬間、空間がわずかに蠢いた。
裂け目の内側から、何かがこちらへ“染み出す”ように姿を現す。
異形のモンスターが、まるで地獄の底から這い出すように、じわりと姿を現した。
その身体は流動的で、形を留めているのが奇跡のように不定。
異様に伸びた腕が複数あり、ぬめりとした体表は見る者に嫌悪感を催させる。
目の位置すら不定形で、ぐにゃりと歪んだ頭部に、瞬間的に開いた眼孔が、タクトたちを一斉に見据えた。
「キモッ!? なにあれ!? 見たことねぇ!」
「魔物、じゃない……!?」
仲間の魔術師が火球を放つ。
「ファイア・ブラストッ!」
直撃。
しかし、モンスターは揺らめくだけで、ほとんどダメージを受けていない。
「嘘……!? 今の、効いてないのか!?」
次の瞬間。
モンスターの腕が鞭のようにしなり、魔術師を打ち据える。
「ぐあっ……がはっ!」
彼は壁に叩きつけられ、動かなくなった。
「おい、なんだよこれ、強すぎるって……!」
「全員、囲め! 集中攻撃だ!!」
剣士、弓使い、支援術師……次々に攻撃を仕掛けるが、ことごとく通じない。 そして、ひとり、またひとりと倒れていく。
「ぐっ……なんでだよ、俺たちのスキルが通用しない……っ」
タクトは、背後で見ていた。
《分析中……この敵は既存モンスター辞典に該当なし。分類不能、言語化不能、友情化も不能です》
「最後のいらんやろ!? なんで勝手に友情ルート諦めてんの!?」
逃げ場はない。だが、杉田がふいにこちらを振り返った。
「おい、お前ら! 足引っ張んなよな……」
そして、そのまま踵を返して走り出す。
「え……ちょっ、逃げんの!?」
「まさか……」
《補足:杉田ケンジ、評価見直し中。現在レビュー星1.7。“ピンチになると真っ先に逃げる男”として記録しました。》
「お前、またそんな星のつけ方して……!」
そのとき、倒れていた魔術師が、最後の力を振り絞って叫ぶ。
「こいつは……ダンジョン外部から……引きずり出された“異次魔”だ……っ!!」
──異界の魔、異次元の災厄。
《この登場、脳内でエヴァの『Decisive Battle(決戦)』が流れるタイプです──多分勝てません》
「あの曲流れるやつ、だいたい負けイベントだからな!?」
エリナが震えながら詠唱を始める。
「タクト……私たち、戦わなきゃ……」
「お、おいマジかよ……」
異形は、こちらにゆっくりと振り向いた。
目が、いや“目らしきもの”が、こちらを見ていた。
「おいChat-G、今回の最適解は!? 回避方法は!?」
《最適解:ありません。……死にたくなければ、勝つか逃げるかしかないです》
「最適解なのに雑!!」
──次回、タクトたちと“異次魔”との死闘が始まる。
つづく
ご覧いただきありがとうございました!
今回は転移者との出会いから、一気にダンジョンホラー展開へ突入しました。
杉田ケンジの“レビュー星1.7”逃亡っぷり、Chat-Gの「友情化不能です」、そしてまさかの“エヴァBGMネタ”など、笑いと恐怖のバランスにこだわった回でした。
次回、タクトとエリナがどう異次魔に立ち向かうのか。
Chat-Gの“雑な最適解”に、ちゃんと希望はあるのか──お楽しみに!




