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第27話『Chat-G、演出優先モードに切り替えました』

セラの決死の防衛戦の代償はあまりに重かった──。

神獣の咆哮により、戦況はさらに混迷を極める中、タクトが選んだのは“覚悟”と“連携”。

Chat-Gと共に、突破口を切り拓けるか──。

──咆哮が、再び空を裂いた。


神獣ライグルヴァンの怒りは未だ収まらず、黒雷の奔流は空と大地を裂き、すべてを焼き払おうとしていた。

「っ……セラ!」

タクトは膝をつきながらも、血にまみれ倒れた少女へと駆け寄ろうとした──が、


「来てはなりません。彼女は今、“神威の残響”に包まれています」

リュシアがタクトを制する。


Chat-Gの警告が脳裏に響いた。

《警告:対象セラ=ノワールは、神威共鳴の臨界波に包まれています。接触すれば二次共振が発生し、生命維持に支障が出る可能性が73.4%──接近は推奨されません》


セラの体を包む淡い光──それはライグルヴァンの闇の力の干渉を抑えるため、彼女が本能的に展開した神威による防御結界だった。


《観測:セラ=ノワール、意識下で神威封鎖モードへ移行中。戦線復帰は現時点で不可能》

「……っ」

タクトは唇を噛み、拳を握る。


「……安心なさい、セラ=ノワール。今、癒しますわ」

王女リュシアが静かに手を差し伸べる。

その掌からは、通常の魔力とは異なる“重層的な文様”が空中に浮かび上がった。

王家に伝わる古の禁術──いや、“封印指定の古代魔術”。

その文様は、詠唱もなく彼女の意志に反応し、淡い金色の輝きを放つ。

「──応えなさい、“聖律の記録キリエ・レクス”。命の断章を、繋ぎ戻して」

空間が澄み渡るように静まり、光はセラの傷口に吸い込まれるようにして染み渡っていった。

それは即時の完治ではない。

ただし確実に、“死に向かっていた流れ”を反転させる力──

王族にのみ伝わる、秘められた“時の縫合魔術”だった。


だが──

「……っ!?」

その光が、セラの傷口に届くよりも早く、黒い瘴気が蠢いた。

もともとセラの体にまとわりついていた“闇の霧”──

それは、神獣の咆哮によって生じた瘴気が、深く肉体に染み込んだもの。

光が触れた瞬間、まるで拒絶するように黒く波打ち、光を“掻き消した”。

「……消えた……?」

リュシアの声が微かに揺れる。


「……なるほど。《時の縫合魔術クロノ・ステッチ》で傷の進行を止めようとしたけど……ライグルヴァンの闇属性の魔力で“時の糸”が乱されてる……!」

静かに状況を受け止め、再び手をかざすも焦りの表情が。

「やめませんわ。セラ=ノワールあなたは王国になくてはならない人──

王族のつとめとしてあなたの命は私が守ります。」

毅然とした声が、祈るように響いた。

セラの命を──その意思を繋ぐために。

何度も何度も術を重ねるリュシア。

けれど、セラの傷は血を流し続け、止まる気配はなかった。

王女の瞳に絶望が宿る。


雷鳴の残響にかき消されるように、少女はただ──立ち尽くしていた。

エリナ=ラフィーネ。

杖を握る手は震え、視線の先には──崩れ落ちたセラの姿。

左腕を失い、瀕死のその姿を、ただ見つめるしかできない。

──私は、何もできない。

喉の奥が焼けるようだった。

「……セラ……!」

声にならない声が漏れる。


“守りたい”と願ったはずだった。

──けれど。

目の前で崩れ落ちたセラの姿が、過去の光景を呼び起こす。

焼け焦げた屋敷、倒れた両親、そして──笑って手を引いてくれた姉の、最後の背中。

気づけばエリナの肩は震えていた。

“また誰かを失うのか”という恐怖が、胸の奥から這い上がる。

“何もできなかった”という現実が、まるで鎖のように心を締めつける。

(……もう、あんな思いは、したくない)


崩れ落ちそうになるその肩を、背後から静かに支える者がいた。

「……下がってろ、エリナ」


タクトの声は、怒りでも悲しみでもなかった。

“まっすぐに進む者の声”だった。


彼はChat-Gとのリンクを強め、青白い戦術光を身に纏う。

「ここからは──俺の仕事だ」

振り返ることなく、タクトは前へ進んだ。

《補足:戦術AIによる支援がないと、あなたの生存確率は6.2%です。あと、仕事というより共同作業です》

「……なぁ、せめて今くらいはカッコつけさせてくれない!?」

タクトが叫ぶように言うと、Chat-Gは一瞬だけ黙り込む。

《了解。演出優先モードに切り替えます。どうぞ、ご自由に》


セラを襲った神獣ライグルヴァンと、空間を操る魔族ヴァルト──

あれを倒す? 今の俺が?

「……無理だよな、普通に考えたら」

誰に向けるでもなく、そう呟いた。

けれど、立ち止まる理由にはならない。


タクトは腰に下げた剣の形をした初期型AI補助武装──“アーカイブ・ブレイカー”を握りしめる。

「Chat-G、聞こえるか。どうすれば……勝てる?」

《戦術提案モードを起動。前提条件:敵は神格存在および空間歪曲型魔術師。通常戦術による撃破確率は、2.8%──》

「低っ!」


《ただし、同時連携、位置誘導、錯誤利用の3条件を満たせば、戦術的突破口が存在。成功率、18.2%まで上昇》

「いいじゃねぇか。上等だよ──二割あれば十分だ」


その声に、覚悟がにじむ。

タクトは静かに目を閉じる。意識を集中し、Chat-Gとの“リンク”を強くイメージする。

(セラがやられて、俺が逃げていいわけがないだろ)

「やるだけ、やってみる。……その先に、道があるかもしれないからな」

アーカイブ・ブレイカーが淡く発光する。戦術リンクが完全に接続された証。


風が唸る。


空気が震える。


──でも、タクトの心はもう、揺れなかった。


つづく

今回は、セラの離脱とリュシアの癒し、エリナの葛藤、タクトの決意と、キャラそれぞれの想いが交錯する展開でした。

ここからタクトの“戦術教官AI”との真の連携が始まります。次回はいよいよ反撃パート、盛り上げていきます!

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