第25話『Chat-Gが「暴走率97%です」って言った時はだいたい手遅れ ~神の咆哮と堕ちた誇り~』
王女の登場で、儀式の“偽り”が暴かれたその時──魔族ヴァルトは狂気の一手に出る。
封印を強引に破ることで目覚めた存在は、かつて神と呼ばれし白銀の狼。
人の信仰に裏切られ、怒りと共に堕ちたその神が目覚める時、
セラ=ノワールの“神との対話”が、静かに始まろうとしていた──
……が、Chat-Gは今日も安定の外道解説スタイルです。
封印の祭壇上、王女の正体が暴かれ、場が凍りついてからわずか数十秒──
空気が、ひび割れた。
「……く、くく……ふざけやがって……!」
ヴァルトの肩が震えた。だがそれは怒りではなく、笑いだ。
「替え玉だと……? そうか、それで“開かない”わけだ」
彼の目が血走り、狂気が滲む。
ヴァルトが懐から、黒金に鈍く輝く短杖を取り出した。
まるで金属と骨が融合したような不気味な造形──その表面には、何層もの魔力刻印が蠢いている。
「ふふ……予定変更だ。鍵が開かぬなら、壊すまでのことだ」
彼は祭壇の地脈へそれを突き立て、低く、古代語にも似た詠唱を始めた。
「なっ……!? 何をする気……?」
セラが目を見開く。だがその術具の正体までは、彼女にも判別がつかない。ただ、**“それが尋常なものではない”**ことだけは、本能的に理解できた。
「やめて……! 神格封印は、力でこじ開けていいようなものじゃない! そんなことをすれば……!」
地面に刻まれた封印陣が、赤黒い光を帯びてひび割れていく。
地脈が悲鳴を上げるように振動し、空間そのものが不穏にうねる。
ヴァルトが口元を歪める。
「この秘宝、《禍壊の楔(イビル=スパイク)》はね……“神の心核”に楔を打ち込み、封印ごと“力”を引きずり出すためのものさ。
副作用? 制御? 知ったことか!」
《警告:神格封印への強制干渉を検知。術式の暴走確率:97.6%》
タクトがChat-Gに顔をしかめる。
「おい……なんで毎回“高確率でやらかす”前提なんだよ!」
《本機は過去ログに基づき、フラグ建築時には“自動で死亡率を表示”する仕様です》
「お前それ……ホラー映画の予告編か! “このあと、奴は暴走する――!”ってナレーション流れるぞ!」
セラは、滲む汗をぬぐいながら吐き捨てた。
「……狂ってる。力だけを求めて、“神の意思”を無視するなんて……!」
「神など、“器”にすぎん。ならばその力だけ、いただくまでだッ!」
術式が爆ぜる。
神核から放たれた光が、天井を突き破り、空間全体を震わせた。
岩盤が音を立てて砕け、洞窟そのものが“息を呑む”ように静まり返る。
次の瞬間──
“それ”は現れた。
雷と闇をまとい、白銀の毛並みが禍々しい輝きを放つ、巨大な狼。
その瞳に理性はなく、牙には信仰を砕いた痕跡が刻まれていた。
かつて人々に崇められ、神の座にあった存在。
だが今は──
ただ、怒りと破壊の本能に支配された“堕ちた神”
《ライグルヴァン》
地鳴りと共に踏み出す一歩が、空間そのものを軋ませる。
誰もが、言葉を失った。
その咆哮が、次元を裂いた。
「──くっ、強制覚醒か……!」
セラが歯噛みする。
「……な、なんだよあれ! 神って……あれのことかよ……!」
セラが続けて低く呟く
「……あれは……“ライグルヴァン”……かつて神威の座にあった、雷と闇を司る神格……!」
リュシアはマントの裾を優雅に払って一歩進み、あくまで微笑みを絶やさず、ヴァルトを見据える。
「まあ……お話はよく分かりましたわ。つまり、“神の力”がなければ、勝てないのですね? ご自分ではどうにもならないから、封印にすがったと」
ヴァルトの眉がぴくりと動く。
「そんなに焦って。まさか、他に“切り札”も“自信”もお持ちでなくて?
それとも……“神頼み”が貴族流の戦術だとでも?」
「貴様……!」
「ご安心なさい。そういった方、昔から多くいらっしゃいましたもの。“名ばかりの指揮官”とか、“自称・天才戦略家”とか。
ただ、“神におすがりになった瞬間”から、それはもう敗者の論理ですわね」
「……すげぇ。品のある口調なのに、言ってること刃物じゃん」
《現在の発言、心理誘導・情報抽出・戦意撹乱の三重構造。分類:“ロイヤル・毒舌コンボ”》
リュシアはくすっと笑みを浮かべると、あくまで無邪気な声で尋ねた。
「ところで、そちらの術式……暴走の兆候、もう見えてらっしゃるのでは?
──あら、大丈夫? これ以上、失敗を重ねると……今度こそ“見世物”ですわよ?」
だがその瞬間、セラが何かに気づくように顔を上げた。
神核から発せられる、別の“波動”。
「……この力、間違いない。私の契約神──《ルクス=オルド》が、反応してる……?」
《補足:神威契約体“ルクス=オルド”と対象“ライグルヴァン”の神格波長に類似性を確認。過去に深い関係性があった可能性あり》
「……関係があった? まさか、神と神の間で……?」
セラが驚きに目を見開く。
その胸の奥で、何か懐かしい音が響いた気がした。
「ならば──」
セラは静かに剣を構えると、一歩前へと進み出た。
セラはそっと目を閉じる。
意識の底に、静かに呼びかけた。
──《ルクス=オルド》、教えて……。
淡い光が心に灯る。
その瞬間、世界が、転じた。
彼女の視界に、誰も知らぬ過去が流れ込んでくる。
荒野に立つ、白銀の神狼。
その姿は荘厳で、清らかだった。
──“ザル=ヴェルガス”。
かつてそう呼ばれていたその神は、
雷と闇を司り、人に知恵と導きを与える“戦の守神”だった。
祈りは絶えず捧げられ、民はその威光に感謝を捧げた。
……だが。
時が経ち、祈りは命令へと変わった。
「もっと力を」「敵を滅ぼせ」「我らに勝利を」
彼が授けた神威は、やがて戦争の道具となり、
その尊厳は、欲望にまみれた人間たちに踏みにじられていった。
セラは息を呑む。
心の中に、言葉にならぬ“想念”が渦巻いていた。
──信じた。だが、裏切られた。
──与えた。だが、利用された。
──それでも、もう一度……信じたかったのに。
そして、最後の光が消え、
心に残ったのは、“怒り”と“喪失”だけだった。
「……あなた……」
セラが微かに眉をひそめ、低く呟いた。
「“神”としての矜持を、踏みにじられたのね……」
目の前の神獣ライグルヴァンは、もはや神の姿ではなかった。
けれど、確かにそこに、“心”の痕跡があった。
「……まだ、戻れるはずよ。あなたの声は、まだ静かにここに残っている。だから……」
彼女の叫びに応えるように、空間に軋むような重圧が走る。
だがその瞬間──雷が咆哮し、セラの足元を抉った。
地が裂け、黒き稲妻が爆ぜる。
それは拒絶。
それは、怒りの本能。
交信は断ち切られた。
突如、空間が震えた。
ライグルヴァンの咆哮が響き、雷が地を貫いた。
──ズドォン!!
黒雷が爆ぜ、再びセラの足元を穿つ。だが彼女は退かなかった。
その身に刻まれる痛みをもって、なお──彼女は言葉を紡ぐ。
「……あなたが与えた力は、今も誰かの“祈り”になっている。すべてが裏切りではなかったはずよ」
ライグルヴァンが咆哮を放ち、空間が激しくゆがむ。
セラの声は届かなかった。怒りは理性を飲み込み、神の姿をした“災厄”が目覚めようとしていた。
《対話干渉、完全失敗。感情暴走率120%。該当シナリオ:和平ルート崩壊。バッドエンド分岐入りました》
タクトが青ざめた顔で叫ぶ。
「ちょっと待て、それってもう選択肢ミスったやつじゃん!」
《ご安心を。ここから隠しルート「暴走神獣バトル編」へ自動分岐中。》
「いやご安心じゃねえよ!選ばせてくれよ!」
Chat-Gの軽口をよそに、再び天を衝く雷鳴。
神の咆哮が、戦いの始まりを告げる。
──つづく
ご覧いただきありがとうございます!
25話は物語の大きな転換点──「神獣の覚醒」「リュシアの毒舌知略爆発」「セラの神との交信」「Chat-Gの相変わらずのズレっぷり」など盛りだくさんの展開となりました。
次回は、暴走する神獣ライグルヴァンとの交戦。そして、エリナとタクトの新たな連携にも注目!
どうか引き続きお付き合いくださいませ。感想・レビュー励みになります




