第24話『Chat-G、王女の名探偵ムーブにフリーズする』
封印の地へと進むセラたちを待ち受けていたのは、魔族ヴァルトと仕組まれた“神の力”の解放儀式。
だがその儀式には、ある致命的な“誤算”があった……?
次々と巻き起こる想定外の展開──そして現れる、あの人物の“鮮やかすぎる登場”。
Chat-Gも思わずエラーを吐く、第24話スタートです。
──封印の地・外縁部、渓谷を抜けた先の岩窟群。
重い沈黙の中、第三騎士団の精鋭二十名と、タクト、エリナ、セラを含む特別小隊が、すでに幾度かの魔族との交戦を経て、地下層の深部へと進軍していた。
魔族たちは断続的に襲撃を仕掛け、待ち伏せと罠を巧妙に織り交ぜてくる。騎士たちの数人はすでに負傷しており、隊内の回復術士たちの治癒魔法によってかろうじて戦線を維持している状態だった。
騎士たちの数人はすでに負傷しており、隊内の回復術士たちの治癒魔法によってかろうじて戦線を維持している状態だった。
岩壁の裂け目を抜けると、そこに現れたのは、淡く光を帯びた紫紺の障壁――結界だった。
その前に立つのは、異様な風体の魔族。
顔を白く塗り、道化師のような滑稽な衣装をまといながら、目だけが鋭く光を帯びている。
「ひゃあ、やっとお出ましかな?」
男は唇を歪めて笑った。
「通行制限、かかってますんで。中に入れるのは……“特別なご招待”を受けたお三方だけ。
――セラ=ノワール。タクト。エリナ=アルフィーネ。以上」
騎士たちが剣に手をかけるが、結界から放たれる圧に本能的に怯んだ。
タクトが小さく息をのむ。
「……セラさん、どうする?」
セラは一瞬、後ろを振り返ると、静かに頷いた。
「ここから先は、私たちで行くしかないわ。第三騎士団は、後方待機。万が一の際は、脱出路の確保をお願い」
副官が顔をしかめるが、命令には逆らえず、騎士たちは無言で頷いた。
タクト、エリナ、セラの三人が、淡く揺れる結界の中へと足を踏み入れる。
空気が一変する。
湿った風が肌を撫で、何か“見えざる視線”が全身を這うような、異様な気配。
そして――
不意に、奥から声が響いた。
「ようこそ。“継承者の玩具箱”へ。わざわざ罠にかかりに来るとはね」
声の主は、あの男。
かの魔族──ヴァルトが、玉座のような石の台座に腰掛けていた。
「……やっぱり出てきやがったか」
タクトが剣に手をかける。
だがヴァルトは微笑みながら言った。
「焦るな。今日はまだ“戦闘”の予定はない。観客席に座っていてくれ……主役の登場は、これからだからな」
セラが鋭く睨む。
「……目的は、何?」
「目的?」ヴァルトは片眉を上げて笑った。
「それはもちろん、“神の力”の開放さ。君たちが“封印”と呼ぶ、この地に眠る存在……それを、我が主に捧げる」
「……“神の力の開放”? それって……まさか、この地に眠ってる何かを“利用する”ってことか?」
《警告:敵性魔力の増幅反応確認。封印区画にて、強制転移式の術式稼働中》
タクトが叫んだ。
「……王女を媒介に、封印を解こうとしてるのか!?」
「お察しの通りだ。あの姫君には“神との媒介”としての才がある。儀式の触媒として、実に優秀だったよ」
ヴァルトの瞳が、愉悦に染まる。
「だが、本来こんな手間は要らなかった。我が上司は……少しだけ、“見世物”を望んでいてね。
“継承者”をここに呼び、“神の力”の前に屈する様を見たがっていた。とても趣味が悪いとは思うが、命令には従う主義でね」
セラの眼が冷たく光る。
「その“趣味の悪い上司”とやら、今ここにいないのなら──せめてあなたで、見せていただこうかしら。“神の力”とやらに、屈しない者の姿を」
タクトが剣を抜きながら、Chat-Gに囁く。
「おい、なんかやべーの来そうな気配なんだけど……予測は?」
《演出構成より推定:中ボス戦以上、ラスボス未満のテンションです》
「ジャンプアニメ構成か!」
そのときだった。
封印の祭壇の中央──拘束された少女の姿が浮かび上がる。
ヴァルトが嘲笑を浮かべる。
ヴァルトが壇上に歩み出ると、封印の祭壇の中心に拘束された少女──“王女”が淡く光を帯び始めた。
魔法陣が静かに点灯し、青白い光が空間を満たしていく。
「王家の血を媒介に、神の力を引き出す……」
ヴァルトは両手を掲げ、狂信的な表情で呟く。
「神威の封印は、王の直系によってのみ解除される。……ならば、この娘で十分だ。血統的にも、儀式構文の条件はすべて整っている」
膨れ上がる魔力が天井を震わせ、洞窟内の空気がざわめく。
そのときだった。
《警告:術式進行中における適合異常を検出。媒介個体の魔力が基準値を下回っています》
チャットGの冷静な解析音声が、突如その場の緊迫感を切り裂くように響いた。
「……なに?」
ヴァルトの笑みがぴくりと引きつる。
魔法陣が徐々に不安定に瞬き始め、術式の輪郭がぐにゃりと歪んだ。
「ばかな……構成は完璧なはずだ。王家の魔力反応も確認済み……っ!」
しかし──
少女から放たれていた魔力は、次第に“薄く”“異質なもの”へと変化していく。
その場の誰もが、“何かが違う”と直感的に悟った。
《媒介個体の識別照合──王家・リュシア=アルゼリアと“一致しません”》
「……なにぃ……!?」
ヴァルトの声が裏返る。
「どういうことだ……この娘は……誰だ……!?」
そのときだった。
祭壇の奥、朽ちた石柱の陰──
誰も気づかなかった暗がりから、ゆっくりと足音が響いてきた。
コツ……コツ……。
硬質なブーツの音が静寂を裂き、緊張の糸をさらに引き絞る。
光の射す岩場の切れ間に、その姿が現れた。
薄紫のマントをふわりと翻し、
星の刺繍が施された王家の正装を身にまとい、
まるで舞台の幕開けのように、優雅に一礼した少女──
その瞳には、聖なる輝きと、どこか愉悦めいた笑みが宿っていた。
「──その子は“替え玉”よ。わたくしでは、ありませんの」
声は澄んでいた。だが、確かな威厳を帯びていた。
一瞬、誰もが言葉を失った。
タクトがぽつりと呟く。
「……本物……?」
少女はにっこりと微笑んで、言った。
「ふふっ、“第二王女”リュシア=アルゼリア、ただいま登場。
……さあ、続きをどうぞ? “舞台”がお好きなんでしょう?」
ヴァルトの目がかっと見開かれる。
「……バカな、どうしてお前がここに……!」
リュシアは一歩踏み出し、マントの裾を優雅に揺らしながら微笑む。
「“どうして”とはご挨拶ね。王女が、自国の危機に顔を出してはいけないとでも?」
そして、替え玉の少女をそっと振り返り、
「その子は忠義深い侍女。わたくしの“影”を務めてくれた、かけがえのない存在ですわ」
一同が凍りつく中、Chat-Gが機械的に解析する。
《想定外展開:王女本人による真犯人告発スタイル。該当カテゴリ:“探偵モノ終盤のドヤ顔登場”》
タクトが素で漏らす。
「なにこの名探偵ムーブ……! 『すべてお見通しですわ』って顔してる!」
リュシアがくるりと杖を回しながら、ヴァルトを指差す。
「さあ、続けなさいな。貴方の計画、“どこまで崩壊するのか”見てあげる」
リュシアが冷たく微笑む。
「神の力? ふふ、貴方の“お遊び”に付き合うほど、わたくし暇ではありませんの」
「黙れええええぇッ!!」
ヴァルトの怒声が、洞窟全体に轟く。
つづく
いかがでしたか?ついに登場したリュシア=アルゼリア王女、まさかの“探偵風”ムーブで完全に主役をかっさらいました。
そしてヴァルトの焦りっぷりにも注目ですね。
次回は、怒れる魔族の暴走…!?
クライマックスへ向け、どんどん波乱の幕が開いていきます。お楽しみに!




