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第23話『Chat-G、陽動作戦にはまる』

王都に衝撃が走る。

第二王女リュシアの突然の失踪。そして浮かび上がる“封印の地”との関連。

ヴァルトの狙いはセラたちの戦力を引き離すことだったのか?

すべての布石が、神威と禁忌の領域を呼び覚ます――

──王都・中央聖堂区・王宮警備塔

「……第二王女殿下が、“神殿前で忽然と姿を消した”だと?」

国王直属の軍監察官が顔をしかめる中、セラ=ノワールは眉をひそめていた。

「痕跡は?」

「……魔力干渉は確認されました。“転移型”の痕跡です。ただし発信源は不明です」

その報告に、王都の会議室は一瞬、静寂に凍りついた。

言葉を失った重役たちの間に、ざらついた不安がゆっくりと広がっていく。

王女の名はリュシア=アルゼリア。まだ十三の少女でありながら、王都では“聖なる微笑”と称される気品と慈愛を持つ存在だった。


タクトは思わず口を開く。

「……王女って、たしか“王家の血統が特に濃い”って言われてるんだよな?」

「そう。“神との媒介”としての適性が高い家系。……それが、誘拐された」

エリナが声を潜める。

「それって……まさか、前の戦場でヴァルトが言ってた“舞台”って……」

「ベルグラードの戦い、もしかして、“陽動”だったんだ。

セラさんたちをあの場に引きつけて……その隙に、王女を――」


Chat-Gが即座に解析報告を出す。

《時系列および戦力配置から見て、誘導戦術の可能性:極めて高い。

セラ=ノワールおよび第三騎士団の移動を計算に入れた上での作戦と思われます》

タクトが苦々しく呟いた。

「やられたな……完全に、罠だったってことか」

セラは静かに頷く。

「ええ。王女を誘拐するには、第三騎士団をあの場から遠ざける必要があった。

ヴァルトの“演出”は、まさにそのための前座だったのよ」

「……おいChat-G、お前、こうなるって予想できなかったのかよ!」


《まさか“決着編”の次が“王女誘拐編”に続くとは……予想外の展開です》

「ジャンプ漫画かよ!インフレの予感しかしねぇ!」


セラが、報告書を手にゆっくりと口を開いた。

「封印の地──北東域で、王女リュシアの魔力と一致する痕跡が検出されたわ。

さらに、遺跡入口付近では“転移術式”の残滓も確認されてる。

……本日、正午頃の反応。時系列的にも、ぴったり合致してる」


タクトが息を呑む。

「……つまり、連中の“舞台”はもう用意されてたってことか」


《王女リュシアは、歴代王家の中でも“神媒適性”が高い個体と記録されています。

対象の誘拐は、封印の地の“何か”に対する起動条件の可能性が存在します》


セラの顔には、言い知れぬ緊張が浮かんでいた。

「“封印の地”──本来は神々が“神威の器”を安置した場所。

人間が触れることを許されぬ、禁忌の地」

「そこに……誘い出された?」


「……行くしかないわ。

あの場所は、ただの遺跡じゃない。“何か”が目を覚まそうとしている……そんな気がするの」


──王都・戦後報告会の翌日、騎士団本部・簡易食堂。

「ところでさ、セラさん」

タクトがスプーンを持ったまま、不意に問いかけた。

「前にベルグラードで、セラさんのことバカにしてた貴族ども……あいつら、結局どうなったんだ?」

「……ローデール侯は、前線で行方不明。オルクステン伯は深手を負って療養中らしいわ」

セラはあくまで淡々と告げた。

「行方不明……」

「撤退命令を無視して魔族の中央に突っ込んだからね。自業自得、とも言えるけれど」

エリナが目を伏せるように呟く。

「貴族って……そういう人もいるんだね」

「まあ、ああいうのは“格式でしか物を測れない”連中さ。気にするだけ損だ」

タクトが肩をすくめる。

するとChat-Gが静かに補足する。

《統計データ:戦場における撤退命令無視の貴族指揮官、生存率21%》

「……なんかもう、数字で出されると悲惨だな」

《ちなみに参考文献:“誰も撤退してくれない戦場で、私は死んだ。”(著著:グスタフ=フォルシュ)

★☆☆☆☆「戦術書かと思ったら、全部自分の死因でした」──Amazonレビューより》

「タイトルが遺言なんよ!」


──その後、三人は控えの間で軽い夕食を囲んでいた。

温かなスープとパン、王都で焼かれたチーズパイがテーブルに並ぶ。

「セラさん……あの“神威”って、どうやって使えるようになったの?」

ふと、エリナが切り出した。


セラは少しだけ視線を落とし、そして静かに答えた。

「……私の家──ノワール家には、“守り神”が代々仕えているわ。けれど、神威を得られるのは、その神に認められ、神託を受けた者だけ」

「全部の貴族に神がいるってわけじゃないのか?」

タクトが驚いたように問い返す。

「ええ。神威継承者は、限られた存在よ。そして……」

セラは少し間を置いて、エリナを見る。

「あるフィーネ家も、もともとは貴族だったわね。あなたの家にも“神”がいたのでは?」


「……え?」

エリナが驚いた顔をする。

「神威なんて知らないけど……昔、お父様から、“あるフィーネの家には、代々受け継がれる“加護”がある”って、そう聞かされたことがあるの」


セラが目を細める。

「……なるほど」


「昔、そんな話を聞いたことはあるけれど……今ではもう、確かめられる人も場所も、残っていないの」

エリナの言葉が、どこか不安と希望の入り混じった響きを帯びていた。


──そして夜。空には雲が流れ、星がちらちらと覗く。

タクトはそっと窓辺に立ち、遠くを見つめていた。

「……王女誘拐、封印の地、神威……全部が繋がってきてる。次の一手が、鍵になるな」


──次回、第24話「誘われし神域」

ご覧いただきありがとうございます!

今回は物語が一気に“神威”の領域へ踏み込む準備回となりました。

会議室シーンの緊張感、戦後の会話劇、そしてエリナの家系に隠された伏線など、地味ながら情報量はかなり多め。

個人的には、Chat-Gの「タイトルが遺言なんよ!」が今話のMVPです(笑)

次回はいよいよ封印の地へ。

“神”と“獣”と“記憶”が交差する、次なる章へご案内します。


➤ 次回:第24話『誘われし神域』 お楽しみに!

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