第21話『Chat-G、王都で真実を暴露し、剣の名付けに混乱を招きます』
魔族との交戦を経て、タクトたちは王都へ戻る。
セラの報告に始まる評議庁での作戦会議は、やがて魔族の“階層構造”という新たな現実と向き合う場となる。
Chat-Gが放った一言が、会議室の空気を一変させ――そして訓練場では、タクトの新たな剣が動き出す。
──王都・評議庁第一戦略会議室。
厚い石壁に囲まれた荘厳な会議室。
中央には円卓が置かれ、王都における各部門の要職たちが一堂に会していた。
第三騎士団長セラが報告を終えると、部屋には一瞬だけ、深い沈黙が満ちる。
第一騎士団の老将、第二騎士団の副官、魔術省の研究官ゼクト=レイン、王都評議庁の作戦官、召喚管理局の監視官など、
王都の中枢が顔を揃えていた。
円卓の端には、タクトとエリナが控えており、その横でChat-Gが静かにデータの演算を続けている。
魔術省のゼクト=レインが立ち上がり、淡々と語る。
「──現在、王国領内外における魔族の出現数は、過去三ヶ月で4.6倍に増加している。
特に上位存在とみられる痕跡は、従来の“単独出現”から、“多層階での出現”へと変化しつつある」
騎士団長たちがざわつく中、ゼクトは一枚の魔術印付きスクロールを広げた。
「魔族は、単純に“強さ”で分類されるのではなく、“階層”によって支配されています。
下級は獣型、中級は部隊指揮を可能とする知性持ち。上級になると……爵位のような格がつく」
タクトとエリナが息をのむ。
「……あの、ヴァルトは?」
「男爵級。それでも充分危険だけど……その上に、“侯爵”や“公爵”クラスが存在する。私たちはまだ、ほんの表層しか見ていない。」
「……魔族・男爵級の個体を、我々は先日撃退した。その際、神威の発動も使用している」
セラが冷静に言い切ると、周囲がざわめいた。
「神威継承者が出て、ようやく“撃退”か……」
第一騎士団長が重々しくつぶやいた。
「つまり、それより上位――子爵級以上となれば?」
その問いに対して、Chat-Gが一拍置いて、事務的に告げた。
《現王国戦力による“子爵級魔族”への勝率──推定8.2%。
対応可能人材:神威継承者“以外”は現時点では不可能 副官級以下は有効打を与える可能性なし》
会議室が静まり返る。
「えっ……お前、今それ言う!? しかも、めっちゃ数字低い……!」
タクトが思わず声を上げる。
「副官級では無力だと……?」
若い第二騎士団副官が眉を吊り上げ、怒気を露わにする。
「貴様、機械風情が、我々を“足元にも及ばない”と?」
《数値上の判断です。戦場における出力と損耗率からの解析結果に基づいています》
Chat-Gはあくまで冷静だった。
副官が立ち上がろうとした瞬間、セラが手で制した。
「落ち着いて。私でさえ、あのヴァルトには“神威”を使わざるを得なかった。
通常の剣技で彼の装甲を突破するのは……難しいと思うわ」
副官「……ッ!」
第一騎士団長が低くうなり、ゼクトが口を挟む。
「数値の信頼性はともかく、少なくとも貴様ら召喚者が“規格外”であることは事実だ。
だがそれが“制御可能な戦力”かどうかは別問題だろう」
セラが一歩前に出る。
「私はここで、彼らを討伐任務に正式推薦します。
タクトとエリナの力は、試験的戦力ではなく“実戦で通用する戦力”に育っています。
特にタクトの武装は、魔族との局面を打開できる“鍵”になる可能性がある」
ゼクトは静かに目を細める。
「その剣、《アーカイブ・ブレイカー》の演算も魔術省で分析する必要がある。
それまでの間、監視下での戦線参加を認めるというのが妥当だな」
副官は口を閉じたまま、静かに視線を逸らした。
だがその拳は、膝の上でわずかに震えていた。
タクトがやや緊張気味に頷き、会議は一時閉会となった。
──第三騎士団・訓練場。
タクトが静かに息を吐き、右手の剣──《アーカイブ・ブレイカー》を構え直す。
一歩、踏み込む。
その瞬間、剣身の内部で光の“回路”が走るように点滅を始めた。
《補助演算起動中。干渉波長、安定。攻撃演算同期率:82%》
剣を振り抜くと同時に、刃の周囲にわずかな“空間のゆらぎ”が生じた。
まるで**空気ごと“断ち切った”**ような感触。
目には見えないが、斬撃の軌跡が“干渉領域”として数秒間だけ空中に残り、淡く揺れている。
「……うわ、今の――何か、ズレた……?」
タクトが振り返ると、背後の模擬標的の一部が時間差で崩れ落ちた。
木材では説明できない“情報の欠損”のような破損痕。切り口が歪み、部分的に素材そのものが“なかった”かのような異常な空洞が生まれていた。
「……今の、ホントに斬ったのか?
なんか、“空間ごとズレて切れた”って感じだったぞ……」
《干渉領域による存在断層処理が成功しました。わかりやすく言うと、“当たってなくても当たってます”》
「説明が余計に怖いよ! っていうかチートだろそれもう!!」
Chat-Gが淡々と補足。
《名称カスタム機能が開放されています。ユーザーの趣向に基づき、自動生成された名称案:“禁忌解放式・零式断刃【リライター=ブレイカー】”》
タクト「長い!! 中二どころかラノベタイトルじゃねーか!!」
エリナが真顔で言う。
「……“聖断・レクイエム=ノヴァ”とかもいいよね。副題、ある方が余韻が出るし」
「真顔で返すのやめろ!? しかも“副題ある方が”って何基準!?」
《候補例:“タクト・ファング” “断罪式ファントムΩ” “剣(仮)” “ブレードさん”》
「急に手抜くな!! てか“ブレードさん”て誰だよ!!」
タクトは剣を見つめながら、ぽつりと漏らす。
「……名前はまだ決まらないけど、これで……ちゃんと、戦える気がする」
《主観による発言を検知。なお、“戦える気”の信頼係数は未定義です》
「今だけは黙ってろ……!」
──つづく
今回は王都での作戦会議と、タクトの新装備の描写回でした。
Chat-Gの“正論爆撃”と、副官との火花は今後の火種になりそうですね。
一方、エリナの命名センスがChat-Gと妙に波長が合っているのは、今後のギャグ枠でも活きてきそうです。
次回、ついに前線へ――22話「魔族封鎖戦線・ベルグラードへ」、お楽しみに!




