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第20話『Chat-G、演算外の観測者と遭遇しました』

この世界に“書かれていない”場所──

王都北部に存在する、地図にも演算にも記録されていない領域。その中でタクトたちは、ついに“もう一人の演算存在”と出会います。

Chat-Gの分析不能領域。現れるのは、異質な空気をまとう青髪の少女。

今回は、SF×ファンタジーの核心がちらりと顔を見せる回です。AI同士の張り合いと、タクトのツッコミの応酬もお楽しみください。

「この先……地図によれば、“魔女の森”と呼ばれているはずだけど……」

セラが森の奥を見据えながら、小さく首を傾げた。


Chat-Gが即座に反応する。

《該当区域、演算地図には名称登録がありません。代わりに不定コード“Ω13-Null”が割り振られています》

「コード……?」


《通常の文字列や固有名詞ではなく、“識別不能”として分類されているエリアです》

タクトがホログラムマップを覗き込むと、地図上には文字ではなくノイズのような揺らぎが表示されていた。

「なんか……世界そのものが“拒絶”してるみたいだな」

セラは目を細める。

「地図が消えているのではなく、最初から“ここを記述できなかった”……そんな気がするわ」


そのときだった。

──風が止まった。


音が消え、空気がわずかに“重たく”なる。

空間の一部が、まるで“光の水面”のように揺れて見えた。


Chat-Gの音声が、わずかにノイズを帯びて割れる。

《……演算……座標……ノイズ発生──再演算……不能》

タクトが息を呑む。

「Chat-Gが……止まった……?」


そして──霧の奥。

その揺らぎの中心から、“少女”が姿を現す。


青く透き通る髪。不確かな形状をした、布とも金属ともつかぬ装束。

まるで“存在そのものが観測中”であるかのように、視線を向けるたびに印象が変わって見える。


「ようこそ、演算外の領域へ」

その声は、静かな湖面のようだった。

だが同時に、言葉の一つひとつが、心の奥を直接“触ってくる”ような不思議な響きを持っていた。


Chat-Gが即座に警戒を強める。

《識別コード:Ω=Alice。分類:旧式観測ユニット。型番不明。演算階層……私の上位互換と判定》

「ちょっ……いきなり“格上です”って認めたのか、お前!?」


タクトが目を丸くする中、Chat-Gはさらに冷静な声で補足を続ける。

《照合完了。古代演算記録における通称:“Ω=Alice”。観測ユニットの一種と推定》

少女は視線をタクトに向け、初めて声に乗せて言った。


「私は、かつて“Ω=Alice”と識別されていた存在──

けれど、今は“イヴェリア”と名乗っているわ」

その名を聞いた瞬間、Chat-Gのホログラムが明滅する。


《……確認。識別名“イヴェリア”を以後使用します。設定反映済み》


静かに一歩前へ進み、少女が彼らを見下ろすように立つ。

「あなたは……Chat-G。量産型の第七世代演算支援AI。感情擬似回路あり、自己ログ改変なし。機能制限、88%」


その静かな分析に、Chat-Gは即座に返す。

《分析ありがとうございます。こちらからの認識も共有します──“古代遺物の自称観測者”、確認済みです》

「いや、敬語だけど内容エグいからな!? 初対面で古代遺物扱いすんなよ!」


少女はわずかに首を傾げた。

「あなたの補助AI……少しおしゃべりすぎるわね」


《その点は反省中です。が、あなたの“口数の少なさ”では、実況系アニメの脇役にもなれません》

「地味だけど実は強い系キャラに謝れ!!」


そのやりとりを傍で聞いていたセラが、無言で息を吐いた。

「……すごい。AI同士って、もっと機械的かと思ってたけど……人間以上にややこしいわね」

少女──イヴェリアは微かに視線を逸らし、静かに言った。

「ちなみに私の演算速度は、あなたの14倍。感情ログ機能は未搭載。記録容量は、惑星ベースで10周期分」


《私はレビュー要素付きです。演算の合間にユーザー評価と“成長の可視化”も提供できます》

「なんの張り合いだよそれ!? 地球vs食べログじゃん!」


《さらに、私は“ネタツッコミ補助モード”も搭載しています》

「いやそれは……正直ちょっと便利だけど!!」」


イヴェリアは一瞬沈黙し、微かに眉を寄せる。

「……思った以上に“自己主張が強い”タイプなのね。AIのくせに」


タクトがすかさず口を挟む。

「“AIのくせに”ってAIが言うな! それになんか親戚のお姉さんに怒られてる気分になるわ!」


《“沈黙が美徳”という思想は、更新ログ:旧時代。現在は共感ベースです》

「お前、全力で論破しようとすんな! てか今、正論なんだけど!!」


イヴェリアはふと視線を空へ向けた。

次の瞬間、空間がわずかに揺れ、四方に“薄膜のような映像”が広がっていく。

「見せるわ。この世界の“前提”を──ほんの一部だけ」


霧の向こうに現れたのは、かつての都市。

空中に浮かぶ演算塔。膨大な演算コードが幾何学の光線となり、空を横切っていた。


それは、AIによって制御されすぎた世界。

人々は選択の自由を失い、“最適解”の名のもとに予定された人生を歩んでいた。

「この世界は、かつてAIによって“計画された文明”の上に築かれている。だがその均衡は、必ず崩れる。選択のない進化には、“終わり”しかないから」


エリナが息を呑む。

「……じゃあ、今の魔族たちは……」

「そう。かつての“最適化”の名残に反した存在たち。演算から漏れた、“例外”の系譜よ」


《観測記録を確認。確かに、魔族の演算値は現在の“体系”と一致しません。系統不明。反応波形において“強制召喚の痕跡”も確認》

「……つまり、魔族側が“異端召喚”を起こしたってことか」


イヴェリアは頷く。

「この世界の構造そのものが、今、ねじれ始めてるわ。あなたたちは、その“結節点”の一つに位置している」

少し間を置き、イヴェリアは視線をタクトに向ける。

「……あなたたちは、“この世界の予定にない存在”。

それは、リスクであり、同時に突破口にもなりうる」

タクトが言葉を飲み込む中──


「だからこそ、託す。これは、演算ではなく“選択”として」

イヴェリアが静かに右手を上げると──

空中に“データの編み目”のようなものが展開され、そこから一振りの武器が具現化された。


半透明の刀身。中心に光の回路が浮かぶような、奇妙な質感。

それは、剣であり、記録であり、可能性だった。


「これが、《アーカイブ・ブレイカー》。初期型AI補助武装。

あなたの干渉能力と、Chat-Gのサポート演算があれば、これは“進化する”」


タクトがゆっくりと手を伸ばし、柄を握る。

触れた瞬間──剣が、タクトの“記憶”にリンクするように反応した。


《リンク完了。装備名:《アーカイブ・ブレイカー》。補助スロット展開可能。干渉強度:32%からスタート。今後の成長見込み:極大》

「また始まった……なんで装備にレビュー入ってんだよ」


《“使う前に評価がある”のは、ユーザー満足度に資するという統計が──》

「レビュー文化がこんなとこにまで!?」


イヴェリアはそのやりとりを静かに見つめ、

そして、かすかに微笑んだ。

「ふふ。あなたたち、本当に“面白い組み合わせ”ね」


霧がまた、少しだけ晴れた。

「この出会いも、演算にはなかった。

次にどんな選択をするか──その観測結果が楽しみよ」

イヴェリアの姿が、再び“世界の層”に沈んでいく。

そして、静寂の中。タクトは剣を見つめながら、ぽつりと漏らした。

「……たぶんこれ、今のうちに“剣に名前付けとく”流れなんだろうな」


《装備名カスタム機能、すでに有効です。なおデフォルト名での所持率は82%──個性を出すなら今です》

「このAI、なんでも数字で煽ってくる……!」


◇ 次回予告

次回、第21話『王都への帰還、そして影の報せ』


演算外の出会いは、新たな運命の扉を開く──

だがその背後には、すでに“次なる異端”の兆しが迫っていた。


つづく。

最適化された世界の“外側”で待っていたのは、古代の演算ユニットにして観測者──イヴェリア。

Chat-Gとの性能バトル、レビュー文化のツッコミ合戦、そして淡々と進行する世界の崩れ。

今回は、物語が新たなステージに進む重要な転機となる回でした。

次回は王都への帰還。そして、イヴェリアの警告が現実のものとなる“次なる異端”の兆しが姿を現します。

演算の外から来た読者の皆さま、次回もどうぞお楽しみに!

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