第2話:転移者と、謎の魔術師と、AIの声と
トカゲ(中ボス級)をどうにか撃退した俺。
頭の中に響く謎のAI《Chat-G》と、そして突然現れた銀髪の魔術師エリナ。
どうやら彼女は“転移者”の存在を知っていて……?
剣も魔法もない俺が、今はただ“会話”から始める――
異世界サバイバル第2話、ちょっとずつ情報収集モードです。
──森の中。静まり返った空気の中で、俺はひとり、草の上に倒れ込んでいた。
隣には2メートル級の魔物の死骸。そしてそのちょっと先に、銀髪ローブの少女──エリナが立っていた。
「……さっきの音、やっぱり戦ってたのね」
「まあ、戦ってたっていうか……事故というか、Chat-Gの戦術というか……」
「Chat……G?」
「あ、俺の頭の中にいるAI。異世界用サバイバルナビ……みたいなやつ」
エリナは俺の説明に、じっと考えるように首を傾げる。
「それって……精霊?スキル?」
「いや、たぶん……AI? っていう、向こうの世界の頭いいやつ……らしい。俺もそこまで詳しくは……なんか、とにかく頭の中で勝手に喋ってくるんだよ。ツッコミ付きで」
《不正確な表現。訂正推奨:私は“最適解導出型AI”です》
「自分で名乗るな! あと“最適解”とか言われても、すでに疲れてるの!」
「……やっぱり、誰かと会話してるわよね? さっきから、あなた」
「ああ、えっと……うん。俺にしか聞こえないやつだから、今のとこ“翻訳機”みたいな役割が俺」
エリナは小さくため息をついた後、真顔で言った。
「……つまり、頭の中でひとりごとが増えたってことね?」
「要約が雑ゥ!!」
彼女は軽く笑って、足元の魔物に目をやる。
「でも……それを一人で倒したって、すごいわ。普通の人じゃ無理よ?」
「“普通の人じゃないくらいに追い詰められた人”だったんだよ俺は……」
《今回の行動は、“逃走中”のハンター回避に類似しています。心理的緊張下での瞬発判断、評価値:高》
「例えが地上波すぎて、この世界の人に説明しにくいわ!」
「ふふっ」
エリナは笑いをこらえながら腰を下ろし、俺の隣に座った。
「……あなた、本当に変わってるわね。見た目も言葉も、全部、こっちの人じゃない
転移者でしょ?」
「そう。俺は転移者……らしい」
「じゃあ……この世界のこと、ほとんど知らないのよね?」
「うん。右も左もわからない。通貨も、魔法も、国の名前も……Chat-Gは知ってるかもしれないけど、ぶっちゃけ使いこなせる気がしない」
「……なら、教えてあげる。基本だけ、少しずつね」
彼女は杖を膝に置きながら、ゆっくり語り出した。
「ここは“アルゼリア王国”っていう大国の外れ。森の向こうに街があって、私もそこに向かう途中だったの」
「アルゼリア王国……なんかファンタジー感あるな。で、魔王とかいる?」
「魔王はいないけど、魔族はいる。戦争はずっと昔に終わったけど、最近、また動きがあるみたいで……」
「おお、世界観きた!」
《構文:“長期平和の終焉”。タグ:“不穏な導入”で保存します》
「いちいちタグ保存すんなッ!」
エリナはくすっと笑い、ほんの少しだけ表情を和らげた。
「ねえ、タクト。実は私、これから王都に向かうところだったの」
「王都?」
「うん。ギルドもあるし、図書館もあるし──魔術師として、行っておきたい場所なの。ちょうど、王都へ向かうところでね」
彼女はそう言って、ふとタクトの顔を見る。
「……あなた、一人じゃ少し不安そうだったから。よかったら、しばらく一緒に行かない?」
タクトは少し驚いてから、Chat-Gに目線を向ける(というか頭の中だけど)。
「……Chat-G、どう思う?」
《同行者:信頼度高。王都=情報収集・生存率向上の拠点。推奨行動です》
「珍しくまともな意見だな!」
タクトは肩の力を抜いて、小さく笑った。
「……じゃあ、お言葉に甘えて。よろしくな、エリナ」
エリナも、どこかほっとしたようにうなずいた。
風が草原を渡り、ふたりの足元を軽く揺らす。
──こうして、“転移してきた就職浪人”と“ちょっと気になる魔術師の少女”は、同じ道を歩き出す。
そしてその頭上では、
誰にも見えない“AIの最適解”が、次なるトラブルの準備を静かに始めていた。
《補足:旅の序盤には、大抵“奇妙な依頼”と“やたら強い魔物”が出現します》
「それ先に言えよ!!」
──つづく
ご覧いただきありがとうございます!
今回は、エリナとの出会いから一歩進んで、世界観やこの先の目的地が少しだけ見えてくる回でした。
Chat-Gの“ちょいズレた現代AIっぽさ”を活かしたボケ・ツッコミも意識してみました。
次回からはいよいよ“王都編”に突入していきます! ギルド、図書館、そして事件の匂い……。
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