第17話『CHAT-G、神威継承第二階層──演算不能の光』
セラ、神威継承・第二階層を解放──
圧倒的な“必中領域”が、魔族ヴァルトを追い詰める!
だがその男、逃げの一手すら“研究と策謀”の粋を極めていた……。
そして残された遺跡の奥に、Chat-Gが“知識の中枢”を発見。
運命のアップデートが、ついに始まる──!
──遺跡・大空洞。空間を満たしていた瘴気が、まるで怯えるかのように震え、後退する。
「神威継承式──第二階層、展開」
セラ=ノワールの静かな宣言と共に、世界が塗り替えられた。
空間全体に、神威の“領域”が出現する。
光の鎧がセラの全身を包み、その背には盾と槍の神格具現。
それはまさに、“神に選ばれし騎士”の姿。
ヴァルト=ゼルハは一歩後退し、唇を噛む。
「これが……神威継承式第二階層……」
《補足:神威領域、安定。武器の補正値が最大域に到達──》
《現在、セラさんの攻撃は“必中”。回避行動は無効化されます》
「必中……!? つまり、“ボタン押しても回避モーション出ない”ってことかよ……!」
「それ、ゲームならバグ報告レベルだぞ!?」
《仕様です》
「公式がバグなら、誰も勝てねぇ!!」
セラは一歩、ゆっくりと踏み出す。
槍を構え、空へと掲げる。
「──神威剣技、《聖槍・星穿陣〈オルド=ランス〉》!」
その瞬間、天から無数の光槍が降り注いだ。
それぞれが軌道を変え、意志を持ったかのようにヴァルトを狙う。
瘴気が焼かれ、マントが千切れ、黒い血が吹き出す。
その身体には、魔素の“崩壊痕”──神威による浄化が刻まれ始めていた。
「──っ、は……!」
セラの槍が、確かにヴァルトの身体を貫いた──その瞬間までは、確かに“勝利”の光が見えていた。
だが──
「魔封式・巻き戻し《フェイク・リプレイ》」
ヴァルトが静かに詠唱し、両手を広げると、空間が“びきぃ”とひび割れるように音を立てて軋んだ。
《警告:対象の魔素構造が変位開始──“巻き戻し型擬似存在再構築”です! 神威の必中補足が、無効化されます!》
「なっ……今さら巻き戻し!? そんなのアリかよ!」
タクトが叫ぶ間にも、ヴァルトの身体が黒い光の帯に包まれていく。
切り裂かれた右腕、焼かれた皮膚、それらすべてが“戦闘前の状態”へと“転送”されていくようにスライドして消失する。
だが──それは単なる時間操作ではなかった。
「……まさか、あれは……!」
セラが目を見開いた先。
ヴァルトの足元に、いつの間にか転がっていた“黒い人形”のような存在──元従者の“残骸”のようなものがあった。
《補足:構造解析完了。巻き戻しの代償に、“擬似魂体の依代”が犠牲となり、ダメージの“肩代わり”が実行されました》
「つまり……その身代わりに、すべて押しつけたってことか……!」
瘴気がふたたびヴァルトの身体を覆い、回復したその姿は、あまりにも異様に“静謐”だった。
「美しい。まさに“滅びの完成形”……だが──」
ヴァルトはセラを見つめたまま、口元を冷たく歪める。
「美しさは記録するものであって、恐れるものではない。
“再現できるなら”──ただの参考資料です」
ヴァルトが背後に右手をかざし、アストラル界への裂け目を無理やり開こうとした、その瞬間。
バヂィン──!
空間が反発音を上げ、ヴァルトの手が弾かれるように跳ね返された。
《空間遮断結界、展開中。対象の離脱をブロックしています》
先ほどの、エリナの結界がヴァルトの離脱を阻む。
「……逃がさない……!」
エリナの声が静かに響く。
その額には汗がにじみ、肩はかすかに震えていた。
だが、その瞳は強く、決して退こうとしなかった。
「小娘が……!」
ヴァルトが唇をかすかに歪めた。
右腕を欠いたまま、懐から一片の“黒曜石の装置”のようなものを取り出す。
「……研究成果のひとつを、披露するとしましょうか」
カチリ、と装置を起動した瞬間──
ギィィィィ……ッ!
空間が軋むような異音と共に、無数の“粒子状の生命体”が装置から放たれた。
それは目視できないほど微細な“人工瘴気虫”──擬似魔素生命【グロム・バグ】。
《警告:微小干渉体が結界膜に侵入! 魔力構成を内部から“逆相撹乱”しています!》
「なに……っ!?」
「“封じられた空間”に、“内側”からノイズを加えれば──こうなる」
ヴァルトが静かに呟いたその瞬間──
結界の紋章が一斉にチカつき、ひとつ、またひとつと“反転”を始める。
「止めないと……っ!」
エリナが震える手で結界の補強を試みるが──
バチィィィンッ!!!
結界が内側から破砕され、衝撃波と共に散る。
その場にいたエリナが膝をつく。
「くっ……!? ……ダメ……“あれ”は、解析も対処も……!」
《補足:未知の演算干渉方式。結界術式とは相性最悪です》
ヴァルトの眼が、冷たく光る。
「力は見せた。次は“構造”を研究させてもらいますよ──あなた方の、ね」
そして彼の身体が、再び瘴気に包まれ、空間の狭間へと退避していく──。
「……ごめん……私じゃ、止められなかった……」
──その場に残った“擬似魂体の骸”だけが、すべての代償を物語っていた。
セラは静かに剣を下ろし──そして、ふらりと膝をついた。
「セラさん!」
「セラ……!」
エリナとタクトが駆け寄る。
《神威継承・第二階層……情報不完全。ですが、明らかに“想定以上の負荷”が身体にかかっています。限界が近いかと》
セラはかすかに笑った。
「……少し、力を使いすぎただけ。すぐ戻るわ」
神の領域がゆっくりと消えていく中で、静かな余韻だけが残った。
──
その直後。
《反応あり。遺跡奥部に、未解析の演算体を発見。“起動核”とは別の構造です》
「またなんかあんのか……?」
三人は、遺跡の最奥へと向かう。
──そこにあったのは、静かに光る楕円体。
まるで“心臓”のように脈動する、白金色のコア。
《解析開始……構造体名称:“アーキ・コードコア(Archi-Code Core)”──古代演算文明の中枢機構。
これは、情報と支援処理に特化した“知識の核”です》
「知識の……核?」
《はい。もし接続できれば、私は過去の膨大な演算知識を取得可能となります。
例:タクトさんへのAR戦術表示/エリナさんへの魔術構文補正/戦闘中の支援補助──》
「やべぇ……つまり、“俺ら、レベルアップできるってことだな……!ついに“修行回”が始まるフラグ、立ったぞこれ!」
Chat-Gが珍しく、静かな抑揚で返す。
《はい。ここから先は、“準備不足では生き残れない”領域です》
セラはうっすらと目を開けた。
「少しは、騎士団仕込みの“基礎”でも叩き込んであげようかしら」
「それ、絶対“鬼軍曹”パターンだろ!?」
タクトが叫び、エリナがくすくすと笑った。
──次回、“訓練編”開始。
──つづく。
ご覧いただきありがとうございます!
今回はセラの神威・第二階層&ヴァルトの脱出トリックという、バトル&インテリのぶつかり合い回でした。
セラの誓いが“神と響き合う”場面、
エリナの結界戦、
そしてついに発見された《アーキ・コードコア》。
次回からは、いよいよ“修行回”に突入!
タクトとエリナが、どうやって強くなっていくのか──お楽しみに!
感想・応援コメント、いつも励みになっています!
それではまた、18話でお会いしましょう。




