第16話『Chat-G、神威第二階層を見届けよ』
セラ=ノワール、覚醒。
“守る”という誓いが、彼女の中の神威を呼び覚ました──
今、神威継承式《第二階層》、解放。
タクトとChat-G、そしてエリナ。
すべてが噛み合った奇跡の瞬間。
だが、敵は“男爵級アークデモン”──
ここからが、本当の闘い。
──大空洞の中心、光と闇が交錯するその瞬間。
「神威継承式──第一階層、起動!」
セラの言葉と共に、まばゆい光が世界を塗り替える。
剣に宿った〈レア=シュヴァリエ〉の加護が、空間すら切り裂く斬撃を生む。
天から落ちる光の剣──その軌道上に、黒衣の魔族が佇んでいた。
「っ──!」
次の瞬間、爆ぜるような音と共に、ヴァルト=ゼルハの右腕が切断される。
切り口から黒い瘴気が噴き出し、床に焼きつくような痕跡を残す。
「──っぐ……ははっ……!」
だが、ヴァルトの口元はゆがんだまま笑っていた。
余裕は崩れていない。むしろ、その瞳に光るのは──明確な“切り替え”の意志。
「なるほど、神威継承式 第一階層……確かに美しい。
だが、それだけでは私を“排除”しきれませんよ」
《補足:神威継承式による斬撃、致命傷には届かず。敵の本体構造が“瘴気媒体”のため、再生も可能です》
「ちっ……じゃあ、どうする気だよ……!」
ヴァルトは剣を構えたセラに背を向けた。次の瞬間、低く“呪言”が唱えられる。
「──起動核、強制開放。認証コード“黒翼の胎動”」
「なにを……!?」
《警告:遺跡構造内、制御中枢に異常信号。……“起動核”が、暴走状態に移行しています》
「は!? それって……!」
「この場は譲りましょう。が、“何も残らない”形で」
ヴァルトの体が再び黒い瘴気に包まれ、姿を掻き消す。
その気配は──現世から断絶される。
《反応消失。空間位相ズレを検出。おそらく“アストラル界”への退避です》
「逃げた……のか?」
──だが。
《起動核暴走、臨界予測:残り92秒。現在の熱圧出力では半径5キロメートルに甚大な影響》
「……マジで爆発するの!?」
「防がないと……!」
エリナが震える手で封印符を広げ、詠唱を開始。
結界陣が展開し始める。
「──封域!」
《演算補足:展開完了率28%。現在のままでは、被害圏内を“全員生存”は不可能》
「なんでそんな時に冷静に絶望提示すんだよお前!?」
《例えるなら──“セントラルドグマが開いて、リリスに挨拶されるレベルの非常事態です”》
「挨拶されても困るわ!! てかその後、人類が液体になるんだろ!? 今それ言うな!!」
タクトが叫ぶ中、セラが前に出る。
その表情は、先ほどよりさらに鋭く、凛としていた。
「……ここから先は、“私の領域”よ」
左手で神威の紋章をなぞり、静かに祈るように目を閉じる。
「〈レア=シュヴァリエ〉──我が誓いに、守護の祝福を」
──次の瞬間。
天空から降るような神聖な光──否、それはもはや“神の祝福”そのものだった。
遺跡の天井を突き抜けるように光の柱が降臨し、空間の中心に巨大な魔法陣が三重に重なるように展開されていく。
それは金、白、青の三層の神聖円陣──“天界の紋章”。
「第一神威──聖盾」
セラの声とともに、結界が“花弁のように広がり”、まるで空間そのものを抱きしめるかのように、あたりを包み込む。
遺跡の全方位を覆う結界は、“時をも止めた”かのような静けさをもたらす。
ズズズ……!!
爆発寸前だった遺跡中枢の“起動核”が、苦しむように震えながらその出力を落とし始める。
《解析不能……強制保護領域、構築完了。熱圧出力:92%、67%、……3%、1%。現在、完全沈静化へ移行中》
タクトが目を見開く。
「……マジかよ……神威って、ここまでやれんのか……」
エリナは結界の中央で静かに立つセラの背に目を向ける。
その姿はまるで──神の代行者。
「……止まった、のか……?」
遺跡が、まるで何事もなかったように、静かに沈黙していた。
──だが。
その一方、アストラルの狭間に身を潜めていたヴァルト=ゼルハは、
満を持して現世へと帰還しようとしていた。
黒い瘴気が空間を裂き、その肉体がゆっくりと現世へ“再投影”される。
──そして、彼の視界に現れたのは。
「……何……ですと?」
そこには、崩壊の爪痕ひとつ見えぬ、完璧なままの遺跡があった。
爆発など、最初からなかったかのように。
あまりにも異常な光景に、ヴァルトの顔が初めて歪む。
「これは……私が知る“現実”ではない。あり得ない。あり得ない……!」
「──ふ、ふふっ……ははっ! なるほど。これはそういうことですか……!」
その声には、初めて明確な“苛立ち”が滲んでいた。
「神威の防御結界……か。まさか、この時代にそれを“起動”できる者がいるとは……!」
「……ですが、これでいい。“起動核”の出力情報はすでに取得済み。
ここは、引いて次へ繋げる……」
ヴァルトは嗤いながら、再度アストラル界への転移の術式を展開する。
──次の瞬間。
ピリリリ……と、空間に“ひび”が入る。
「……何?」
転移術式が、拒絶されていた。
「──は?」
再度試みるが、周囲の空間に干渉できない。
“アストラル界”への道が、すべて遮断されている。
──その時。
《補足:結界確認。空間位相捕縛完了。対象の転移ルートを遮断しました》
その“声”は、どこかからヴァルトの思考領域に入り込んでくる。
「……この声は」
タクトの──いや、Chat-Gのものだった。
《おかえりなさい。アストラル界への出口は、封鎖しました》
「貴様……まさか、最初から……!?」
──現世、遺跡内。
Chat-Gの音声が再び響く。
《予測通り、敵は再度アストラルへと“逃げる”選択を取りました。
その間に、対象存在の帰還座標周囲に結界を展開──実行者:エリナさん》
「ふふっ……ま、ぜんぶ計算通り……ってことにしといてあげる」
エリナが照れ隠しのように微笑む。
「すげえ……マジで逃げ道塞いでたのかよ……!」
「罠に……はめられた……私が……?」
ヴァルトが、低く呻く。
感情が、高まる。押し殺していた“怒り”が、ようやく表に出る。
「……ふざけるなあああああ!!」
瞬間、瘴気が荒れ狂い、その体の周囲を黒雷のように巡っていた。
「もう十分だと思っていた。貴様らなど、“一撃で十分”と──!」
その目は、怒りに燃えていた。右腕を欠いたその姿で、なお余裕のあった彼が、初めて見せる本気。
「その“神威継承者”とやら……どうせ第一階層が限界だろう!」
「あなたが“そう信じてる”なら、次で思い知るだけ」
──その瞬間、セラの瞳が鋭く光る。
周囲の空気が凍るように張り詰める。
左手が、再び紋章へ。
「神威継承式──第二階層、解放」
ヴァルトの顔が、明らかに驚愕へと変わる。
「……なに……!?」
次の瞬間、セラの背後に浮かび上がったのは、〈レア=シュヴァリエ〉の第二形態。
大剣が、盾と光の槍へと変化する。
結界のような光がセラの全身を包み、戦場に“神威の制圧領域”が展開される。
「これが──“私の誓約”。騎士として、命にかえても護ると誓った力よ」
ヴァルトが、一歩後ずさる。
その姿は、もはや“上位悪魔”ではなく──追い詰められたただの敵だった。
──つづく
セラの第二階層、ついに発動です。
神威継承者という設定、最大限に活かしていきたいと思います。
そして、ヴァルトもただの敵では終わりません。
むしろここから、彼の“執念”が牙を剥いてくる……?
次回、さらなる核心へ。
「Chat-G、誓いを超えて」どうぞお楽しみに!




