第12話『Chat-G、封印の扉を開く』
封印された遺跡、そして再び現れる騎士団長セラ=ノワール。
タクトたちは偶然の再会を果たし、数年開かなかった封印の扉を“なぜか”開けてしまう。
──遺跡は静かに目を覚まし、物語はまたひとつ、深部へ。
──南方の森、王都から徒歩半日の地点。
「……ここらしいな。Chat-G、また反応してる?」
《レリック・レゾナンス反応。微弱ですが、“古代演算構造”の波が近いです》
「その“微弱”って、大体やばいやつだよな……?」
エリナが小さく笑う。
「でも……森の空気、妙に静かすぎない?」
「まさか、“ボス戦前のセーブポイント”的なやつじゃないだろうな……」
《補足:RPGのセオリーに基づく考察では、空気が静かな=イベント発生率が高い、という法則があります》
「それっぽい理屈やめてくれ。マジで出そうな気がするから」
そんな会話をしながら森を進むと、木々の先に開けた平地が見えてきた。
そこには、簡易テントと旗の立つ野営陣──そして、鎧姿の騎士たちがいた。
「……あれ、見たことあるような……」
銀色の甲冑。きりりと結ばれた口元。
中央に立つ女性が、こちらに視線を向けてきた。
「──おや、これは。冒険者のタクト君と……エリナ嬢だったかしら?」
「セラ=ノワールさん……!」
エリナが少し驚いたように声を上げた。セラは、軽く頷いて微笑んだ。
「こうして森で再会するとは思わなかったけれど……随分と雰囲気が変わったわね、タクト君」
《補足:社会人が年末に久々会った同期に言うセリフ第3位「雰囲気変わったな〜。いい意味で」》
「“いい意味で”ってつけときゃ何でもセーフって思ってるだろ!?」
Chat-Gの分析にツッコミを入れつつ、タクトは苦笑した。
セラは、ふと森の奥を見やる。
「この先にね、数年前から私たちが調査している封印遺跡があるの。でも……どうしても開かないのよ」
従者の若い騎士がうつむきながら言った。
「神官も、魔術師も、みんな試したんですけど……何の反応もなくて」
そのとき、Chat-Gの声がタクトの脳内に響く。
《タクトさん、右奥の石碑。波形が一致しています。接触を推奨します》
「えっ……また俺が触るの? 最近ずっと“謎解きデバイス係”なんだけど」
エリナが、少し息を呑むように言った。
「……でも、こういうとき、ちゃんと動けるのって──すごいと思うよ」
タクトは思わず目をそらした。
「急に褒めるな。恥ずかしいだろ」
そっと背中を押され、彼は石碑に手を伸ばす。
──ピリッ、と指先に微かな反応が走った。
石碑の紋様が淡く光り、次の瞬間──
「っ……動いた!?」
ゴゴゴゴ……と、地面が震え、石碑の裏から巨大な石扉がせり上がる。
「なっ……!」
セラが目を見開いた。
「……私たちが、何年も開けられなかったのに……あなたが触れただけで……?」
従者の騎士は完全に目が点になっている。
「な、なんなんだこの人……」
《通知:個体“タクト”に対し、“第一階層封印構造の優先解除権限”を確認しました──なお、発行者不明です》
「えっ、俺、いつの間にそんな権限持ったの!?」
《今のあなた、想像以上に“遺跡にモテる体質”かもしれません》
「その表現やめろ! なんか気持ち悪い!」
セラは数歩、石碑に近づいてから静かに言った。
「……この構造体、国家機関でも手を出しかねていたほどのもの。
それを、あなたが開いた。それには何らかの意味がある」
タクトは言葉を失って見つめ返す。
セラの目は真剣そのもので、しかしどこか探るようでもあった。
「よろしければ、我々と共に、内部を調査させてもらえますか?」
Chat-Gが、静かに声を落とす。
《構造波、深部で不規則に干渉中。……これは、“目覚めかけた遺跡”です》
《今なら、まだ何かを知ることができる。……閉じる前に》
「……了解。行こうか」
タクトとエリナ、そしてセラとその従者。
小さな探索チームが、ゆっくりと遺跡の闇の奥へと足を踏み入れた。
──つづく
ここまでお読みいただきありがとうございます!
今回はセラ=ノワールとの再会&遺跡編の幕開けでした。
“なぜタクトだけが開けられたのか?” “遺跡には何があるのか?”
次回、セラの必殺技も登場予定ですので、お楽しみに!
Chat-G「次回は演出カロリー高めでお送りします」
タクト「それ、言うとフラグになるからやめて!?」




