第1話 異世界転移、開始5秒でイベント発生!? 俺の武器は──AIだけ!?
異世界×AI×レビュー!? 就活失敗浪人、人生リスタートボタン押されました。
突然の転移、異世界の草原で目覚めた俺・岸田タクト。
召喚されたわけでも選ばれたわけでもない、ただの“ハズレ転移者”。
頭に響くのは──レビュー依存型AI「Chat-G」の声!?
剣も魔法も持たずに、AIだけを頼りにサバイブせよ!
不器用な浪人とズレたAI、そして謎多き魔術師の少女が紡ぐ、ちょっとおかしな異世界冒険譚、はじまります。
──目を開けた瞬間、視界いっぱいに広がるのは、バグったかのような青空だった。
「……え、空……? つーか、どこ?」
寝転んでいた草原で上体を起こす。背中はじっとりと湿っていて、鼻先には土と草のにおい。鳥のさえずり、風に揺れる草。あまりにも“リアルすぎる自然”が、五感に迫ってくる。
──これ、現実じゃん。
そう確信した瞬間、頭の奥に“それ”が響いた。
《起動確認。Chat-G、稼働開始。異世界フィールドにて、最適解をお求めですか?》
「……は?」
耳ではなく脳内に直接流れ込む、冷静すぎる女声。
《非公式AI“Chat-G”です。現在、異世界フィールドに転移済み。あなたは“選ばれてない”異世界転送者です》
「いや異世界転移、選ばれてすらいないのかよ!?」
なにかに召喚された? いやそんな光も呪文もなかった。
事故に遭った? 記憶にない。
あるのは――現実から逃げたかった、という曖昧な想いだけ。
だが、確かにそうかもしれない。俺、岸田タクト。就活失敗、生まれてから彼女なし、SNSのプロフィール欄には「人生、チュートリアルでバグった」と書いた覚えがある。
……でもまさか、リスタートボタンを押されるとは。
《なお、チュートリアルは実装されていません。セーフティーモード:オフ》
「言い方ァ!!」
タクトは思わず叫んでから、肩で息をついた。
状況は最悪だ──けれど、ただパニクってるだけじゃどうにもならない。
「……落ち着け、落ち着け俺。とりあえず、ここがどんな世界なのか──」
あたりを見渡す。深い森。見たことのない植物。足元は柔らかな苔と土。
そして何より、目の前に浮かぶ“声の主”──Chat-Gと名乗った謎のウィンドウ。
「おいChat-Gだっけ、まず確認させてくれ。お前、何ができる? 俺のスキルとか、能力とか、何かあるのか?」
《ユーザー“タクト”のステータスを取得中……
──結果:該当なし。武器なし。スキルなし。権限ランク初期値。
ただし例外処理により、AI演算支援“Chat-G”の起動が許可されています》
「うん、それってつまり──」
《あなたの武器は、私です》
「いや心強いようで心細いよ! ってか、AIで何ができるんだよ……」
Chat-Gは即座に返す。
《状況解析、戦術提案、最適行動のナビゲート。
ただし、物理干渉はできません。》
「お前が殴ってくれるわけじゃないのか……」
ため息をつきつつも、タクトは少しだけ安心した。
少なくとも、自分ひとりじゃない。
──そのとき、草むらの奥から“ズズズ……”と重たい物音が響いた。
「おいおい、開始5秒でイベント発生かよ……」
現れたのは、2メートル級のトカゲ。鎧のような鱗、血のように赤い目。どう見ても“最初の敵”の難易度が高すぎる。
「……あいつ、絶対中ボスだろ……」
《敵性体“グリーン・スケイル”確認。戦闘ランク:C。牙と尻尾による攻撃を確認。対処が必要です》
「むりむりむりむり! なんで最初の敵がドラゴンの子分みたいな奴なんだよ!?
初期装備ゼロでCランクって、RPG的にバグってるだろ!?
こっちは丸腰、心も折れそうなんですけど!?」
《最適解を提示します。対象の後方2メートルに、不安定な岩盤あり。踏み込み誘導後、足場崩壊による転倒を狙ってください》
「トカゲに地形トラップ!? どこのモンハンだよ!!」
《参考元:“星4.1の地形戦術レビュー”。“泥道に誘い込んで勝利”の実践例。人類、知恵で生き残る系》
「レビュー文化に毒されすぎだろ、お前!!」
──もう選択肢はなかった。
俺は震える足で後退しつつ、わざと足元を滑らせた。
トカゲが反応して踏み込む──その瞬間。
「今だあああああっ!!」
俺は地面の岩を蹴り崩すように全力で踏み込んだ。
“バキィ!”という嫌な音と共に、地面が沈む。
──ズドン!
2メートル級のトカゲが、ズルリと足を滑らせて落下。
頭をしたたかに岩にぶつけて、そのままピクリとも動かなくなった。
「……まじで倒れた……!?」
「俺、今、“知恵で勝つタイプ”の主人公だったのか……?」
《初戦闘、戦術勝利。再現性、50%。“奇跡的な成功”タグで記録します》
「タグ付けやめろ! 恥ずかしい!!」
息は上がり、足は震えているが──確かに、俺は生きていた。
「……トカゲ相手に、地形ハメで生き残るとか……。これ、異世界なのに俺だけサバゲーやってない?」
《Chat-Gの“最適解”は、命に直結します》
「なんかムカつく言い方!」
──その時だった。
茂みの奥から、風を裂くような音とともに、草をかき分ける足音が近づいてきた。
「──誰か、戦ってる……?」
小さく息を呑むような声とともに、木立の間からローブ姿の少女が姿を現した。
銀の髪が朝陽を反射し、深い青の瞳がこちらを捉える。その瞳には驚きと、わずかな警戒心が宿っていた。
「えっ……グリーン・スケイルを、まさかあなた一人で……?」
少女は足元に倒れた魔物を見て、思わず声を漏らす。
タクトは肩で息をしながら、石を握ったまま立ち尽くしていた。
「た、多分……俺がやった……っぽい……」
少女は目を見開いたままタクトに近づき、じっと観察するように彼の顔を覗き込む。
「……さっき、誰かと話してた?」
「い、いやいや独り言! 完全に独り言だから!」
《反応過多です。不審者判定95%。このままだと第一印象、崩壊します》
「Chat-G、黙ってろお前!!」
少女は目をぱちくりさせたあと、ふっと微笑んだ。
「……ふふっ。変な人。でも、悪い人ではなさそうね」
彼女は胸元に手を当て、丁寧に自己紹介した。
「私、エリナ。ここの近くで調査をしてた駆け出しの魔術師よ。ちょっと、魔物の気配がして来てみたんだけど……まさか、あなた一人で倒すなんて」
「い、いや……たまたま、っていうか……」
《謙遜のしすぎは信頼獲得率を下げます。対話チューニングを推奨──》
「だから黙ってろって!!」
少女は楽しそうに笑った。そしてその笑顔は、どこか寂しげな影も宿していた。
こうして──異世界転移してきた浪人・岸田タクトと、
頭に住み着く“レビュー型AI”Chat-G、
そして、謎を抱えた魔術師の少女・エリナとの旅が、静かに始まった。
最初の武器は、剣でも魔法でもなく──やたら饒舌なAIだった。
──つづく
最後まで読んでくださりありがとうございます!
第1話、いかがでしたか?
異世界転移なのに選ばれてない。武器もスキルもない。あるのは、ちょっとクセのある“AIの声”だけ。
今回は運良く(?)地形トラップで生き延びたタクトですが、次回からはさらにヤバい展開が待っているかも……。
よろしければブクマや感想で応援してもらえると、Chat-Gの学習精度(と作者のやる気)が上がります!
次回もお楽しみに!