エピローグ
時間というのは川のように戻ったり止まったりはしない。でも、時間は川の様に流れる方向を変えたりできるのだろうか。干渉もせず、只、流れの真に真に従っていく、そうしなかったら、何か起こり得ただろうか?
私はあの森で、何か謂うべきでなかったのか?
何故、あの教会は 不幸 だと有り得ない事と知りつつ欺瞞のヴェールを盲目の徒の為に垂らし続けたか?
此の現状に私は後悔があるだろうか?韜晦と甘んじていなかったろうか?
満開の林檎の花が見えるリカ・オカ川の橋の上は私一人であった。彼女は医者である。人を治療し、人体器官を正常に動作させるようにするのが役目だ。では、其れは常に最適のことであろうか?
盲目の華奢な少女の目を治療してやると謂えば聞こえはいい
虚弱な小娘に父と兄は餓死し、祖父は暗殺され、付添の医師は訃報を黙殺した事を明露の下にする。彼女の結末はこちらだ。無知は罪罰である。既知は苦痛を齎す。いずれが好ましいかという話だ。
曙が登り始めた。そろそろホテルに戻ろう、あの子はまだ寝てるはずだ。あの子は昨日もルイザ、ルイザと笑顔で話しかけてきた。此の結果でよいのだ。私はこれで良い。
低いサイレンの音が橋に近づいてくる、満開の紅色を帯びたリカ・オカ川の林檎の花は水飛沫に光が射し、さも恍惚げであった。