第1話 天才と凡才
天才とは何か。
それは、人知を超えた才能を持つ者に与えられる称号。生まれながらにして備わる能力、あるいは限界を超える努力によって得た結果により、その者は「天才」と呼ばれる。
果たして、天才たちから見たこの世界はどう映っているのだろうか。
天才たちは一体何を目指すのだろうか。
この問いに確かな答えを出せる者が天才と呼ばれる者たちなのだろうと凡才の僕は思う。
魔法と剣でこの地を統一した歴史を持ち今もなお世界屈指の魔道大国としてなを馳せている国。
その名を「アルカナ魔導王国」。
この国は比較的安定した国であるとはいえると思う。だが、知っている者は知っている。
この国もまた一枚岩ではない。周辺諸国との外交や内政問題に加え、魔獣の脅威は人々の生活を脅かしている。王国の頂点には国王が君臨し、その下には四大公爵家が国の礎を支えている。それぞれの公爵家は、剣、魔法、政治、そして学問の分野で天才たちを輩出してきた名門である。
この国の国王は言った。
「才ある子を育てよ。身分は関係ない。将来有望な子供たちは宝。だからこそ、伸び伸びと自身の才能を開花させてほしい」と。
現国王が王位を継承した時の一言。その一言によってある一つの学園が設立された。それが、数多の才に溢れた子供たちを集め育成する世界最大の学園、それが「アルカナ魔導学園」である。
剣士、魔導士、政治家、研究者──この学園は、さまざまな分野の才能を育む場として、多くの若者が入学を志す。しかしその輝かしい側面の裏には、厳しい競争と冷酷な現実が待っている。
学園には「階級」システムが存在し、生徒たちは成績によってランク分けされる。最下層のFランク、通称「ゴミランク」に分類された者たちは軽蔑と嘲笑の的。一方、最高ランクのSランクに輝く者たちは「天才」と称えられ、学園のヒエラルキーの頂点に君臨する。
もともとは競争を通じて才能を引き出すための制度だったこのシステムも、いまではただの格付けに堕している。ランクは生徒の地位を決定づけ、差別といじめを助長する装置と化していた。
この学園に通う僕、アレン・カーティスもまた、そんな階級という名の評価の荒波に揉まれる生徒の1人だ。そんな学園の最悪なシステムに加え、僕の家柄が混ざり合い、僕は今、集団リンチされていた。こいつら殴りすぎだろ。腹部、頭部、足に腕、どこかしこも殴る蹴るのオンパレードである。
「今日はこのくらいにしといてやるよ、落ちこぼれ!」
集団リンチのリーダーさんは僕を殴るのが飽きたのだろう。他の奴らを連れてその場を後にしたのだった。
「やっと、終わったか・・・今日も今日とて長かったなー」
身体中、傷とあざだらけでめちゃくちゃ痛い。
「念の為、軽く防御魔法しといてよかったなー」
「回復魔法っと・・・」
俺は自身に回復魔法をかける。あざや傷は徐々になくなっていく。
「流石に、全部は消えないな・・・」
まあ、何か言われても転んだとか言っとけば問題ないだろう。僕は自身の家柄的に、いじめに遭っているなんて、家の面子にかけてばれてはならない。なぜなら、僕は一応、公爵家の四男だからである。
その後、何事もなかったかのように帰路につく。
トボトボと歩いているといつの間にか家についた。
その屋敷は、まさに公爵家にふさわしい威厳と美を備えた建物が立っている。
広大な敷地の中央にそびえる主館は、白亜の石造りで、正面には荘厳な大理石の柱が並ぶ。柱の間には精緻な彫刻が施され、見る者に圧倒的な存在感を与える。館の上部にはカーティス家の紋章「王冠を抱える双頭の獅子」が掲げられており、それだけでこの家の権威を物語っている。
「カーティス公爵家」それは、この国を支える四つの公爵家の一つ。
その歴史は古く、建国時代にまで遡ると言われる。カーティス家の祖先は、かつてこの地に侵攻してきた魔物の軍勢を率いた大魔王を討ち取り、王国の礎を築いた英雄である。その功績により、初代国王から公爵位と広大な領地を与えられたカーティス家は、その後も王国の中枢で重要な役割を果たし続けてきた。
カーティス家の最大の特徴は、その血統に刻まれた「天才性」にある。代々の当主やその子息たちは、剣術、魔法、政治、芸術など、いずれかの分野で卓越した才能を発揮し、国中にその名を轟かせてきた。その結果、カーティス家の名は「天才の家」として知られるようになり、他の貴族家や一般庶民からも憧れと畏敬の対象となっている。
また、カーティス家のもう一つの特徴として、厳格な家訓が挙げられる。「カーティス家に生まれし者は、凡庸であってはならない」という言葉が象徴するように、一族の者には常に高い成果と責任が求められる。そのため、カーティス家の子息たちは幼少期から厳しい教育と訓練を受け、各々が自らの才能を開花させるべく努力を重ねている。
現に、長兄アルヴィンは剣術の天才として、すでに学園を卒業し王国騎士団の中核を担っている。
長姉エリシアは魔導の天才。入学早々、学園史上最速で上位の称号を得た人物だ。
次兄リースは知略の天才。外交官候補として各国から高い評価を受けている。
他にも僕の弟や妹たちもまた、数多の才能に恵まれている。
そんな天才ぞろいの兄弟姉妹に囲まれた四男が僕である。
僕にはそんな兄弟姉妹のような才能はなかった。だからこそ、学園内では「カーティス家の落ちこぼれ」と陰口を叩かれ、いじめを受ける日々を送っている。
僕は屋敷の大きな扉を開けて中へと入る。中へ入ると、執事やメイドたちが迎えてくれる。
「おかえりなさいませ。アレン様」
「ただいま、ジェイル」
ジェイルは僕が物心つく前からカーティス家に代々支えてくれている執事である。常に冷静沈着、厳格であり、笑っているところなど見たことがない。
「ジェイル、今日は疲れたから、先にお風呂入りたいんだけど、沸いてる?」
「もちろんでございます。アレン様」
ジェイルはメイドたちに僕の衣類の準備をするようにと、アイコンタクトで伝える。無駄な動きは一切なく、素早くそして、卒なく物事をこなす。
僕は脱衣所で衣類を脱ぎ、お風呂場へといくと・・・誰かが先に入っていいるようだった。湯気で見えないが人影が見える。歩いて行くとそこには・・・。
「え・・・」
「あら、アレンじゃない。アレンもお風呂?」
そこにいたのは、エシリア姉さんだった。
髪は純白の絹糸のようで、長く艶やかに波打ちながら肩を超えて背中まで流れている。まるで光を宿しているかのように柔らかく輝き、周囲の空気を澄んだものに変えるような気さえする。その髪は湯気に湿り、しっとりと肌に貼り付いているが、それさえも彼女の美しさをさらに際立たせていた。
「なんで!?姉さんいるの!」
僕は僕の股間を見えないように、タオルで隠す。
「なんで、そんなに慌ててるの?一緒に入りましょ?」
「いや、慌てるでしょ!普通は!」
姉さんにはこういうところがある。特に恥じらいもなく、堂々としている。これが年長者の余裕てやつなのか?
んなわけあるか!あってたまるか!
「そんなに慌てるならお姉ちゃんはあがるわね」
「ゆっくり休みなさいね」
そう言うと、姉さんはスタスタと歩いて出て行く。
「あ!そうだ。アレン」
「何?姉さん」
「何があったか知らないけど、体の傷、治しておいたから」
俺は自身の体を見ると、自身で治しきれなかった体の傷が消えているのがわかった。
「ありがとう。姉さん・・」
「どういたしまして」
そういうと姉さんはそのまま脱衣所に向かっていった。
治される側が気づかないほどの魔法コントロールで傷を癒してみせたエシリア姉さん。
「これが、魔導の天才ってやつかー」
「とんでもねえ」
この物語は、天才家族の四男に生まれ、落ちこぼれと蔑まれた者が天才と呼ばれるまでの物語である。
よろしくお願いします。