・
先ほどカミラを注意していた令嬢がまた悲鳴を上げる。
「ソフィア様!?お詫びになる必要は…!」
「いいえ。我々ジェペスは、それ相応のことを彼女にしたのです。」
「一体どのような謝るべきことを…」
「皆様は、ジェペスがなんの下心も代償もなく枢密院の実権を握ったと思いですか?」
顔をあげたソフィア嬢はやはり毅然とした態度でつづけた。
「政治に完全なる善はございません。下心、腹の探り合い、蹴落とし、成り上がり。それらが渦巻くのが宮廷でございます。父は上を倒さずともそこに君臨し下を蹴落としては嗤う下郎。使える貴族には恩を売って高値で利子をつけるのです。あれのどこを見て感謝しようなどと思えるでしょうか。カミラ様、貴女は父に騙されているのです。」
「そんな、ソフィア様。あんな男のためにお父上を悪し様にいう必要なんて…!」
「ロメル様への冒涜はやめなさい。
私は、入りますよ。騎士団に。」
―釣れた!
ソフィア嬢の言葉に全生徒がどよめく。
ずっと下を向いていた青年が肩を震わせたかと思えば、爆ぜるように笑った。
「あっはは!も~こらえきれない!こんなのやろうとすんの絶対ロベルト先輩でしょ。おもしろそうじゃん、オレも入る!」
「私も!ロメル先輩、また一緒に戦おう!」
学生時代に仲の良かった後輩のマルティンとサルマが声をあげてくれたのだ。
俺も、私も、もうセルピエンテの好きにさせるものか、そうだそうだ、
個々の声が団体の声になって聴衆を呑み込んでいく。
一枚一枚の羽根が翼になっていく。
熱気がまぶしくて、ああこれが僕ら騎士団の力になるのだ、と思った。
「へぇ。もう盛り上がっちゃってる感じ?やるじゃん。」
「リタ嬢!」
赤髪をたなびかせてフェリクスと共に現れた女騎士の後ろには同じく赤い髪をした青年が後を付いて来ていた。
「皆!今回騎士団に入るのはここの学園生だけじゃないってよ。ってことで連れてきた。うちのギルドで何十歳も年上のベテランを数人まとめて派手にぶっ飛ばしてくれた期待のA級冒険者、ユーゴ・インファンテだ。」
「よろしくお願いします。」
なるほど、ロベルトはここまで根回ししていたからあの時の茶会でリタ嬢を招いたのか。
ユーゴ殿は筋肉の付き方から見るにかなりの手練れだ。きっとリタ嬢とも何度もともに訓練しているのだろう。
味方になってくれる分には得難い人材だ。
「ユーゴ殿。騎士団にご協力いただけるということだろうか。」
「ええ。この団体には身分の貴賤は関係ないんでしょう?俺なんかが貴族に混じって戦える機会なんてもう一生ないかと思っていたので、勇者様にお目にかかれて光栄です。」
「今は一人でも多く戦力が欲しいのだ。心から礼を言う、ありがとう。これからは騎士団の同期であり仲間だ。ともに励もう。」
「ふふ、手加減はなしでお願いしますよ?」
「当然だ。良い手合いを楽しみにしている。」
その後も学生が参加を申し込んでくれ、ギルドからは50名、学園からは3000名を超える騎士団員を得た。―どうやら僕の役目は上々に果たされたようだ、ロベルト。