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「すっっげええ!!!お前、あれを意図してやってたのかよ!?」
「あ、あぁ。一応。」
「うっわそれはすごすぎるって!ロベルトさんが見込むだけあるな、副隊長だっけ?すげえよ、あんなん思いつきもしなかった!なな、もう一回やろうぜ、今度はもっと違う作戦で!」
「そ、そんなに褒めなくても。」
少し照れくさくなって笑ったら、マルティンは俺に飛びついて頭をガシガシと撫でてきた。
やめろ、髪が崩れる、とじゃれ合っていると、どこからかブーツのカツ、という音が響いた。
そこには目を引く金髪をたなびかせた青年がいた。
「おぉ、たくさん集まって何をしてるんだ?」
「ロメル!」
「リタ、久しぶり。学園は順調か?」
「出席日数だけはちゃんと守ってるし、なんとかなるでしょ。」
マルティンに褒められてちょっと上がっていた気分が急激に下がっていき、かわりに冷や汗が背を伝うのを感じる。なぜ、昨日の今日で。まずい。合わせる顔もない。
「これはまたド派手にやってくれたなぁリタ?」
「これは私じゃ……まぁ私っちゃ私だけど……って火を大きくしたのはユーゴだから!!」
私が悪いんじゃない!と主張するリタをよそに、ロメルさんの視線がマルティンの背に隠れた俺へと向かう。
「ところで、今日は休養、ということではなかったのか?ユーゴ。」
「そ、その……。」
「え、ちょ、ま、待ってくださいよ!ユーゴがそこにいたのをオレが手合わせしようぜ、っつって誘っただけで!」
「ユーゴ。昨日の剣筋だが、言うのは心苦しいけれどかなりブレていた。見切りも遅いし足で踏み切れていないのも一度や二度ではなかった。」
「ロ、ロメルさん…」
「休養も仕事の内だ。君が何にそんなにも焦っているのかはわからないけれど、今の君は明らかに無理をしていると思う。オーバーワークは誰の得にもならないからすぐに宿舎に帰って寝なさい。」
ロメルさんの言葉にその場が気まずい沈黙に支配される。間で深刻な雰囲気を止めようとしてくれたサルマも今はぎゅっと口をつぐんで何も喋らなかった。
「すみません、ロメルさん。…ごめん皆、今日は帰らさせてもらうことにする…。」
「…いや、全然!ゆっくり休めよ!な、リタ。」
「うん。あたし達はどうせここ以外に学園とかのやらなきゃいけないことあるし。」
ありがとう、と発した言葉はこの場にふさわしかったのだろうか。
俺は訓練場に背を向けて宿舎へと帰った。
*
剣筋がぶれていた、着地が不安定、か……。
なら大腿筋と僧帽筋は鍛えてから寝よう。今日は日課の素振りも1セット終わってないからそれもやらなくては。あぁ、それから苦手な奪取魔術も練習しておきたいんだよな。練習場は…2時ごろに行けばさすがにバレないだろうか。
目を閉じれば蘇るのはセルピエンテの軍と衝突したときの本軍の様子。
最前線で行軍路を切り開く団長—デセオ・ナバーロの有り得ない程の体力。
絶対にこちらに攻撃が届くことはないだろうと確信させるようなサルマとマルティンの土魔法。
もはや万能とさえ思える光魔法手のロメルさん。
あの中で、俺は明らかに無力だった。それまでの努力量の違いを見せつけられたようだった。
俺は所詮平民上がりの冒険者で、運よくリタに目をつけてもらえただけで。
リタもフェリクスも優しい人だったからどこの馬とも知れぬ俺に剣術を教えてくれた。
どこかが一つ狂っていれば、俺はあの路地裏で妹と一緒に野垂れ死んでいてここにはいなかった。
宿舎から見える第一小隊の訓練場をみて俺はまたため息をついた。
最近は寝ようと思って目を閉じてもあの日感じた無力感と焦燥感を思い出してすぐに目が覚めてしまう。
……こんな"副隊長"に隊員が付いてくるわけがない。
『ロベルトさんが見込むだけあるな、副隊長だっけ?すげえよ、あんなん思いつきもしなかった!』
…そうだ。学園生で忙しいフェリクスを支える立場である以上、頼れる副隊長でなくては。
寝れないなら、寝なければいい。寝ている暇があるならその間にトレーニングをすればもっと強くなれるかもしれない。そう考えれば、俺はどうしても休む気にはなれなかったのだ。




