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「魔法領域はとりあえず6m四方まで。その中だったら魔術も魔法も使用可能、俺かリタがフィールドを踏み出たら負け。マルティンは俺の、サルマはリタの援護をしてくれ。」
「剣は抜く?」
「模造剣で十分だ。」
一度全員でルールを確認したらここから先はお互いの作戦会議だ。
敵味方の2人ずつに分かれて相手の弱点や強みを共有し戦術を考える。
「ほぼ実戦通りってことね!良いでしょう!」
「サルマ、向こうで話し合おう。」
俺とマルティンも二人と距離をとって作戦を練る。
まずマルティンが俺に挑戦的に訊いた。
「ユーゴは、オレをどう使いたい?」
「……女だからと言って、アレを侮ってはダメだ。本気になれば山に穴を開けられる火力を持つリタに真っ向から挑んだところで、良くて洋服が焦げるか、悪くて大火傷を負うことになる。
だから、お前に風魔術を使ってもらう。」
「風魔術…?火魔法は風では打ち消し合わない。土魔法以外に、水魔法もオレは使えるぞ。」
「…でも相手にサルマがいる以上、土は使いづらいだろう。」
「確かにそうだな。でも風魔術でどうするんだ?」
「俺が合図を出したら一気に風を巻き上げて相手にぶつけてほしい。一瞬だけでいい。」
「あっちからの攻撃はどうするんだ?」
「俺の目算が正しければ、たぶん俺一人で大丈夫だ。マルティンはなるべく体力を温存してほしい。」
「…わかった。」
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剣が風を切る音が第三小隊のグラウンドに響く。模造剣とはいえその実態は刃を潰してある真剣だから、ぶつかれば耳に障る甲高い音が鳴る。
リタの作戦はよくも悪くもいつも通りで目算通りだった。彼女が得意とするのは所謂カウンター、ある一定以上の力量がある相手に対してはまず出方を伺って相手が疲れた頃に把握しきった癖の隙をついて一気に攻め上げるものだった。それに攻撃を吸収する土魔法を操りディフェンスに特化したタンクのサルマが加わればこちらの攻撃は全てサルマに防がれてしまうのは容易に想像できる。
俺がリタであったなら、お互いに共通する強みである守りの固さを武器にカウンター戦法を使うのが相手にとって最も質が悪く、そして自分が一番早く決着をつけられる方法だと考えるだろう。
だから俺は手を出さない。出したら負けは必至だ。魔法を一切使わず剣だけで切り込み、離れ、また違う角度から切り込む。1対他であれば形態を崩すのは難しいが1対2なら無理な話ではない。
体系が崩れてできた二人の間に入り込み、両サイドに立つ二人からの攻撃をわざと重心を低くして躱し続ける。
二人は困惑しているだろう、「なぜユーゴはタンクであるマルティンを置いてひとりで間合いを詰めてきたのか」と。当然だ。ディフェンスも連れずに攻撃を躱すのに重心を低くして逃げるのはもはや言語道断。実践の場であれば、下手するとその場で首を切られて即死の状況だ。こんなのはEランクの冒険者見習いでも知っている事である。しかし俺の作戦は、むしろ僕に二人の攻撃を集中させることにあった。
フィールドの地面は溶岩からできた岩でできているが、この岩は掘削しやすく一定の方向に力を加えるとすぐに割れる特性がある。俺はその割れやすい方向に向かって走っていたのだ。
生じた瓦礫によって荒れた足場にしびれを切らしたリタがそれらを吹き飛ばそうと火魔法をだそうとする。
―そう、俺は、それを待っていたんだ。
「今だ!」
俺の合図でマルティンが得意とする風の攻撃魔術が上向きに放たれた。
突発的な上昇気流によってリタの炎が本来の大きさよりはるかに大きくなって燃え上がる。竜巻ようなそれは床に散らばった瓦礫を一気に巻き上げて呑み込んだ。
リタは俺が何をしでかすかと剣を構え、サルマは呆気に取られたように炎を見上げた。
「『イグニス・ブラスト』!」
ギルドに入った当時からリタに仕込まれてきた火魔法。なかでも基礎である火球は俺の得意技だった。横から新たな爆風と火が加わることでほぼ指定の魔法領域の限界範囲まで炎が燃え盛り、それが巻き上げた風が瓦礫を呷った。そして、俺の目論見通り、僕と炎を挟んで向き合っていたリタにその瓦礫が当たったのがわずかに見えた。
「リタ…。」
「リタ!ごめん、私……」
「サルマは別に悪くない。今回は私の作戦負けかな。すごいじゃん、ユーゴ。」
俺とマルティンの攻撃で自分の方へと飛んだ瓦礫を避けようとしたリタはわずかにバランスを崩し、片足だけフィールドから踏み出ていた。
俺の勝ちだった。




