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「貴様ら、何者だ!ここから先は主以外何人たりとも通さぬよう厳命が下されているのだ、退かれよ!、っ、ぐ…ぅっ」
「抗うほど苦痛が長引く。素直に悪夢に身を委ねたほうがまだマシかもなぁ。」
屈強な護衛兵は蹲って動かなくなった。きっと彼にはロベルトが悪魔に見えただろう。頭を裂かれるような痛みを感じているだろう。幻覚魔法とはそういうもので、使いようによっては拷問になる。
「ロベルト。穏便に。」
「穏便じゃねえ奴らにはお似合いだろ?」
「そうかな。」
僕にはまだ彼らがどのように穏便でないのか分かりかねるが彼の不穏な雰囲気に説得されて黙り込んだ。邸にかつての豪奢なジェペス邸の面影はもうない。数ヶ月にわたるリューエットでの暴動は、この伝統と格式ある建造物をいとも躊躇なく破壊した。裂けた絨毯、割られた花瓶、焼かれた肖像画。その全てが当に盛者必衰の理を表していた。
しかしその荒廃した邸の中に、一区画だけ無傷な場所があるのをきっと僕たちは両方とも見逃していない。西の最果てに位置する塔は、まるで10年前のリューエットが栄えていた時期から時を止めているかのようだった。ロベルトも僕も、そこから強い魔力を感じている。
何か、ある。
広大な敷地を何十分か歩いてようやく近づいてきた塔は、遠くから見ているより遥かに大きく荘厳だった。男にしては身長の低い僕にとって、見上げると首が折れそうなほどだ。
その時だった。
「セネン、右だ!」
ロベルトの叫びとどちらが早かったか。目の端に映った火の玉をとっさの防御魔術で張った結界で跳ね返す。僕の結界の周りをロベルトの水魔法で作られた氷が覆った。
はは、と漏れた乾いた笑いはどちらのものだろう。
ロベルトが僕を制して前に出て、僕はその左手8時方向で緩く構えを取る。実践の場において最初に行われ最優先とされるアクションは対話。これは紛れもなくロベルトの得意範囲だった。
「これはこれは、どうにも物騒な邂逅ですが。何かの手違いだったのでしょう。我々は余程のことではない限り攻撃はいたしません。攻撃を速やかにお収め下さい。」
「私共の門番と不可解にも連絡が取れなくなっているため不審者に対して相応の待遇をさせてもらった、それだけだ。」
「……えぇ、彼らは"余程のこと"をした。故に受けるべき処置を受けたのですよ。」
「ならば同じ言葉を返そう。」
「不肖ながら、私共と貴殿らの間ではすれ違いが起きているようだ。私がとある信頼できる筋から仕入れた情報によると、かの兵は…
…エマ・カリエドに"後輩教育"と称して危害を加えたそうではないか。」
一方その頃……
「『ここにいて』って言われてもねぇ…」
「ニセタはどうする?あたしもう帰りたい。」
「僕も帰ろっかな…」
「因みに近くによく魔獣が出るダンジョン先あるから寄って帰る気なんだけど、どう?」
「い、いや、僕は卒論でも仕上げようかな…なんて……ははは……。」
「じゃあうちの馬1頭貸してあげる。」
「それはありがたいけど君も学園に早く戻りなよ!?フェリクスくんが可哀想!!」




