SCENE6 出し抜く同僚 SIDE:諜報員 セネン
目の前の赤いアンティークな扉にはぴたりとダイヤモンドが埋め込まれていて、押しても引いてもびくともしない。この扉に足止めを食らってから一体何時間が経過しただろう。徹夜明けで溜まった疲労と、目の前の扉さえ打破すれば結界が全てとけるのにそれができないもどかしさに僕は溜息をついた。リタと結界の主のかれこれ24時間ほど繰り返された軽口の応酬にも僕はそろそろ飽きてきていた。
僕とリタ、ニセタは今最難関ともいえるだろうダンジョンに挑戦している。だが相手は魔獣や暴漢に比べて狡猾すぎて気の抜けないしかもいたずら好きという厄介な相手だった。
そう、このダンジョンの相手、僕の同僚のロベルトは、なかなかに性格が悪い。
今リタがこじ開けるに苦戦している部屋の扉も、彼が廃墟の一部を改造して作ったものだ。魔術に比べて制御が難しい魔法で扉の鍵穴一点だけを攻撃しないと外からは開けられない作りにされているようだ。この三人の中で唯一攻撃魔法の属性を持つリタは(本人は認めないが)制御をあまり得意としない。ここまでを焼き尽くして破壊できただけにこの扉には苦戦している。
そもそもこのダンジョン(笑)攻略の目的は地元であるモアクの郊外の公立図書館に引きこもって研究職に勤しむロベルトを娑婆に連れ戻し、我々騎士団の本部に据えさせる説得をすることだ。そう、だから元来僕一人で1日で終わったはずだったのだ、ロベルトが図書館を魔改造していなければ。
ここ数日、本当に大変だった。
まず図書館に入れない。木属性魔術で覆われた様はもはやジャングルで、やっとの思いでたどり着いたエントランスらしきものは強固に太い茨が巻き付いていてとても開けられなかった。火で燃やすことも考えたがこの広さの庭のすべての茨を焼き尽くすとしたら僕のMPが切れてしまうと思ってとどまった。あの場でリタを呼んだ僕は本当に偉かったと思う。這這の体でジャングルから出て、疲れ果てて入った氷の洞窟の穴から図書館の地下に入れた時にはいかに感情の起伏が乏しい僕でも驚いた。
次の日の朝にリタが到着し(ギルドの所有する早馬で駆けてきてくれたらしいが換算すると平均時速およそ80kmなのと今日が学園登校日なのは気にしないことにした)、朝っぱらから廃墟の図書館は炎に包まれた。が、リタの火力をもってしても焼けたのは庭の樹だけだった。これに大層ご立腹らしいリタはなんども着火(あるいは爆発)を繰り返しなんとか図書館を半壊させるまで来たが未だ最後の結界だけ破られていない。
持久戦を見込んで呼んでおいたニセタもそれなりに速く駆けつけてくれた。聞けばジュステ冒険者ギルドから馬を借りたらしい。ジュステの馬は皆時速80kmなのだろうか。…閑話休題。
「なんでこの扉、あたしの火でびくともしないのよ!」
『鍵になってるダイヤモンド一点だけを狙わなきゃ絶対開かない仕組みにしてみたからな。』
「鬼!」
『なんとでも。』
「あの、セネンさん…」
ニセタが躊躇いがちに僕に寄ってきた。
「これ、二人ともなんだかんだ楽しんでますよね?」
「リタとロベルトは仲が良いから。お互いを理解しているし。」
「…僕、なんで呼ばれ、」
「MP回復と暴走抑止」
「…はい。」
とはいえ、さすがに消耗してきたな。僕がアデラからもらった報酬は二日分しかないからサービス残業しないためにもあと数時間でこれに決着をつけなくてはいけない。
僕はしかたなく口を開いた。




