表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海上のパルーマ  作者: ヒカル
騎士団編
5/61

セネンがゆっくりと校庭の方向を指さした。


「皆、いた。あそこ。」


…が、何も見えない。


「…セネン、お前さんの視力の良さがないと見えねえよ、どこだ?」


「第二校庭の真ん中あたり。飛行術指導してる。」


「ってことは2年生か。ちょっくら借りにいけるかな。」


「補習ぽいから。行ってくる。」


セネンはその場でくるりと回転すると消えた。

―転移魔法。あいつが最も得意とする闇魔法の一つだ。


そういえば、戦闘学科と戦略学科の違いはあっても俺とあいつが仲良くなれたのはお互いに希少な闇魔法属性だったからに他ならないだろう。入試の控え室で自分と同じ真っ黒な髪を見つけてそれは驚いたものだった。闇属性はその髪色故に差別意識を持たれていた歴史もある。同族がいたというだけでなんだか心強かった。


さすがというべきか、セネンは音も立てず帰ってきて静かに囁いた。


「学園長、学園長室に来るって。」


「よし、先行って待ってるか。」



学園長は朗らかな性格で自ら教鞭に立つことも多いためとても生徒に慕われている。彼に助けられた生徒は何人いるのだろう。俺自身も反抗期でグレまくっていた頃は、この部屋に幾度となく呼ばれどうでもいい雑談をしたものだった。

まぁ、3年生から先は俺と一緒にリタも呼び出されていたわけだが。


学園長はあのころから今に至るまで、少しだって変わらない。


「これはこれは。本校始まって以来の秀才たる皆様にまた来ていただけて光栄ですよ。」


ふぉっふぉっふぉ、と豊かな腹を揺らして学園長は笑った。


まるで好々爺という言葉は彼になぞらえてできているようだ、彼を見ているといつもそう思う。寛大な心の持ち主だが、情勢に振り回されるようなことはない芯の通ったお方だ。だからこそこの後の俺らの命運を預けるのに彼ほどの適任はいない。


先に口を開いたのはアデラだった。


「またこの学び舎に足を運べたこと、僥倖と思っております。そして図々しいとは十分承知の上で学園長に折り入っての提案がございます。」


「提案?」


「先の茶会での騒動、学園長もお耳に入れておいでかと存じます。単刀直入に申し上げますと、この学園を騎士団の本拠地にしたいという提案になります。」


学園長はそのふくよかな身をソファに沈めると見定めるようにゆっくりと視線を流して俺を見た。


「こんな突飛なことを考え付くことはお主以外におらんだろう、ロベルト。説明してくれるな?」

俺はゆっくりと立ち上がった。


「よろこんで。」


さあ、ここからが今日の本題だ。


「今、我々そしてこの学園に通う多くの貴族子女にとって多大なる影響力を誇るジェペス一族はこの瞬間において栄耀栄華の絶頂にあると言える。しかしその富を手に入れてなお驕らなかったものが歴史の中に居ただろうか。」


学園長は静かに耳を傾けていた。


「8世紀前、遠き東洋の島国でジェペスと同じことを試みた一族が居た。彼らは皇帝にその家の女子を輿入れさせ、その子を次の皇帝とすることで自分は将来の皇帝の外祖父という地位を確立し固い権力と財を手にした。対抗する勢力はどんなに優秀な者でも濡れ衣を着せられ流刑とされ、その間彼ら一族の重税に堪えられなくなった民が大勢飢え死んだ。

ルーカス陛下とシルヴィア陛下の間に御子が生まれれば、この状態は我々にも必然的に起こり得る。

確かに現在に至るまでの国王成婚の中にも策略に溢れたものは数多あった。しかしジェペスは今や一公爵ではなく宮廷中の実権を握る一族。彼らの子が即位した暁には、国王・王妃両陛下の主権は完全に無視され、ジェペスが実質の王族として振る舞うだろう。」


学園長は一度瞑目すると感情を悟らせない目で俺を見据えた。


「ロベルト、君の話は理解した。君も宮中の人間で侯爵家の跡取りだ、意見としておおいに同感する。しかしその話と学園が例の騎士団に協力することは整合性が見えないな。」


アデラが立ち上がった。


「騎士団は稟議結果の通り『誠意のない違法的国政に持ちうる最大の手段をもって異議を唱える』団体。最大の手段とはつまり、武力行使。」


「わしの生徒を前線に送るつもりか。」


「はい。とはいえ学園からは兵学部の学生だけで構いません。彼らは若く確かな実力と才能がある。そして宮廷内のもめ事となれば他人事と笑ってはいられないはず。彼らの正義感と危機感はこの国一番の質を持っていると言えましょう。」


「しかし君たち全員が兵学部の卒業生なら、分かっているだろう?この学園には貴族社会の掟が通用しなくても貴族子女が多く通っている。彼らが果たして協力するのか?」


「俺は、貴族の子女が通っているからこそ協力してくれると思っている。」


確かにこれに関しては俺も確信があるわけではない。

でも機が熟すのを待ってはいられない理由がある。


「学園長、あなたはジェペスの一族であるシルヴィア陛下やソフィア・ジェペス嬢が通うこの学び舎を常に平等で誠実な学園に保ち続けたお方だ。宮廷内の権力争いに影響されないその信念の強さは他に類を見ない。そんな人を頂に置く独立した組織はここ以外にないんだ。あなたのおかげで我々生徒は忖度に気を取られることなく学びに専念できた。あなたに恩を感じているのは決して俺らだけじゃない。だから、これはこの学園で学んだ学生全員からの国王への恩返しだ。」


学園長は感心した顔でこちらを見上げた。

俺は油断せずに続ける。


「カニス海上から、長年の宿敵ハークがパルーマを狙っている。もう数年で俺たちはまたハークとの国ぐるみの戦争になる。しかも今度はお互いの植民地をかけて争うんだ。つまり消耗戦は必須。戦争中に内乱なんて起こした隙に侵略を受けちまう。今しかねえんだよ、俺らに知識をくれたこの学園を、王を、ハークから守れる瞬間は。」


今まで静かに事の次第を見守っていたロメルが徐に口を開く。


「ロベルトの言う通りです。我々の王はルーカス・パルーマ・エラン陛下ただ一人であり、王族はルーカス陛下、カリナ王女、シルヴィア王妃ただ三人であります。決して、私腹を肥やすために宮廷をほしいままにするセルピエンテでも、ジェペスの一族でもない。」


学園長はゆっくりと大きな笑みを浮かべると大きく頷いた。


これは…どっちの頷きなんだ…!?

俺は内心ひやひやしながら学園長の言葉を待った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ