SCENE5 ぬくもりを知った日 小隊長:ニセト
「『招待状』…?」
学園からいつものように帰ってきて郵便受けを確認すると、そこには見慣れぬ封書が入っていた。
内容を急いで見るとそこには国王夫妻の結婚披露宴の招待状。僕宛てに送られてきたのは、やっぱり貴族出身だからだろうか。
「はぁ…」
僕は億劫だと溜息をついた。
もちろん披露宴そのものが億劫なわけではない。お二方の結婚は喜ぶべきだし、僕だってちゃんと祝福したい、本当にそう思っている。しかしこういった宮廷行事、貴族が一堂に会する場に出席する場には必ずあの両親がいる。6年間、会うどころか連絡すら取っていなかった彼らに、こんなに不本意な形で再会せざるを得ないのか。
*
僕の生家は、お飾りで爵位がついたくらいの庶民的な家だった。それでも貴族の端くれとして一般家庭よりは裕福な生活をさせてもらったし、興味のあることは大体させてもらえた。
でもなぜかあの家は、ずっと冷たかった。
僕は昔から可愛いものが好きだったが、両親がそれを認めることは一度もなかった。大切な一人息子だから、家の跡継ぎとして相応しい男性になってもらいたかったのだろう。僕だってその考えが理解できないわけじゃない。
……跡継ぎが必要なのも、分かっている。
あれは12歳の冬だった。
春が来て晴れて学園生になる前に、両親と話しておくべきだと思った。
僕自身が、これからどうしたいかを。包み隠さず全部話した。こんなものが好きだ、こんな服が着たい、これが僕が自分を表す方法なのだと。ちゃんと話せば分かってくれると思った。それでも、現実はそう甘くはなかった。
告白のあと、両親に何を言われたかはよく覚えていない。いや、思い出したくないのかもしれない。それでも頭にこびりついて離れない父の怒号と母の諦めたような表情、そして、かけられた「失敗作」という言葉。
社会に出て頭冷やせと言われ、僕は最低限の荷物だけ持って雪の降る街を独りで歩いた。1年で最も冷え込むと言われた真冬の夜。愛を取り上げられた衝撃は12歳の心に重くのしかかった。行く宛てなんてなく、ただひたすらに白い道を進むしか僕にはなかった。
きっと本当はどこかでわかっていた。僕のこの想いは報われない、認められない。「失敗作」のレッテルは僕に適うものだ。この世界のどこにも、僕には居場所などない。もうこのまま死んでしまいたい。そんな思いを最後に僕はゆっくりと瞼を閉じた。
次に視界に飛び込んできたのは、眩いばかりの光と灰色がかった見覚えのない天井。
あの世…とは思えないな。体を起こしてみると、僕はどうやらベッドで寝かされているようだった。
「っ、ここは…?」
むくりと身体を起こして辺りを見回すと、知らない女の子と目が合った。
彼女は僕を見てびっくりして、
「あっ、起きたっ、起きたーー!!母さーん!あの子起きたよーーーー!!!!」
大声で叫んで部屋を出て行ってしまった。
少しすると、さっきの女の子が母親らしき人を連れて戻ってきた。
「あら、だいぶよくなったみたいね。気分は大丈夫?」
「治癒魔法の授業真面目に聞いといてよかったぁ~。いつか役に立つってほんとだったんだね!」
「えっ、とぉ、あの…?ここって…?」
突然の知らない空間に僕は困惑の声を上げた。
「あぁごめんなさい。ここは私がやっている宿屋よ。あなたがうちの玄関先で倒れてたから…。娘の力も借りて介抱させてもらったわ。」
「そうそう!あなたね、さっきパンを買いに行こうとしたらドアをあけた目の前で男の子がぶっ倒れてるんだもん!あのままほっとかれてたら絶対凍死してたんだよ!」
僕は、助けられてしまったのか。この人たちに。
……僕ごときが?
「っ……」




