SCENE4 まだ彷徨う 剣士:リタ
「『招待状、リタ・ジュステ様。この度国王ルーカス・パルーマ・エランとシルヴィア・ジェペスが結ばれる婚姻の儀に際して参列されんことを希います。参列の折はこの招待状をご持参のこと。春の45日、大聖堂にて。』……は?」
あたしはこのなにか高級そうな紙をクシャクシャにしないように握りしめ、ズカズカとギルド内を歩いて父の元へと向かった。
「父さん!見てこれ!」
「うん、行け。」
「いやせめて目上げてから返事して!?」
父は書類からは目を離さず胡散げに片目を細めた。
「俺のもとにもそれは来た。三大ギルドの名に恥じぬ衣装がいるな。」
「え、あたしも着るの!?」
「リタ、"あたし"じゃなく"私"だ。」
「今そこ!?」
だめだ、この父と話しているとツッコミが追いつかない。あたしは不貞腐れた子供のように靴を鳴らし、辛うじて不服そうな態度を表す。それにつられた父さんもやはりうんざりした顔でやっと私を見上げた。
目が合っている隙に言葉を接ぐ。
「父さん、貴族の間の沙汰に入るのなんてなんの利益にもならないってわかってるでしょ?学園に居ればわかる、圧倒的に育ちが違うんだ。子爵のフェリクスだって、ギルドにたまに遊びに来る度何度怒られていたことか。平民と貴族は交われない、言うまでもない常識だろう?」
「そこまでわかっているなら我々がこの招待状を無視できないのも分かっているんじゃないか?受け取ったが最後、最高の礼装をして赴くのが国民たるものの務め。今からでもマナー講師をつけて礼儀作法を一通り叩き込め。」
「うぇ。父さんそれは勘弁してよ〜!」
ジュステ冒険者ギルド統合ギルドマスターの仕事部屋にあたしの情けない悲鳴が響き、それを追うように父の笑い声がこだました。
*
ギルドの本部ビル最上階。そこにはあたしの寝室と父さんの寝室、そして数室の会議室もとい空き部屋がある。
皆が寝静まったこの時間は素振りには最適で、あたしはその辺に転がしていた木刀を手に部屋の中で鍛錬に勤しんでいた。ふと目に入った大剣の鈍い光沢に、かつての恩人を思い出す。彼、エスクードが使っていた武器は大剣だった。あの夏の日も、彼は大剣を携えていた。
あたしは振っていた木刀をまた適当な場所に転がして、飾られたその剣にゆっくりと近づいた。この剣は、エスクードの葬式で私がもらった彼の遺品だ。きっとこれは彼が使っていたもののうちの一つでしかないけれど、それでも使うのが惜しくて、またその剣を振るうことで彼を記憶の中だけの人にするのが恐くて、私はまだ大剣だけは握れないでいる。
片時も頭から離れない苦い光景に震えた手が、無意識に首から下げたロケットペンダントを掴み、開けては閉めを繰り返す。
ねえエスクード。この国は変わろうとしている。直に民衆が日の目を浴びる日が来る。でもあたしは、それが本当にいいことなのかまだわからない。世紀を超えての宿敵ハークに負けないため、遅れを取らないため、それだけのことに流血と革命は値するか。平民が国王の婚姻の儀に呼ばれる時代を平等の象徴と言えるか。
わからないよ。
あたしは、まだ弱い。
ロメル達みたいに、進めない。
まだ、そばにいてよ、エスクード。
開いたロケットの中で穏やかに微笑む憧れの人の顔に一雫の涙が落ちた。




