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海上のパルーマ  作者: ヒカル
日常編
44/61

SCENE3 剣を捨てる SIDE 宰相家:アデラ


この国、パルーマ王国が始まって以来、貴族と平民を分ける考え方は世代を超えて浸透している。

しかしこの国の身分体制は他に比べればいたって道徳的なものだとボクは思っていた。遠く大陸の東果てにある大国、仙鹤(シェンク)では、身寄りのない人間は奴隷となり下がり一種の道具として扱われるという。彼の国では彼らや彼らの臓器を売りさばくことで経済を回している商人もいるのはこの大陸においても知れ渡っており、恐れられている。それに比べてみればこの国の治安はそこそこ救われたものだろう。

とはいえ、価値観の移ろいは時の進む速度よりも早い。ギルド連合の手紙からわかるように、国民が我々パルーマ貴族に抱える不満はもう気づかない振りができないくらいに明瞭だった。

平民に生まれ落ちたものは高貴なるものになることは許されず、毎日を労働に捧げてその生を閉じる。高貴なるものは労働の代わりに責任と負わされ、平民の目に晒されながらその生を全うする。どちらが良いか悪いかではなく、そのような特性を持っているのが現状300年近く続いてきたパルーマ王朝における身分制度だ。しかし十年前の夏、ハークとアドラーの首都で連続して平民蜂起が起こり平民政府が誕生したことでこれは揺らぎ始めた。突然のアドラー王朝の終焉、惨殺されただ一人の少年を除いて全員失踪したハーク王家。ニュースは海を越え谷を越え駆け巡り、暴発した平民たちの地力の強さ逞しさは大陸全土に様々な方向へ影響を与えた。誰か一人が創り出した”革命”という言葉がその年の終わりには貴族を震撼させる言葉になった。

パルーマの市民が暴発するのは時間の問題。否、先の騎士団とセルピエンテの対戦ですでにその火蓋は切って落とされてしまったかもしれない。平民は出世のためには貴族にすがるしかない。しかし騎士団はボク達貴族だけでなく国王をも味方につけた平民集団。だから平民からの期待もこれほどに厚い。


ボクには、何ができる?


ボクはロベルトがいなくなってから彼に代わるつもりでずっと騎士団を観察してきた。

ハークやアドラーでの一件を聞いてからずっと確かにそこにあった不安。

目の前で足場が崩れていくのにそちらへ向かって歩いていくしかない、そんな切迫感。


この国でも”革命”が起きるのなら。

自分がその渦中の人間であるのなら。

騎士団がその渦中の組織であるなら。


アドラーが”革命”を起こした夜、アドラーの王都は火の海に包まれ、多くの無辜な市民が命を落とした。

前パルーマ王はそんなアドラーを嘲った。

所詮は脳の無い平民の所業、復興の苦も見据えられぬ悪手、と。

結果的にアドラーはそこから急激に経済を持ち直し世界でも張り合える産業大国になったが、当時の経済学者は皆口をそろえて”革命”がもたらした大不況を批判した。


騎士団が、先のアドラーの平民軍の二の舞にならないためには。

暴力は避けられないのか。

剣は壊せど何も生み出さない。

力以外に戦う術は。


そこまで考えて、ボクはやっとロベルトがこの騎士団から身を引いた理由が分かった気がした。

なるほど、頭が切れる割に細かいことが嫌いなあの男らしい、野蛮な駆け引きだ。

君の言いたかったことは伝わったぞ、蛮族め。


ボクはロメルたちから預かった書類をすべて処理して、ゆっくりとカリナの元へ向かった。

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