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ちょっと勘弁してほしい。
「整理させてくれ、結婚式?彼らはもう結婚しているだろう。」
「しているがまともな挙式は行っていない。まだ神への誓いも立てていない。」
「セルピエンテはそこも省略したのか!?」
「どこまでも急いで国王の義父になろうとしたのだろう。」
宗教色の強いこの国において、多くの国民の戸籍は教会に集められている。貴族の戸籍こそ枢密院書庫で管理しているものもあるが、それもあくまで政治的利用のための複製であり原本は王都の教会書庫と定められている。そもそもパルーマ中の家系図を保管しているのは教会なのだ。
だから、この国における神への誓いは時に宮廷での書面より強い権力をもつ場合がある。教会の持つ大きな役割の一つは祭事。勇者号の授与のような国民的規模のものから、聖職者になるための禁欲の誓いや婚姻の誓いを仲介し記録するのは紛うことない教会の役目である。
しかしあろうことかセルピエンテは娘を王妃にすることに急き宮廷で済ませられる政治的婚姻契約だけで済ませた。仮王妃であるシルヴィア様には政治的権限のみが与えられ、王族にはまだなっていない。つまり戸籍原本においては、我らが両陛下はまだ夫婦関係になく、婚約者のままなのだ。
「それは…早急に婚姻式を挙げられたほうがよろしいだろうが、いや、てっきり国民には内密に挙げられたものだとばかり。だって、ありえないだろう…」
「そういうことをするのがあの男だったわけだ。王族が婚姻式を挙げずに70日以上も仮結婚だなんて尋常ではないけどね。」
「しかし、僕らは騎士服があるとして、シルヴィア陛下は挙式準備に時間がかかるだろう。一体いつ頃になるんだ?」
「軽く180日は見積もりたいところだろうな、本来ならもっとかかるが今から国賓を呼べばできないことはないだろう。」
「というか、そもそもなぜ結婚がさっきの件につながるのか俺は全くわからない…」
ナバーロがため息まじりに言った。
「まぁまぁ見ておきたまえよ!ちゃんとした策とシナリオをボクとカリナで考えていたんだ。今のボク達の評価を持ってすればできない話じゃない、きっとやり遂げてみせる。それに春になればボク達の後輩が学園を卒業するから、きっと力を貸してくれるさ。
…あと、カリナの今までがあまりに不遇だったからね。この機会に彼女を表舞台に立たせたい、なんて私欲もあるかもしれない。」
途中まで元気に話したアデラは、少し目を伏せると奴によく似た顔で微笑んだ。戦略学科卒業生はみんなあんな微笑い方をするのだろうか、すこし懐かしくて期待してしまう表情だった。




