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「ほぼ、脅迫じゃないか。」
「同意する。だからどうするべきか君に尋ねに来た。」
「アデラ、こんなの僕に見せられたって僕じゃどうしようもない。第一これはバエズ家でもなく君一人だけに向けて送られたもの。僕がかかわるのは不躾にもほどがある。」
アデラは長くため息をついて呆れた、といった風に首を振った。
「君は曲がりなりにも100年に一人の勇者で、しかも名ばかりじゃない、近衛に所属した立派な騎士だ。正直、枢密院への影響力が最も高いのは君だろう。」
「とんでもない!君は宰相家だろ?摂政亡き今、宮廷行事の主導権を持つのは君の父上だ。」
「父上は確かに行政の一角を務めてこそいるが、所詮は宰相、枢密院のたてた規則には逆らえない。ギルド連合を本気で枢密院に食い込ませるなら、枢密院に直接掛け合う能力と権限を持った方でないと無理だ。」
「…とはいえ僕はまだ若輩、政治に関してはまったくの素人と言っていい。僕の意見が取り込まれるとも思えないし、門前払いがいいところだよ。」
僕達は黙り込んでしまった。長い静寂の後、アデラがはたと思いついたように口を開いた。
「一つだけ、望みがあるとすれば、カリナに、奏上するのはどうだろう。」
「…それは、意外だな。カリナ王女は大の政治嫌いで公務は引きこもってばかりという話を聞いていたが。」
「それはセルピエンテが自分の影響力を広げるために植え付けたでたらめだ。実際の彼女は病弱なだけで、知識はボクくらい、いや、分野によってはボク以上にある。親友たるボクが保証しよう。あの蛇、成人済みの王姉がそれほどまでに優秀であることを認めてしまえば摂政の地位が必要なくなってしまうから、カリナが部屋を出られないことをいいことに好き勝手言ったんだ。」
「なら、君から殿下に頼むのが筋だろう。しかし、あの枢密院の皆様がはたしてカリナ王女の言うことを素直に受け入れるだろうか。ましてや平民を枢密院に入れるという前代未聞の事を。」
アデラは腕を組み、足元を見つめてうなだれた。絡められた手のしなやかな白い指が上腕をパタパタと叩いている。
「…自分も貴族の端くれだから、わかる。誰も自分が要職についている間に劇的な変化を取り入れようとは思わない。誰だってわが身が可愛いからな。でも、誰かがやらなければならない、そうだろう?」
「大丈夫、ダメで元々だ。いっそ、今から枢密院の会議に乗り込んでしまえよ。枢密院では常に王都の大手新聞社が記事のネタを探している。君が今から行けば、必ず誰かが切り取ってくれるだろうよ。」
「僕はどこぞの蛮族みたく正式な場へ乱入するのはもうこりごりだ。慎重に攻めさせてもらうよ。」
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確かに彼女は数刻前までそう言っていたのだ。だから誰が予想できただろうか。
「デセオ!ロメル!至急礼服の準備だ!近い将来、ロイヤルウェディングが執り行われるぞ!」
―真新しい騎士団幹部の執務室にそんなアデラの威勢のいい言葉が轟くだなんて。




