SCENE3 高尚なる学び舎に親愛を SIDE 軍師:ロベルト
大広間での一件があった次の日。
俺は昨日のメンツに加えて同期のセネン・アナジャと共に俺らが6年間にわたって母校と仰いだ、王立パルーマ魔法魔術学園へ来ていた。
セネンは黒髪黒目と大人しい色の、なかなかかわいい顔をした男だ。驚くほど無口で最初は喋れないのかとも思ったが、軍議では言葉少なに核心を突いた発言をするため侮れない。戦闘学科卒業生らしいキマった言動がおもしれえ奴だ。今日もそれを期待してここに付いて来てもらっている。
ここに来た理由は主に二つ。学園の生徒を騎士団員に引き抜くためと、そのためにまず学園長を味方に付けるため。後者さえ釣り上げれば前者はくっついてやってくるという、大変お買い得なまとめ売りとなっている…かどうかは俺ら次第なわけだが、まぁそのくらいの反響は期待している。それだけここでは学園長の影響力が大きかった。
「リターっ!やっと見つけた!」
遠くから猛スピードで近づいてくる何者かの声に、リタ以外の肩がびくりと跳ね上がった。
ロメルに至っては剣に手をかけている。…これだから騎士ってのは物騒だ。
「フェリクス…いや、違くて、これは、」
「言い訳してる場合!?後期中間試験はもう間近なんだぞ、今回こそ本当にやばいからな!」
「え、まぁでもあたしは…」
「つべこべ言わずに次の実習授業行く!昨日も出なかったのに今日もさぼったら今度こそシュナイダー先生からの呼び出しものだろ!…僕、君の選択科目は把握済みだから逃げられると思うなよ?」
「もう…フェリクス~勘弁してよ~…」
リタはフェリクスに連れられて嵐のように去っていった。
…とりあえずほっとしたのか、ロメルは剣にかけた手を戻した。
「今のは?」
アデラが俺に訊ねた。
「ま、あんたやロメルが知らないのも無理はねぇな。今のはリタのお目付け役で幼馴染の子爵令息、フェリクス・ファラだな。」
「へえ、噂には聞いていたけど…随分お母さんみたいに張り付かれているんだな…」
…いーやいやいや、なに感慨深そうに言ってんだ。お主もロメルとカリナ王女居らんかったらストッパーきかないだろーが。『あんたが言うか・オブ・ザ・イヤー』堂々受賞だわ、隣のロメルの顔見ろ可哀想だろ。
なぁんてね。俺ってば先輩思いの礼儀正しい後輩だから言わねえけど?
「今はとりあえず学園長を見つけるのが最優先だし急ぐぞ…っと?おやおや?」
あれは…俺の面白すぎる後輩のNさんじゃないか?
「おーい!よおニセタ!元気そうだな。と、ソフィア嬢も。ご機嫌麗しく。」
「ロベルト様ごきげんよう!」
「うわ、なんで学園に…知らない間に留年でもしてたの?全くあなたという人は…」
「してねぇから!?ニセタお前、また毒吐くの上手くなったな!?」
「はぁ…先ほどから人に引き寄せられすぎではないか?君のその顔の広さには脱帽するよ。」
あ、さてはこいつそろそろ振り回されるの嫌になってきてるな?…まあいいか。
「これは珍しくもお褒めに預かり光栄で、アデラ嬢?ロメルとセネンにも紹介するよ。こっちの生意気な緑髪がオレの戦略学科6年のニセタ・ミラン伯爵令嬢。こちらは周知の御方だとは思うが戦闘学科5年のソフィア・ジェペス公爵令嬢だ。」
ジェペス公爵と聞き、ロメルとアデラが前へ一歩出てかしづき浅く騎士の礼をとる。
「ジェペス公爵令嬢、ミラン伯爵令嬢にご挨拶申し上げます。オリヴァー侯爵家が次男のロメルです。…件のこと以来ですね。」
「同じくご挨拶申し上げます。バエズ侯爵が長女アデラです。」
「ご無沙汰しておりますわ。」
「お久しぶりです。」
ソフィア嬢は軽くピョコっと会釈し、ニセタはゆっくりと深く腰を曲げて礼をとる。
この学園に通うのはもともと先天的に魔力が高く生まれる傾向のある貴族の子供ばかりだ。
たとえたまにセネンのように魔力の高い平民の子が入って来れても、そもそもここの入学試験はかなり過酷なせいで本当にごくわずかしかこの門を潜ることは許されない。つまりこの学園内も貴族社会の縮図といっても過言ではないのだ。故に貴族の上下関係はこの学び舎にも影響を与える。
「久しぶりです、セネン・アナジャです。」
「わっ、セネンさん!お久しぶりです!」
「あれー?ニセタ先輩、若干テンション上がりませんでしたか、今。」
「えっ⁉いやー、そんなことはないんじゃないかなー?なんて?」
…一方でセネンのような平民の出は貴族社会の軋轢に疲れた後輩に人気を集めやすく、このように学年の垣根なくもてはやされたりする。あとついでに言うとセネンは男だぞ皆。
「さーさー感動の再会はここまでにして、ニセタ、学園長の居場所は分からないか?」
「学園長?」
「話があるんだ。」
あ、とソフィア嬢が言った。
「学園長なら、さきほど5年生の魔術実践の授業で教えていただいたわ。」
「そうなら、まだ学園内にいるはず。情報を下さりありがとうございますソフィア嬢。」
行くぞ皆、と言って簡略な挨拶と共にその場を離れる。
ロベルトが、意外、いった風に呟いた。
「君が敬語を使っているのなんて初めて見た。」
「お前らは俺と同じ爵位だからな。」
「…僕ら、一応君の一個年上なんだが。」
「はっ、しらねえよ。学園じゃ学年より爵位と金だったろが。
第一、セネンを見ろ。こいつなんか貴族じゃねえしこんなかで一番遅く生まれたけど商業ギルドの跡取りで国一番の大金持ちだろ?だからみんな別格扱いで慕ってるんだ。」
「身もふたもなくてすがすがしいよ、全く。」
ロメルは苦笑いして言い捨てた。