SCENE15 カーテンコールのその先へ SIDE 勇者:ロメル
あの戦いから30日が経った。
これまでセルピエンテが隠してきたファビアンの悪事は次々に暴露されていき、ジェペス公爵家への非難は国内外から殺到した。
それに比例して彼らを打倒した騎士団の評判は飛躍的に上がり、先日国王直々に宮廷内の王轄組織になることが許可された。アナジャ商業ギルドを仲介としてバエズ領コロラドと活発に貿易ができるようになったシャエットのリエゾン公爵は、「良い青田買いをしたものだった」と大層ご満悦な手紙を送って下さった。
僕はロベルトの裁判をずっと傍聴していて、正直身震いがした。
リューエットでセルピエンテ私兵が暴れたのは夏の38日のことだった。
これより4日前にロベルトは学園長を抑えて保証人としている。しかもその後約15日の間で、セネンを封鎖されたリューエットに忍び込ませて惨状を確認させ、シャエットへ行きリエゾン公爵と取引をし、エマという加護持ちで生ける証拠を手に入れたのだ。そして兵を十分に休ませるため開戦前に7日間の休養を取らせた。戦っている間も、万が一誰かが使い物にならなくなったとき僕をどこにでも動かせるように、敢えて僕を初手から使うことをしなかった。
彼にはどこまで先が見えていたのか。
どこまでが偶然でどこからが必然か。
彼の提案に乗っておいてよかったものだと僕は安堵した。
「ローメール!」
「うわぁ、ロベルト!……君はどうやって僕のデスクに入ってきたんだ…?」
「転移魔法。てかまた雑用?よく飽きねえなぁ。俺、自分しかできないところ以外は全部エマに投げちまったわ。」
「君の判決はどうだったんだ?」
「無罪無罪。まあなんか証人喋らせなさすぎとかなんだとか裁判官に言われたけど。」
「それはそう。」
「まあだってあそこに居た人たち全員俺の知り合いだから大目に見てくれるだろって。」
「……まて、嘘だろう……。」
「原告の弁護士はよく図書館で勉強してたし俺と同じでハークの法律に興味あるらしいからよく話してた。裁判官は俺が資格取ったあとの実地研修で指導員だった人の同期。」
僕は目を転がして呆れるしかなかった。
きっとこいつの緻密過ぎる戦略もその前の準備も、こうして広げられた人脈から集められた情報によって組み上げられたものなのだ。
知識Lv.100は伊達じゃない。
きっと、ロベルトの脳にはいつでもどこまでも情報が吸い寄せられていくのだ。
「まぁ、騎士団も正式な機関になったわけですし?精々訓練頑張ってねー」
「お、おい君は!?どうするんだよ!?」
「俺?俺はエマへの引き継ぎが終わったら次に騎士団が戦争起こす日まで研究室に引きこもるぜ?」
彼の意外な発言に僕はとても吃驚した。
「なんでだよ!結局のところ、騎士団をここまで引き上げたのも、そもそも騎士団の構想さえ君がやったことじゃないか!」
声を荒げた僕にロベルトは乾いた笑いを混ぜて言った。
「別に、軍師なんて血濡れた職業を他にやらせるつもりはないさ。所詮俺の生まれはしがない平民研究者なんでね、ギルドマスターだとかお貴族様とかそういう類の人種にやらせるべきでない汚れ仕事は俺が全部引き受けてやるよ。ただ単に、俺は研究か戦争以外に向いてるものがないってだけ。」
「だけど、君以上にこの騎士団をわかっているやつなんていないじゃないか。」
「って引き止められると思って!これ、騎士団を戦闘に必要な小隊4つに分けた名簿だ。この小隊ごとに訓練を組むといいと思う。」
「そんな、投げやりな。」
「投げやりじゃねえよ。お前らにならできると思って渡してるさ。」
ロベルトはウィンクを交えて小悪魔的に微笑んだ。
やはり彼はどこまでも挑発的で陽気な男だった。
「君の思う通りに僕達が回せなかったらどうする気だ?」
「そん時はそん時で俺がどうにかしてやるから任せるんだな。ま、じゃそういうことで。」
「…待て。あと一つだけ、いいか。」
手をひらひらと振って去ろうとする彼の背中を呼び止め、僕はずっと思っていた疑問を投げかけた。
「最後の、ファビアンを殺したとき。
……君は、なぜあんな事が出来る?」
「……岩を転がしてすり潰したこと?」
僕は何も答えられなかった。
ロベルトも僕の方へは振り向かなかった。
「味方に死者を出さない戦争が最も理想的だが、人と人がぶつかる以上犠牲は避けられない。代わりに、その犠牲をいかに最小限にするかを俺は競ってる。ファビアンは偶々、こちら側の損失なくして殺すことができた。だから実行した。…まあ?最低な話だよなぁ。皆が命賭けて剣を振るっている間も俺は高みの見物してたわけだ。恨んでくれていいんだぜ?軍師なんてそんなもんだ。」
「そんな…!感謝こそすれ、恨みなんて…」
「おいおい勘違いされちゃ困るぜ。人と人が殺し合うように仕向けて感謝なんてされてたまるかっての。
侯爵子息を騙って3000人を弄んだ平民の俺を、今後も少しでも信用してくれてんならまた戦うときに呼んでくれ、……なんてね。」
じゃあまた、と言い捨てて彼はいなくなってしまった。
手元に残った資料には騎士団の全メンバーの特性が詳しく記載されており、それぞれの名前の横に1〜4の数字が振ってあった。
きっとこれがロベルトの言っていた小隊の番号なのだろう。
資料に目を通した僕は、通信魔術を使ってアデラとリタ、マルティンを部屋に呼んだ。
ロベルトのやり方は合理的で興味深く、カリスマに富む。ただ彼本人の持つ危うさが、僕にとっては不安定に見えて仕方がなかった。
騎士団は華々しいデビューを乗り越えて、今新たな時代に乗り出そうとしていた。
これにて騎士団編、完結となります…!




