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海上のパルーマ  作者: ヒカル
騎士団編
36/61

「さて、リューエットでの惨状が繰り広げられていた頃、私とアデラ嬢はシャエット国リエゾン領におりました。リューエット地方が貿易の相手になるような状態ではないため、その代替案を提示することで先のセルピエンテとの戦いにご協力いただこうと考えたわけです。」


「リューエット地方は元来漁業と製糸業で栄えてきましたが、あの状態からの再興は難しいでしょう。そこで、私達はバエズ領コロラド地方にアナジャ商業ギルドを移設し、コロラドーリエゾン間で自由貿易を約束しました。対価として今回の対ジェペス戦での援軍を賜ったため、今は着実に自由貿易制のための最終調整がバエズ家によって進められています。」


ずっと黙っていた原告の弁護士がやっと口を開いた。


「先程から聞いていても、被告からこの度の戦の明確な根拠が伝わってこないのだがはぐらかさずに答えてほしい。」


「ええもちろんです。と言っても単純なことですよ。このリューエットの事件ともう一つ…モアク街での一件で、ジェペス親子は大量殺人を犯しました。彼らに政治の実権を握らせるのは危険と我々騎士団は判断したので、『誠意のない違法的国政に持ちうる最大の手段をもって異議を唱え』た迄です。正当でしょう?」


「モアク街…あの悲劇の街か。」


「おや、こちらの方はご存じの方もいらっしゃるようで。ご存知でない方のために少しばかり与太話に付き合っていただきましょうか。」


本当は、こんな形でこの話をしたかったわけではないのだがな。

俺は自然に肩入っていた力を抜いて話した。


「世界中の賢人が集まりしのぎを削ってその頭脳で競い合った"才人の都"。15年前、一夜にして消えた幻と悲劇に包まれた知識の泉。それがモアク街です。知る人ぞ知る研究所が軒を連ね、学問を修めたその先が広がる世界だったと言われています。かの街を統治していたのは、名目上ファビアン殿でした。遊ぶ金に困ったファビアンは、15年前のある日、街中の才人を奴隷として売りさばいたのです。」


「ファビアンは当時10歳、政治をするには幼い彼の一言でその違法な人身売買は始まりました。そして彼は街をめちゃくちゃにしたあと、まるで玩具に飽きた子供のようにその地に対する全ての権利を放棄した。

そしてその跡地を買ったのが、我が父、セールズ侯爵でした。」


「侯爵は荒廃した街で一人のガキを見つけたそうです。ガキは砂山をジェペスの居城に見立て、転がっていた石を軍に見立て、幾度も幾度もどうやったら城を落とせるかを考えていたとか。子どもに恵まれなかった侯爵はこのガキを養子にすることにしたーそれが、私です。」


「これでおわかりいただけたでしょう、私達騎士団は何も恥ずべきことはしておりません。誠実ならぬ為政者から強引にでもその実権を奪い、後の国民の犠牲を抑えたと考えています。これによって私や騎士団を罰するなら、私は何も抵抗いたしません。この首でも差し出します。しかし私達の此度の活動は、私達のみならず王国のためであったこと、ご留意いただければ幸いかと。」





その後の事務処理は滞りなく進み、判決は後日ということで裁判は閉廷となった。


俺の裁判は事細かに新聞に描かれ何重にも刷られて翌日の朝刊の第一面全部を占めた。


なんだかどっと疲れた上に俺の生まれが貴族ではないことがこれで国中に明らかになってしまった。損した割に得るものの少ない裁判だったな。


…裁判なんてみんなそんなものか。


何年かぶりにとても甘いスイーツが食べたい気分だ。帰りに王都一番のパティスリーにでも寄って帰ろう。

まあ大丈夫だ、あとはソフィア嬢とかアデラとかシルヴィア様とかデセオとかまぁなんかその辺がいい感じに舵を取っていってくれるだろ。


俺は法律学者だった実の親に似たのか、どうやら研究室に閉じこもっているのが一番性に合うらしいからな。しばらくは外に出なくても怒られはしないだろ。


手を頭の後ろで組み、鼻歌を歌いながら俺は夕日の落ちる石畳をパティスリーに向かって歩いていった。

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