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海上のパルーマ  作者: ヒカル
騎士団編
34/61


その日、エマは地元の保育園で子どもの世話を見る手伝いをしていた。

そうすることで家計の助けになればと、10の頃から2年にわたって休みなく行っていた仕事だった。


帰り際に母親に頼まれた人参を買おうとして八百屋に立ち寄ったところ、馴染みの店主が釣り銭と共に伝えたのは両親の訃報だった。


そこからのエマの記憶はなんともぶつぎれであった。


混乱の最中にあるリューエットを逃れたエマは様々な街を転々として冬を越し、春を迎え、夏を乗り切り、秋になる頃には遠く地元から離れて王都にいた。


その頃のリューエットでは反アナジャ・ジェペス派が更に猛勢を振るっていた。


秋の終る頃、セネン含むアナジャ家が総勢でリューエット地方を離れることでこの騒動は幕を閉じた。その後からは商人自治が敷かれるようになり、リューエットは再び平和を取り戻したかに見えた。



そう、自治開始5日後にビクトル・ジェペスが暗殺されるまでは。



名目上の領主までもが暗殺されることによって、真の自治を手に入れたと浮かれたリューエット商人たちはさらに活気づき、重税に苦しむことなくシャエット国リエゾン領との自由貿易に踏み切った。



しかしこの事態を弟を失ったセルピエンテが見逃すわけがなかった。



ビクトルが暗殺された翌日、彼はリューエットに入るためのありとあらゆる関門に私兵を配置して封鎖し、如何なる人の出入りも禁止とした。


そして女子供誰彼構わず中の住人を惨殺したのだ。


かつて繁栄を極めた港町は一連の騒動に加えてジェペスの私兵による乱暴で荒廃した瓦礫の街へと様変わりした。


死体が転がり、腐臭漂う街に在りし希望はもうない。


エマは半年もの間、王都から加護の力を使って故郷の行く末を毎日欠かさず見守っていた。


昔勤めた保育園も、母に初めて自分の服を買ってもらった商店も、皆で魚を競って売った市場も、すべてがジェペスの一族の兵によって壊されていくのを遠く異質な地から見守っていた。


それなのに王都には故郷の悲劇が伝わってこないことの、なんて不気味なことか。


一つの地方が封鎖されても宮廷はなにも知らずにいるということか。


じきに王都も戦場になる、そんな予感をおぼえてシャエット国の方へ亡命しようとした矢先にエマが出会ったのが


―俺、ロベルト・セールズだった。

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