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「それでは、私闘の容疑で被告ロベルト・セールズの刑事裁判を開廷いたします。総員、礼。」
中年の裁判官が宣言した。
貴族刑事裁判における原告は王族だ。ここで俺はシルヴィア王妃に訴えられている。
法廷内も傍聴席も一斉に立って裁判官と立ち合いの王妃に向けて礼をする。傍聴席には騎士団のメインメンバーも多く座っていた。こんなに知り合いが多ければこちらも精が出るというものだ。
「原告側の答弁を、どうぞ。」
王妃の隣に座っていた若い女弁護士が立ち上がった。
「被告ロベルト・セールズ、以下被告は、夏55日から夏56日早朝にかけて私兵を率いて故セルピエンテ・ジェペス及び故ファビアン・ジェペス両名と宣戦布告状を他の第三者に受理させぬまま私闘を行い、平民28名、貴族2名、流浪人無所属40名を栄光無き死に至らしめた。これについて、被告は5億リルの賠償を行うことを請求する。」
「被告側、異議申し立てをどうぞ。」
「自己弁護を申請します。」
「自己弁護を許可します。」
さあて、いっちょ派手にやってやりますか。
ぶっちゃけこの国の法律学を修了してから2,3年経つからもう少し復習時間が欲しかったものだ。弁護士資格を取ってからというもの、ずっとハークの法律を読み漁っていたせいで全く心の準備も頭の準備もあったもんじゃない。
やれやれ、と首を回して裁判官に歩み寄る。
「まず、この文書をご覧ください。」
俺は学園長からもらった宣言書を裁判官に提出した。
「これは夏の34日に王立パルーマ学園長シュミュエル・シュナイダーが署名なさったものです。これについてご本人に確認をとっていただいても構いません。これはまごうことなき第三者の介入であり、彼は先の戦争におけるすべての事態の一切の責任を負うことに同意しています。よって先の衝突は私闘とは言えません、正統な決闘です。」
裁判官の表情がわずかに変わった。
「また、これは同人の学園長室に保管されている宣戦布告状の完全複製です。複製魔術が使われている事、ご理解になられると思います。貴族間における宣戦布告状は通常宮廷に提出されますが、貴族法の規定条項によれば王立機関の責任者が受理すれば承諾されたものとみなして良いはず。これをもって異議とし、こちらの複製書も証拠として提出させていただきます。」
「…受理しました。続いて、原告側の主張をどうぞ。」
若い弁護士は一瞬苦々しい顔をして、しかしすぐ真顔に戻してつづけた。
「被告は王族の許可及び介入なくして先の衝突を起こし、先に述べたジェペス親子を亡き者にしました。これはまったく根拠・動機なきことであり、一方的蹂躙と言えるのではないでしょうか。」
「被告側、異議をどうぞ。」
「証人喚問を申請します。ソフィア嬢・エマ嬢両名に来ていただきたい。」
「申請を受理します。両証人、ご来廷下さい。」
2人がやや緊張した面持ちで入ってきた。
ちょっくら切り込み始めるか。
「この法廷における如何なる偽証は偽証罪として処罰の対象になります、正直にお答えください。ソフィア・ジェペス嬢にご質問いたします。貴女の叔父にしてジェペス分家当主、ビクトル・ジェペス殿はどこで何をしていらっしゃいますか?」
「わたくしの把握しうる限りでは、ジェペス領リューエット地方を統治していらっしゃるかと。」
ソフィア嬢の隣でエマがわずかに身震いする。
「それではエマ嬢、ソフィア嬢の言ったことは今現在においても事実ですか?」
俺の質問にソフィア嬢含めた傍聴席の全員が息をのむ気配がした。
「かつては、それが事実でした。今は、それは事実ではありません。」
法廷は静寂に包まれた。




