SCENE13 とどめ SIDE 宰相家:アデラ
騎士団が作戦本部を構える山の中腹からは、相対した山に布陣したセルピエンテ軍本陣がよく見える。
長い行軍のあとすぐに戦って疲弊した兵達の退却してきた姿。
彼らとは対照的に、宮廷内のように優雅に飾られたセルピエンテがいると思われる本部。
ニセタ嬢たちが奇襲をかける様。
陽が落ちてから登るまでに見たものすべてを、ボクは共鳴魔法によってありのままにロベルトへ伝えていた。
(そうか、あいつらやれたか。)
ロベルトは満足そうにくつくつと笑った。
【分離した"あの人"率いる軍は少数ながらも精鋭揃いに見受けられる。叩くに越したことはない。】
(そうだな。じゃあ、手筈通りに。)
【了解】
見れば、セルピエンテ本陣から分離した軍は既に山の麓まで到達しつつあった。
ボクたちには気づいた様子はない。
さぁ、最後のトドメだ。
「潜伏軍、第一陣形を取れ!」
ボクの号令でサルマとエマが配置につき、他の皆も彼女たちに倣う。
昨夜、ロメルを送り届ける前までの時間で何度も確認した。ボクの最低限の指令だけで動けるように演習を重ねさせた。
あの軍を王都に帰らせてはならない。
ここに集められた土属性と水属性の全員の働きにボクの風魔法を加え、”あの人”を妨げる大きな壁になる。
「展開!」
エマ率いる水魔法手が山腹に掘られた溝に向かって一気に水を流す。
加護持ちである彼女は、先天MPが王族を凌駕するほど高い。
加護自体眉唾物と思われがちな力ではあるが、実際非現実的なほどエマは強かった。
彼女の力を以てすれば、数分前まで無かった小川を山に作ることさえ可能なのだ。
そう、ボク達が潜伏していた意味。それはこの突如現れた川でセルピエンテ軍残党…セルピエンテの長男たるファビアンの王都への退路を塞ぐことだった。
しかしこれだけでは足らない。
ファビアン軍が川に気を取られているうちに違う手を用意する。
「第二陣形!」
水魔法手が後退するとともにサルマ率いる土魔法手が前進する。
「展開!」
土魔法は一見すると地味だ。
土弾や石を飛ばせる魔法程度にしか認識されず、弱い属性という固定観念が今でも根強い。
しかしそれは強化された土魔法を知らないから言えることであって、土魔法ほど殺戮において恐れるべきものはない。
なぜなら、山から麓に向けて転がされた岩は軍を蹂躙するエネルギーを持つからだ。
サルマ達によってごろごろと転がり落とされる岩々は、すべてが直径2mを超える。それをここ、標高700mから転がしたら、麓に着くころにあれらはどれほどのエネルギーを持っているだろう。
エマたちによってつくられた川は、ファビアン軍の足元をいともたやすく沼地へと変えた。
そこで立ち往生してしまった敵兵たちの上を、容赦なく岩が通り去っていく。
ここは山間。逃げ場はない。
辛うじて岩の攻撃を免れた兵が一人、また一人と弱弱しく飛行術で飛び去って行く。
彼らは別段どこへ逃げるでもなく、山の向こうへ頼りない舵を切って消えていった。




