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火の向こう側で、敵の本陣から少数の部隊が分離した。
まさかセルピエンテに逃げられたか、とその正体を見定めようとしたその時、突き抜けるような慟哭が僕の肩を揺らした。
最初はただの雄叫びしか聞こえなかったが、よく聞いてみてそれは報せだったと気づく。
『騎士団リタ・ジュステ、セルピエンテ・ジェペス討ち取ったり…!』
味方から発せられたその勝鬨は、戦場全体に響き渡った。
何拍かおいて意味を呑み込んだ僕は、気が抜けて防御魔術を解いてしまった。それでも降りかかってくる矢はないことにじわじわと実感がせりあがってくる。
勝ったんだ、僕たちは。
勝ったんだ!
僕は感情のままに木から飛び降りて夢中になって走った。
「リタ!」
「ニセタ。」
リタはいつもの無感動な面持ちで振り向いた。
「君が、討ったんだね。」
「そう、あたし。が…」
彼女がハッとした顔で下を向く。
「リタ?」
問いかけた瞬間、リタが吐いた。
「え?えっ?僕なにかした?」
「気にするな。そのうち吐かなくなる。」
困惑する僕の隣を通り抜け、ロメルさんが落ち着いた様子でリタのそばに寄って背中をさすった。
僕も少しでも今回の功労者が楽になれるよう心持ち程度の治癒魔法をかける。
生き残っていた兵とも喜んで無事を祝い合った。
将を討ち取られてもなお僕たちに戦を仕掛けてくる敵兵はいなかった。
「リタさんが全部やってくれたんすよ、おれが苦戦してた相手も一発でぶっ飛ばしてくれて、マジで規格外に強いのになんでもない風で!すっげぇかっこよかった!」
ある騎士が興奮して話してくれた。
そうか、リタは感情を押し殺して責務を全うしたんだ。
少し、先輩として誇らしいかもな。
「ニセタ。」
リタが僕に向かって歩み寄る。
「その、さっきはごめん。顔見た瞬間吐いたりして。」
「あ、ううん。全然。僕だって何の役にも立てなかったし…」
「え?」
リタは訳が分からない、という風に首をかしげて言った。
「着地の時、皆を助けてくれたじゃん。それだけですっごく助かったよ。」
あぁ、もうやだな。
泣きそうだ。
陽はすでにその頭を地上にのぞかせようとしていた。
それはこれから起こる民衆の時代の幕開けを象徴しているようだった。




